「親ガチャ」とは、どの親の下に生まれるかは(ゲームの)「ガチャ」のように運任せで、人生は偶然の家庭環境で決まってしまう(という)ことを指すネットスラングです。子供は親を選べない。(人と比べて)自分が幸せになれないのは「親のせい」だと、自分をなぐさめるように使われることが多いようです。
しかし、だからといって、この言葉を口にする若者の全てが、自分に自信がなかったり、自分を卑下していたり、自分にネガティブな感情をもっていたりするわけでもなさそうです。
要は、この言葉を口にすることで、「自分が幸せでないのは単に運が悪いから」、(逆に)「あいつが上手くいっているのは親が金持ちだから」と(自分に)言い訳できるということ。思い通りにいかなくてもそれは「自分のせいではない」と自分に言い聞かせ、精神の安定を図っているということでしょう。
思えば、機会平等が徹底した「自己責任」の荒野で生き抜くのは、それはそれでつらいもの。弱肉強食の競争社会をそれなりの平穏を保って生き抜くには、ある程度のエクスキューズが必要だということなのかもしれません。
さて、「親ガチャ」に代表される、近年の若い世代の「世襲」への評価に関し、総合雑誌の「中央公論」(3月号)に社会学者の鈴木洋仁誌が「日本人が世襲を好む意外な理由」と題する論考を寄せているので、参考までに(ここで)紹介しておきたいと思います。
政治家や皇族と揃って語られることの多い「世襲」だが、この言葉が新聞各紙で使われる頻度は(実は)平成以降増える加傾向にある。格差が広がるのはイヤだけど、「世襲」ならば少しは安心できると考える日本人は、実際、案外多いのではないかと鈴木氏はこの論考に綴っています。
今の日本の人々は格差社会を嫌いつつも、同時に「世襲」に一定の信頼を置いている。日本財団が2019年に(全国の17~19歳の男女を対象に)行ったインターネット調査でも、国会議員の世襲を「問題だ」と感じているのは約3分の1(33.1%)に過ぎず、一方で「わからない」との回答が過半(50.8%)だったほか、「問題ではない」も16.1%あったということです。
それにしても、「世襲」や「格差」へのメディアの批判は多いにもかかわらず、なぜ、「わからない」とする回答が半数を占めるのか。それは、日本人は本質的に「世襲」を嫌っていない、いや、実は好んでいるからだというのが、この論考における鈴木氏の認識です。
実際、選挙の結果を見ても、日本の人たちは(総じて)「世襲」への積極的な嫌悪を示しているとは思えません。マスコミは(ことあるたびに)声を大きくして「世襲」を「問題」だと報じていますが、それ自体、世論とメディアの乖離を映し出しているに過ぎないということなのでしょう。
例えば皇族には、憲法で保障された職業を選ぶ自由もないどころか、その第2条で「皇位は、世襲のもの」と定められている。彼らは「世襲」を生まれながらにして義務づけられ、運命づけられている存在だと鈴木氏は説明しています。
一方、小室眞子さんと圭さんの結婚に当たり世論が沸騰したのは、皇族があくまで「世襲」を基本とする存在だからだと氏はしています。女性週刊誌やネット上では小室圭さんに対する反感が大きかったのは、世襲を超えた自由な恋愛や世襲を気にしていない(ように見える)彼の行動に反感を覚える国民が多かったから。既に(血脈により)「決められている」存在を、部外者である庶民が侵すべきものではないと感じたからではないかということです。
だからといって、「皇族になりたい」「皇室に入りたい」との願いを持つ人が、いまの世の中にどれほどいるだろうかと、鈴木氏ここで疑問を呈しています。個人情報を積極的に公開したいとか、世の中から注目を浴びたいと願っているなら話は別だが、結婚が話題になるだけで世間から好奇の目で見られることになる。世襲には世襲の厳しさがあることを、日本の人々は十分に理解しているというのが氏の見解です。
氏も言うように、日本人が皇族に関するニュースが好きなのは、それを見聞きすることで(ある意味)安心できるから。安心して、政治家や皇族という一部の(特殊な)人たちに「世襲」を押し付けられるのは、引き継ぐものがない人たちにとっても充分な救いになるということなのかもしれません。
さて、「皇室に生まれる」というのは極端な例としても、政治家の家に生まれれば「親ガチャ大当たり」、また歌舞伎役者の家の生まれなどを羨ましいと感じる人は、正直そんなに多くはないような気がします。
格差社会と言われるご時世ですが、背負ったものがある人は(ある人で)、他人に羨まれ足を引っ張られたりして(それなりに)大変そうです。親ガチャのせいにして頑張らなくても生きていけるのなら、それはそれでいい世の中なのではないかと、この論考における鈴木氏の指摘から私も改めて感じたところです。
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