
テレビドラマは時代を映す鏡だとよく言われますが、最近のドラマを見ていると、出世を左右する岐路に立って、同僚や部下、家族との間で人生に迷ったり黄昏たりしている中年サラリーマンを主人公とする作品が、(すいぶんと)多くなったような気がします。
少し前に評判になった「半沢直樹」ではありませんが、今まであまりスポットライトが当たらなかった彼らが注目されるようになったのも、日本の人口構成において一定のシェアを占める「団塊ジュニア」世代がいよいよ40代の終盤に差し掛かり、「出向」だの「転配」だの「役職定年」だのが現実のものとなってきたからかもしれません。
足並みをそろえて階段を上ってきたサラリーマン人生も、50代を迎えるといよいよ先が見えてきて、「これでよかったのか」「この先どうしたらよいのか」と人生を振り返る年頃となります。
まあそれも見方を変えれば、日本のサラリーマンはその歳になってようやく自分の人生にきちんと正面から向き合い、将来を考える余裕が出てくると言えば言えなくもありません。
そんな黄昏世代の不安を煽るかのように、昨年10月26日の経済サイト「フィナンシャルフィールド」では、「ミドルのあなたの給与が下がるのは、実は遠い時代の話ではない~」と題するレポートにおいて、企業における「役職定年」の実態に迫っています。
少し古い数字ですが、厚生労働省「賃金事情総合調査(平成21年)」によると役職者定年制の制度を「あり」とする企業は全体の47.7%とされており、(当時よりも役職定年が一般化している現状を考えれば)少なくとも半分の会社で役職定年制度を設けているのはまず間違いないと記事は記しています。
それでは、役職定年を迎えた多くの人は、その後(具体的に)どうするのでしょうか?
上記の調査では「定年年齢まで在勤する」がほとんど (制度のある104社の91.3%)で、すぐクビになるわけではないということです。しかし、「在籍出向」が14.4%、「関連企業への移籍出向(退職の場合も含む)」が同15.4%と、「出向」の名のもとに元の会社にいられなくなるケースも少なくないと記事はしています。
では、「定年年齢まで在勤」 (95社)した場合、どのような待遇となるのでしょうか?
記事によれば、「役職に関連する手当額を減額する」が50.5%と最も多く、次いで「別の賃金体系に移行し基本給を減額する」が29.5%、「役職在任時の賃金水準を維持する」が15.8%と、約8割の企業で役職定年とともに給与が減額されるのが現実だということです。
それは仕方がないとしても、問題なのは「どれだけ下がるのか?」ということです。
公的資料は見当たらないものの、シニア社員へのインタビューなどを総合すると、概ね「役職定年で給与は3割下がる」というのが記事の相場観です。仮に月給50万円だったら35万円に下がるということですから、子供の教育費や親の介護など何かと物入りの多い50代にとっては、家計を維持していくのがかなりつらい状況となることは明らかだというのが記事の指摘するところです。
もちろん、その時のために貯蓄をしたり、学資保険に入ったり、子育てで家に入っていた奥さんがパートに出たりするのでしょうが、住宅ローンが残っていたり体調が優れなかったりすれば先々が不安にもなるでしょう。また、何よりもその後の人生を考えれば、仕事へのモチベーションを維持するのが大変なのではないでしょうか。
こうして50代のいずれかの時点で多くのサラリーマンに訪れる(であろう)悲喜こもごもを念頭に、昨年10月26日の日本経済新聞のコラム「大機小機」は「40歳定年制に賛成」と題する興味深い一文を掲載しています。
安倍晋三首相が「生涯現役社会」を掲げ、その目標に向けた政策の検討が始まっている現在、長寿化で仕事への能力も意欲も高い高齢者が増えている以上、彼らが活躍できる社会をつくるのは当然だと記事はしています。
人手不足が深刻化し高齢者の就業率も急速に高まりつつある中、高齢者の能力をより生かす仕組みが求められている。しかし、ここで「定年年齢の70歳への引き上げ」といった安易な選択がなされることについては賛成できないというのが記事の指摘するところです。
企業の定年は、ここ30年で10年伸びた。この間、企業のビジネスモデルは著しく不安定化しているので、学卒後40年の雇用保障は極めて厳しいと記事は言います。
企業収益が史上最高でも賃金がさっぱり上がらない背景には、この日本的雇用によって生み出される特有の負担の重さがある。こうした環境で定年を単純に70歳まで延ばせば、事態はさらに悪化するに違いないということです。
そこで記事は、むしろこの際「40歳定年制」を真剣に検討すべきではないかと提案しています。
入社後20年程度で退職するならば、企業は今より高い初任給を払えるだろうから、外資系に比べて日本企業の魅力を高められる。何がしかの退職金も支給するだろうし、働き手は退職金を元手に再教育を受けることも可能だと記事は説明しています。
20歳前後までに得た知識・能力だけで、その後の50年を生きていくというのは「ずうずうし過ぎる」というのが、「人生100年」「生涯現役」時代を迎える日本のサラリーマンに対する記事の認識です。
そして再教育を受けた個人は第2の職場を探すことになる。その場合、新しい働き方は(おそらく)職務を明確に定めた「ジョブ型」になるだろうと記事は記しています。
最初の20年で一定のジョブを身に付けているはずだし、再教育の機会に(これに)磨きをかけられる。ジョブ型やノマド型の働き方ならば、欧米のように定年自体が不要になるというメリットもあるということです。
しかし、その一方で記事は、職業教育を欠いた現在の日本の大学が変わらないと、新卒時からのジョブ型雇用は難しいと指摘しています。
現在の日本の第一線の教育機関は、基本的新卒の若者を対象としたプログラムしか持ち合わせていない。ならば、企業は働き手の再教育を組み込んだハイブリッド型の仕組みを整えたうえで40歳定年制に踏み切ればよいと記事は言います。
勿論、雇用者にも様々な事情があり、一定の所得の保証や雇用先の確保などが示されなければ40歳で一律に退職させられた人の中には路頭に迷う人も出るでしょうし、人生設計が立てられないという不安の声も上がるでしょう。
しかし、雇用に当たっての選択肢として40歳で一旦退職するというシステムを導入することも、それはそれで意味のあることかも知れません。
現実に、日本型とよばれる「終身雇用」は既に風前の灯火で、30~34歳の男子有業者の44.7%に転職経験があり、35~39歳では54.4%、40~44歳では57.2%に及ぶとのデータもあるようです。(リクルートワークス研究所「全国就労実態パネル調査」2017)
40歳という節目の年齢を古来「不惑」と呼びますが、そうした現実を考えれば、「転職」を誰もが経験するキャリアの一つとして覚悟し、可能なかぎり雇用者にプラスに作用するよう早期に環境を整えることが(確かに)求められているのかもしれません。
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