話して~♪

私の話も、あなたの話も

次男

2007-06-19 11:57:12 | 花日記 
入梅を裏切って本当に暑い日でした。
白雪をまとう南アルプスの稜線を遠くにしながら
次男はたった3投に3年間の自分の全てを込めようとしていました。

強い日差しの中、音を失ったような静寂を切り裂きながら
鉄の球は線の外に落ちました。

次男はいつもニコニコしていてご飯を美味しそうに食べる幸せな
あかちゃんでした。長男は生まれてすぐから弟を宝物のように
かわいがり、ほほを寄せてたくさんの写真を撮るようねだりましたし
どこへ行くにも連れて行き、お留守番の時にはおしりも拭いてくれ
るほどでした。

長い闘病を余儀なくされて死をみるだけの元受け持ち患者さんがいて、
その女性が息子の写真をくれないかと言って来たことがありました。
楽しいことのなにもない毎日の繰り返しにただ憂鬱になるから
悲しいときに彼の満面の笑顔の写真をみたいと言ってくれたのです。

私たちが心を尽くしてケアするたくさんの時間でも出来るかどうか
わからなかった励ましが息子の笑顔一つで一瞬に出来てしまえる。
ありがたく、うれしく思いました。

でも、競争心や上昇志向が亡くて自己完結的に幸せな息子にとって
学生生活は余り興味がなく、とくにやりたいことや目標もなく
趣味もなく、友達もほとんど必要なくて家族を心配させたこともありました。


そんな息子が初めて打ち込む物を見つけた。それが今の競技でした。

「インターハイに行きたい。この先もずっと競技を続けたい。」

と言う息子の目標は、私たちを驚かせもしましたが何よりも何かを自分で
見つけられたことが嬉しかったのです。
何とかかなえてやりたいと思いました。

親というのは本当に不思議なものですね。
サークルに向かって歩く息子の姿を見るだけで全部が見えるような
気がしました。
どこか力が集中せず、焦りつつぼんやりした感じです。
下を向いて歩いている姿には燃えあげるようなエネルギーが見えて
来ませんでした。その時点で今回の記録が出ないことがわかって
しまったのです。
私は祈りました。

「どうかこの経験が、彼のためになりますように。精一杯を尽くせますように。」

最後の一投はファール。
彼の挑戦は、長い時間の果てにあっという間に終わりました。
全身の力が抜けて放心状態の息子には私の姿も映らないようでした。
何の声もかけず、掛けさせずに集合させられて行く後ろ姿は、大きな背中
のはずなのに、小さく揺れて見えました。


5日ぶりに帰ってくる息子に、おいしい物を作ってあげようと
色々準備し、好きな和菓子も買って待っていました。なんて声をかけようか
もう気持ちを切り替えて来ただろうか。あれこれと思いめぐらせていました。

帰ってきた息子は、小さくただいまと言って
「ごめん」
と私に言いました。がんばったよ。と言いましたが、
「がんばれてなんかないよ、全然。」
と言って、ご飯もいらないと部屋に入ってしまいました。

今まで立ち直りが早く、おいしいご飯を食べてお風呂に入ったらみんな忘れて
しまえるおめでたい息子はもうどこにもいなくなっていました。
大人になってしまった。
もう抱きしめたくらいでは心が楽にはならないのだと知りました。

やっと一人になれて扉の向こうで声を上げて泣いている息子に
私は何もしてやれなくて、ただ同じように泣いていました。


これが現実の結果だと、でも本当によくやったんだという夫の言葉を聞き
ながら、それでもどこか私の育て方には自信を不足させるような落ち度が
なかったか、応援に行った私の顔が曇っていなかったか、もっと出来ることは
なかったのか・・・今夜だけは涙は止まりそうにありません。

そう思っていたら、長男がDVDを持って帰ってきました。
先日の記事に書いた竹取物語の録画です。泣き止んだ次男も、私も、
家族みんなが長男の明るい声に誘われて上映会になりました。

ストーリー性のあるイントロ。軽快なダンス、メリハリのあるストーリー
悲しい別れの名演技・・・最後には物語の本を閉じて幕も閉じる。
元気なエンディングに、最後はみんなのウルウルも大きな笑い声になって
行きました。

私に出来なかったみんなの笑顔を長男が作り出してくれた。
弟は、普段から頭の上がらない兄に憧れと共に劣等感を抱いている
ようでしたが、人はそれぞれに違う魅力を持っていなければ、こんな
一日を過ごすことも出来なかったでしょう。
可愛いからこその兄の励まし、気がついたかな?

みんながあなたを愛してるよ。