MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1983 かつて中国は世界の中心だった(その1)

2021年10月03日 | 国際・政治


 NHKの総合テレビで放映されている「キングダム」というテレビアニメ作品を、自動録画にして毎週観ています。このシリーズが始まったのは、今からすでに10年近く前のこと。2012年の第1シリーズに始まり、2013年の第2シリーズ、そして2020年4月から第3シリーズが放送されてきています。

 古代中国で初めて中原を統一し、以来、現在まで続く中央集権国家の基礎を作り上げた「秦の始皇帝」。そして、その統一の右腕となった大将軍「李信」との友情と活躍を描くこの物語は、漫画の単行本も、2021年7月時点で累計発行部数8300万部を突破。過去に実写映画化もされているのでご存じの方も多いと思います。

 時は紀元前3世紀。500年もの争乱が続いていた古代中国の春秋戦国時代末期の中原の片隅で、最西の国・秦に生まれた戦災孤児の「信」は、ひょんなことから少年だった第31代秦王・嬴政に出会います。そして、二人は幾多の戦いをくぐり抜けながら成長し、「中華の統一」と「天下の大将軍」を実現していくというストーリーです。

 本作の主要登場人物は、紀元前1世紀頃、中国前漢の武帝の時代に宦官司馬遷によって編纂された中国の歴史書である「史記」に登場する実在の人物達がモデルです。舞台となった広大な中原を、様々な魅力的なキャラクターが縦横無尽に駆け巡り、覇を競いあうというスケールの大きさがこの作品の魅力と言えるでしょう。

 中国の歴史書としては、後漢末期から三国時代(180年頃 - 280年頃)にかけての群雄割拠の時代の、「魏・呉・蜀」三国の興亡を記した「三国志」が有名ですが、この作品に描かれているのはそれよりもさらに500年ほど以前のお話です。

 秦の始皇帝(B.C.259-B.C.21)と言えば、秦朝6代目の王として紀元前221年に中国史上初の天下統一を果たした歴史上の人物です。中国全土において封建制から郡県制へのガバナンスの大転換を行ったほか、国家単位での貨幣や計量単位の統一、さらには万里の長城や兵馬俑で知られる秦始皇帝陵の造営といった(現在まで残る)大事業を行ったことでも知られています。

 一方、始皇帝は法(法家)による統治を貫き、これを批判する儒者・方士を生き埋めにしたり、実用書以外の書物を焼くといった「焚書坑儒」を断行したことなどから、後の歴史書では古代史上最も残酷な独裁者、ヒールとして描かれることも多かったようです。大きな改革には、犠牲も付き物ということでしょうか。そうした意味も含め、彼が残した数々の逸話には、人間臭いリアリティも感じられるところです。

 しかし、いくらリアリティを感じるとはいえ、よくよく考えればこれも皆、紀元前3世紀のお話です。その頃の東ヨーロッパでは、ギリシャのロードス島で伝説の巨像が作られたり、ローマとカルタゴとの間でポエニ戦争が繰り広げられたりしていました。ローマ帝国の英雄、ジュリアス・シーザーが生まれるのは、それよりもざっと150年ほども後の話です。

 更に視野を広げれば、エジプトでは、プトレマイオス朝のもとでアレクサンドリアにムセイオンが建設され、西アジアではアレキサンダー大王の大遠征によってヘレニズム文化が花開こうとしている時期と重なります。

 一方、その頃の日本はと言えば、ちょうど縄文時代から弥生時代に切り替わろうというところ。当然ながら文字もなく、竪穴式住居に暮らし狩猟や採集により生活していた人々が、ようやく稲作を知り集住を始めた時期と言えるでしょう。

 日本ばかりでなく、ギリシャやローマから離れた西ヨーロッパには、いまだ文明と呼ばれるようなものが生まれたという記録は残されておらず、南北アメリカ大陸はもちろん未開の地にすぎません。そう考えれば考えるほど、それ程の昔から広い中原全土にわたるしっかりした国の概念や統治体制、技術などを持ち、様々な文化や思想などを現在に残す、中国の奥深さには改めて感嘆せざるをえないのも事実です。

 2千数百年も間の中国で、はるばると広がる豊かな中元に大規模な国家が群雄割拠し、優れた装備の下で何万という統率の取れた軍隊が戦闘を繰り返していたと思えば、(その文明の規模と言い、質と言い)中国が世界の中心であったことはまず間違いないでしょう。

 「中国4千年の歴史」とはよく言ったもの。それこそがその後も約2千年にわたってトップランナーとして世界に君臨し、富の半分以上を生み出してきた中国のパワーと底力を、改めて感じさせる所以といえます。(→「#1984 かつて中国は世界の中心だった(その2)」に続く…)



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