MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2038 ロブスターやタコですら痛みは感じる

2021年12月11日 | 日記・エッセイ・コラム


 11月30日付の時事通信は、イギリスで行われた調査でロブスターやタコが熱さや痛さなどの「苦痛」を感じている(可能性が高い)とされたことから、同国では調理のためにこれらの個体を生きたまま茹でることが法律で禁止される可能性が出てきたと報じています。

 記事によれば、今年5月、英国の国会には動物保護推進の観点から哺乳類など脊椎動物に知覚があると正式に認める動物福祉法改正案が提出されており、現在、内容についての審議が進んでいるということです。

 これに関連し、動物保護団体の要請を受けた英国政府は、(無脊椎生物である)軟体動物や甲殻類を「知覚」動物に含めるべきかどうかの「根拠」となる調査をロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に依頼していた。そして今回、同委託調査で、タコやイカ、カニなどにも苦痛を感じる「知覚」があるとする報告書がまとめられたと記事はしています。

 LSEの専門家チームは300以上の研究を精査し、この11月、ロブスターなどが痛みや苦しみを感じることを示す「強固な科学的証拠がある」と結論付けた。とりわけタコは、こうした(無脊椎)生物の中でも知覚能力が高く、配慮が必要だということです。

 改正法案については、すでに報告を踏まえた修正案が調製されている。このまま可決されれば、これら生き物の扱いに関するルールが同法にのっとって決められることになると記事はしています。なお、ロブスターを気絶させることなく熱湯に通すことについては、スイスやノルウェーなど数カ国ですでに法律などにより厳に禁止されているということです。

 さて、同記事によれは、英国政府は「規制が飲食業や漁業に与える影響を懸念する声があるが、甲殻類の捕獲、レストランの厨房(ちゅうぼう)に直接の影響はない」(環境・食料省)と説明しているとのことです。

 しかし、(日本への影響として)気になるのは、そういった「手間」だとか、「価格」といったものばかりではないでしょう。私たち日本人がこの記事を読んである種の「違和感」を覚えるのは、言うまでもなくそこに欧米的な、(言い換えればキリスト教的な)「偽善」のにおいを感じるからに外なりません。

 欧米のように環境や野生といったものと対立的な構造をとらず、仏教的な世界観や農耕社会の伝統として自然や生き物との共存関係の中で生きてきたとされる日本人。私たちにとって、(狩猟民族の伝統ともいうべき)彼らの振る舞いのほうが、時に残酷で傲慢に感じられるのにはそうした背景の違いがあるのでしょう。

 振り返れば、16世紀以降の重商主義政策と産業革命によって世界に君臨し、アフリカからの奴隷貿易やインド産のアヘンを使った三角貿易などで巨万の富を得てきたのが大英帝国です。

 現在に至るまで、(そこに)アジアやアフリカの人々を武力でおさえつけ、あるいは地域を割拠し、欧米の文化や価値観以外のものを「野蛮」なものとして排除してきた歴史を反省する気配はありません。

 中でもよくわからないのが、こうしてロブスターやタコの痛みを慮りながら、その一方で人種による差別や格差をあまり気にしていないようにも見える彼らの姿。自らを世界標準と考え、「人権」という言葉を振りかざして自らの規範を押し付けてくる一方で、それに反するものを「現状変更への試み」として排除することを厭わない彼らの自覚のなさを、「傲慢」と受け止めているのは何も中国共産党の指導部ばかりではないでしょう。

 もちろん私自身、欧米先進国の基本的な人権などに対するリベラルな態度には全面的に同意します。しかし、大きく見れば、彼らの持つこうした(ある種の傲慢な)感覚は(現在、国際社会で広く議論されている)地球温暖化への対策や核兵器も含めた軍事バランスの決め方、経済のルールーづくりなどにも及んでいるような気がします。

 動物愛護も大切かもしれないけれど、世界にはもっと目を向けなければならない命や、共感すべきプライドがあるのではないか。
紳士・淑女の国と自称しながら、自らと違うものを見下してきた(アングロサクソンを中心とした)彼らのスノビッシュな振る舞いに、ロブスターやタコとわが身を重ね合わせる途上国の人々も(もしかしたら)多いかもしれないと、記事を読んで改めて感じたところです。



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