エージェンシー (agency) は、代理権・代理行為・代理業・代理機関などを意味し、エージェント (agent) は代理人を意味する言葉です。そこから派生した日本の「代理店」業は、明治・大正・昭和と150年の歳月を経て、取引の代理を行う法人格(店あるいは企業)を指す言葉として定着してきたと言えるでしょう。
日本で代理店と言えば、まずは広告代理店。そして、旅行代理店、保険代理店、生命保険代理店、銀行代理店のほか、商社や証券会社なども(いわゆる)「代理業務」として取り扱われることが多いようです。
これまで、個別分野において多くのノウハウとコネクションを持ち、特定事業における代理者として人と人、企業と企業の取引に介在し、時に独占的に利益を上げてきた代理業ですが、インターネット時代を迎える昨今では顧客と商品やサービスのサプライヤーとのネットを通じた直接取引が可能となり、利益構造自体が大きな過渡期を迎えているとの話も聞こえてきます。
さらに、ネット環境を使って個人が保有している遊休資産の貸出を仲介するサービスである「シェアリング・エコノミー」に光が当たる中、サプライヤー自体の多様化を前提に、企業の在り方自体の見直しを迫られていると指摘する向きも多いようです。
1月6日の日本経済新聞のコラム「大機小機」では、そうした代理店(仲介業者)の企業環境の変化を踏まえた価値創造と労働環境の今後について、大変興味深い分析と指摘が行われています。
新入社員の痛ましい過労自殺で社長が辞任表明した電通は、(70年代以降、若者の「あこがれの人気企業」として君臨してきた華やかな姿とは裏腹に)戦後すぐは地位の低い「広告屋」だったと記事はしています。元社長の成田豊氏は、若いころは「押し売りと広告取りは裏口へ」などの貼り紙をよく見かけたと、「私の履歴書」に記しているということです。
一方、記事は、証券会社として日本経済の屋台骨を支える野村証券も、昔は「株屋」と揶揄されながらも社員が一丸となって血を吐く努力をし、資本市場の拡大とともに存在感を高めた企業の一つだとしています。
「株屋」から総合証券会社に成長した野村と、「広告屋」からマーケティング企業に変貌し、業界に君臨するようになった電通。両社はどちらも戦後日本のモーレツ型企業による成功物語の「典型例」でもあったと記事は指摘しています。
しかし、そこには当然「批判」にも共通点があったと記事は言います。
巨大企業ゆえの「おごり」とそれゆえの「風当たり」の強さに加え、「社会通念と(企業風土と)のズレ」が当局の介入を引き寄せた。その結果、野村は東京地検に、電通は東京労働局過重労働撲滅特別対策班の捜査を受けたということです。
記事は、カメラの放列を前に正義の味方のように両社に入る捜査員らの姿は、(まるで)社会が変わる節目における「演出」のように見えたとしています。
そうした中、今回の電通の問題で新しいネット広告部門で悲劇が起きたのは、決して偶然ではないと記事は説明しています。新聞・雑誌は「紙面」、テレビは「時間」という供給制約がある中で、拡大する広告需要との仲介者だった電通は(ある意味)価格を「支配」できたが、そうした制約のないネットの世界では勝手が違ったという指摘です。
株式市場で強大な価格支配力を持った野村証券もそれは同じで、1990年代以降、ネット証券や外国証券などプレーヤーの多様化や手数料自由化の改革が進み、もはや「ガリバー」でいることはできなくなったと記事は述べています。
さて、「相似形」とも言える両社の状況に共通するのは、巨大プレーヤーに超過利潤をもたらしてきた「仕切られた競争」の時代が、ここでいよいよ完全に終わりを迎えたように思えることだと、記事は厳しい指摘をしています。
仕事の仕方に関しても、「仕切り」がある中では働き手が会社に「時間」をささげ、走り続けることが利益に結び付いてきた。しかし、ネット時代は市場もプレーヤーも従来と異なる広がりを持つ。そして、そこに生まれた新しい時代の価値の源泉は、「時間」ではなく、ビッグデータや創造性にあるということです。
電通問題を契機に加速しているように見える政府の(いわゆる)「働き方改革」は、ここまで視野に入れて初めて意味を持つと、記事は説明しています。
労働時間と利益の相関は、明らかにこれまでとは違う様相を示すようになってきている。少なくとも、人と人、企業と企業、デマンドとサプライをつなぐサービスの価値は、もはや「時間」とは切り離されたところで生み出されるようになっているということでしょう。
そうした環境では、(これまで行われてきたような)社員が時間を積み上げる仕事の仕方に(ほとんど)意味はありません。当然、時間にとらわれない価値創造型の働き方につながる制度構築が急務であり、先送りはもう許されないと結ぶ記事の指摘を、私も改めて興味深く読んだところです。
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