MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2037 空席の目立つオフィスが見せる未来

2021年12月09日 | 社会・経済


 新型コロナ拡大の影響を受けて、東京都心のオフィスビルの空室率が上昇を続けているとの記事を11月10日の「NEWSポストセブン」で読みました。オフィス仲介大手の三鬼商事によれば、直近1年間の東京ビジネス地区(都心5区=千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の坪当たり平均賃料は1年間で8.2%下落し、空室率も1年間で3.00ポイントの上昇を見ているようです。

 一般に、オフィス市場では、空室率5%が市況の温度感を図る目安とされており、空室率が5%を超えると「景気が悪い」→「借り手が少なくなる」→「賃料が低下する」という負のスパイラルを描くようになるということです。一方、9月現在の東京ビジネス区域の空室率は6.43%。平均賃料は今後も継続して低下すると見込まれており、このままでは需給バランスが崩れオフィス市場は大混乱するのではないかという懸念も広がっているとされています。

 実際、神田や新橋あたりのオフィスビルを除いても空きフロアの存在がそれなりに目立つようになりました。そういえば、仕事で時折訪れる都心のいくつかのオフィスでも(大企業になればなるほど)テレワークで空席が目立ち、売り上げとは関係なくどこもガラーンとした雰囲気となっています。

 以前は(専ら若い男女で)賑やかだった退社時間帯のオフィス街も、なんとなく寂しいクリスマスシーズンを迎えているように感じます。思えば、コロナのパンデミックが始まってから早2年。仕事の仕方がすっかり変わってしまった現在、コロナ以前のオフィス街を闊歩していたビジネスマン、ビジネスウーマンたちはいったいどこへ行ってしまったのでしょう。

 こうしてガラガラになったフロアを見て、今まで彼らは(毎日ここに来て)一体何をやっていたのだろうと不思議な思いに枯れられるのは私だけではないようです。11月10日の日本経済新聞「Opinion」欄では、同紙論説委員の半沢二喜(はんざわ・ふたき)氏が、「学びなおしで配置転換に備えを」と題する気になる論説を寄せています。

 ある経営者の「オフィスのフロアだけじゃなく、人もこんなに必要ないと思ってしまうんですよね」という言葉に代表されるように、テレワークを機に業務プロセスを抜本的に見直した結果、人員に余剰感を感じる企業が増えていると半沢氏はこの論説に綴っています。

 多くの経営者は、(遅かれ早かれ)これに似た状況に直面するだろう。デジタル化に加え人工知能(AI)やロボットの活用で、目の前からなくなる仕事は増えていく。世界経済フォーラム(WEF)の予測では、2025年までに事務職や工場労働者など8500万人分の雇用が失われ、データアナリストなど9700万人分の仕事が新たに生まれるとされているということです。

 「技術革新」が労働に影響を与えた例として、1980年代のマイクロエレクトロニクス(ME)革命があると氏はここで話しています。半導体技術で産業機器が高度化し、省力化による雇用悪化が懸念された。しかし、(その際)多くの日本企業は従業員の再教育で配置転換を進め、雇用を守ったということです。

 しかし今回は、ホワイトカラーも広く対象に含まれるため、もっと大規模な配置転換を迫られることになると半沢氏は見ています。一方、(人も企業も)果たしてそうした状況への備えが本当にできているのか。聞こえてくる限りでは、日本企業もデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進で人材育成に力を入れ始めたと氏はしています。「リスキリング(学び直し)」という言葉も次第に広がり始めた。ただ、そこにはスピード感や広がりが物足りないというのが現状に対する半沢氏の感覚です。

 情報処理推進機構(IPA)が今年夏に実施した日米比較調査によると、リスキリングについて「実施していないし検討もしていない」という日本企業は46.9%に上っている。同じ答えが9.8%だった米国企業との差は大きいと氏は言います。技術革新が速まり、社員が持つスキルは短期間で陳腐化するようになった。医療機器など伸びる分野へ事業ポートフォリオを変えていくために、専門の人材も必要になる。事業構造を変えていくために社員にスキル転換を促し、社内で労働移動を進めていくことは、終身雇用の日本企業の多くが目指すべき道だというのが氏の認識です。

 さらに遠い将来を望めば、オフィスという(社員が集う)共通の場所を失ったサラリーマンたちは、(テレビドラマの「ドクターX」ではありませんが)個人が磨いたスキルだけを頼りに企業の利益に対する貢献を求められるという、生き残り、サバイバルの時代に放り出されることにも想像に難くありまえん。

 新型コロナのパンデミックは、「仕事の仕方」というシンプルな意味において、大きく時代を画するものとなることでしょう。価値は(良くも悪くも)オフィスでの活動が生み出してくれるものではなく、個々の社員が積み上げていくもの。そのような環境では(言うまでもなく)時代に合わせた個人のスキルアップが欠かせません。

 そのためにも、政府には(これまでのように人材育成を企業に任せるのではなく)公的職業訓練を大幅に拡充することが求められている。「失業なき労働移動」を実現するべく政労使が力を合わせて備えを急がなければならないとこの論説を結ぶ半沢氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。


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