「燃え尽き症候群(バーンアウト・シンドローム)」という言葉があるそうです。燃え尽き症候群とは、それまで目標に対してモチベーションを高く保っていた人が突然やる気を失ってしまう症状のこととのこと。努力に見合った結果が出なかった際、もしくは目標を達成したことで打ち込めるものを失った際などに、「朝起きられない」「仕事に行けない」など鬱病の症状が現れたりするということです。
燃え尽き症候群の原因には、一つのことに集中して頑張りすぎることが挙げられる由。長い人生、時には「頑張る」ことも必要でしょうが、体力・精神力の限界を超えて身体に負担をかけてしまうと、その反動で(いわゆる)「心が折れる」状態が生まれることもあるのでしょう。
思えば、子どものころから「頑張ってね…」と言われることの多い日本人。本当はつらくても我慢して、知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでいる人も多いはずです。しかし、それでもやらなければいけない時もある。では、そんな際にはどうしたら効率的に成果を上げられるのか。
5月7日の総合情報サイト「現代ビジネス」に、元オックスフォード大学シニア研究員の脳電気生理学者下村健寿氏が、『「努力」ほど効率の悪いものはない…「やりたくない仕事」でも最短時間でこなす「意外な方法」』と題する一文を寄せていたので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。
仕事のパフォーマンスを大きく左右するのが「モチベーション」。脳内にある「快感回路」を刺激することにより、モチベーションは高まると下村氏はこの記事で語っています。
人が何かを成し遂げるときにカギとなる物質がある。それが「ドーパミン」だと氏はこの論考で指摘しています。脳の奥深くにある「腹側被蓋野」で作られるドーパミンが、神経回路を通じて脳の「側坐核」と呼ばれる部位に放出される。これが脳に「欲求が満たされた」という感覚、つまり快感を生じさせ、満足感を得ることができるということです。
腹側被蓋野と側坐核を結ぶ神経回路のことを(通称)「快感回路」と呼ぶが、それは脳がハイパフォーマンスを発揮しているのが、この「快感回路」が活性化されているときだから。氏によれば、人が趣味に没頭しているとき、充実した仕事をこなしているときなどは、必ず(この回路を通じて)「充実感」という快感を感じているということです。
結局のところ、人はこの「快感」を求めて一生懸命物事に取り組んでいるに過ぎない。そして、一生懸命に取り組んでいるとき、脳はハイパフォーマンスを発揮していると氏は言います。
つまり、脳のパフォーマンスを向上させるためには、物事を楽しむ、すなわち快感を感じる必要があるということ。この日本では、子供のころから「我慢や努力とは尊いものだ」と教えられてきた人も多いと思うが、脳のやる気を引き出して何かを成し遂げるには、「努力」は最も効率の悪い方法だというのがこの論考で氏の指摘するところです。
(敢えて意識しなければいけないような)努力とは、「いやなことを我慢して頑張る」ことでしょう。しかし、いやなことをいくら頑張って続けても、残念ながらドーパミンは出てこないと氏は話しています。
一方、好きでやっている人はやればやるほどドーパミンが脳内で分泌され、快感回路が刺激されてずっとやり続けることができる。つまり、脳のやる気を引き出すためには、目標とすることを「好き」になる、またはその目標を達成することで快感が得られる方法を見つける必要があるということです。
しかし、社会生活を送るうえでは、自分にとって「いやなこと」「気が進まないこと」でもしなくてはならない時がある。面倒な仕事、ストレスのたまる作業もあるでしょう。そうした、大事な仕事だと判ってはいても、モチベーションを持って楽しんでやることが難しい作業をどのように効率的にこなしたらよいか。
このような場合、ドーパミンを介した快感回路を刺激することが効果的だと氏はここで提案しています。気が進まない仕事をするとき、まずは求められている成果の1.2倍の成果を生むことを目標にする。求められている成果よりも、さらにクオリティの高いものを自分の意志で目指すことから始めてはどうかという提案です。
これによって、嫌な仕事に対してハードルの高い目標が設定されるため、仕事に対する感情面に意識が向かず、「目標を達成すること」に意識が向くと氏は言います。人は、目標を達成することができれば充実感や達成感が得られることを知っている。このことにより快感回路が刺激されるので、いやな仕事も「ゲーム」として進めることができるということです。
しかも、その結果は、嫌々やった場合よりも質(クオリティ)の高いものになる。仕事術と時間術を考えてやりたくないことを効率的に進めるためには、ワンランク高い目標をあえて自分で設定すること。そして、その目標を達成することで感じる充実感(快感)を報酬にして、一気に進めるのが効果的だということです。
さて、確かに「どうせならここをもっと良くしよう」とか、「折角この勉強をするなら資格を取ってやろう」とか(「どうせ勉強するなら東大に入ってやろう」とか)、いろんな欲が出てくると俄然やる気になったりするのはよくある話。義務だと思って仕方なくやるのと、自分にプラスになると思って戦略的に望むのでは、同じ作業でもずいぶんやる気もが違ってくることでしょう。
思えば、部下や子どもをやる気にさせるのも同じこと。やる気スイッチのきっかけが能動的な目標設定の中にあることを、私も記事から改めて感じさせられたところです。
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