MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯390 あなたの隣のサイコパス

2015年08月07日 | うんちく・小ネタ


 常識的な対人感覚を持った人間の理解を超えた凶悪な犯罪を引き起こす反社会的人格者を指す言葉として、「サイコパス(psychopath)」という心理学用語が一般的に使われるようになって既に久しいものがあります。

 サイコパスと言えば、映画『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』に登場するレクター教授のような、ある種の猟奇的、古典的な犯罪者の姿を思い起される人も出される方も多いと思います。しかし、本来サイコパスが意味しているのは、「異常な人格」ではあっても「病気」(精神疾患)などではなく、ほとんどのサイコパス(的人格を有している人)は、本人もそうとは知らぬまま通常の社会生活を営んでいるのだそうです。

 精神医学上、サイコパスはいわゆる「パーソナリティ障害者」(←文化的な平均から著しく偏った性格(人格)を有する者)として位置付けられており、日本では、その中でも特に社会に様々な問題や害悪をもたらす「反社会性パーソナリティ障害」を指す用語として用いられているということです。

 そうしたサイコパスの特徴は、一般的に「平板な感情の動き」に代表される、対人関係における「共感性の欠如」にあると言われています。

 また、オクスフォード大学の心理学専門家ケヴィン・ダットンによると、サイコパスの主な特徴は、極端な冷酷さ・無慈悲・エゴイズム・感情の欠如・結果至上主義にある(←Wikipedia)とされ、別の言い方をすると、他人に対する思いやりに欠け、罪悪感も後悔の念もなく社会の規範を犯し、人の期待を裏切り、自分勝手に欲しいものを取り、好きなように振る舞うところにあるということです。

 しかし、先にも述べたように、一般的に「サイコパス」自体は凶悪な殺人犯だけを指しているわけではなく、人を思い通りに操縦しようとしたり、ウソに長け、口がうまく、愛嬌たっぷりで、人の気持ちを引きつけたりといった特徴を伴う、反社会的な性向を持つ人格としてとらえられているようです。

 8月7日の「東洋経済オンライン」では、そのような「サイコパス」という存在の社会における実態に関し、『企業経営者には強いサイコパス気質がある』とする興味深い記事を掲載しています。

 記事によれば、サイコパシー・チャックリストの開発で知られるカナダの犯罪心理学者ロバート・D・ヘア博士が2010年に米国で行った調査において、200人以上の企業経営者といわゆる一般人とでサイコパス度を比較したところ、経営陣のグループの方が明らかにサイコパス度が高いことがわかったということです。

 また、イギリスのサリー大学のベリンダ・ボードとカタリナ・フリッツォンが2005年に行った、企業のCEOと殺人犯などの凶悪犯が収容されている病院の患者との対比調査においても、凶悪犯たちよりもCEOの方がサイコパス度が高いという結果が示されたとありました。

 さらに、記事では、オックスフォード感情神経科学センターのケヴィン・ダットン博士が、サイコパス度の高い人たちが就いている職業について調査を行った結果では、最も多かったのが「企業のCEO」で次が「弁護士」、さらに「テレビ・ラジオメディア関係」、「セールス」、「外科医」と続いていたとしています。一方、サイコパス度が低い職業ベスト3は「介護士」、「看護師」、「療法士」ということであり、ある種の職業における成功にはサイコパス的能力が役立ったり、また場合によっては支障になったりしていることが考えられるということです。

 さて、ここで言う「サイコパス度」が高い性質とは具体的にどのようなものかと言うと、(1)非情さ、(2)魅力、(3)一点集中力、(4)精神の強靭さ、(5)恐怖心の欠如などであり、重大な場面になればなるほど冷静になりリスクを恐れなくなるとともに、感情に揺り動かされず良心の呵責や罪悪感にとらわれずに行動できると能力だということです。

 冷酷な経営判断、投資の決断を迫られるCEO。どんな手段を使ってでも法廷で勝利を得なくてはならない弁護士。いかなる予想外の病変に対しても瞬時に診断を下して正確にメスを振るわなくてはならない外科医など、ここに示されているのは確かにサイコパス的特性が発揮されれば役に立つ職業ばかりだと記事は指摘しています。

 犯罪心理学では、サイコパス犯罪者と「ふつう」の人間とはその資質や素因だけで明確に区別できるものではなく、それが何かの境界を超えたときに、サイコパスは凶悪で冷徹な犯罪者に(いきなり)変化すると考えられているようです。

 前述のダットン博士によれば、人間の脳においてサイコパスに関与しているのは、脳の最も奥深くにある「扁桃体」を中心とした分野だということです。扁桃体とつながった部分を実験によって電磁的に刺激し感情の働き方を変えることで、人は誰しも恐ろしい状況にも脳波が影響を受けることはなくなり、脳の機能をアグレッシブに保つことができるのだそうです。

 サイコパスは何も「特別な人」などではない。あなたの隣にもいる極めて優秀な経営者や弁護士、そしてもしかしたらあなた自身もサイコパスの有力な予備軍である(かもしれない)ということを、私たちは予めきちんと理解しておく必要があるのかもしれません。






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