MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1267 飛び出す初夢

2019年01月08日 | うんちく・小ネタ


 本邦では、新年に入って初めて見る夢を「初夢(はつゆめ)」と呼び、その夢の内容で1年の吉凶を占う風習があることは広く知られています。

 もっとも、字義どおりに新年最初(つまり大晦日や元日の夜に)に見る夢ばかりでなく、地方によっては2日から3日の夜に見る夢とされることも多いそうです。

 Wikipediaなどを見ると、江戸時代は大晦日から元日にかけての夜(除夜)は眠らない風習があったことや、正月2日がその年の「事始め」とされていたことなどがその理由として挙げられていますが、その由来はどうもはっきりしない感じです。

 そう言えば子供のころ、明治生まれの祖父が「宝船」(七福神の乗っかったあれですね)の絵を墨でさらさらと描いてくれて、2日の夜にはそれを孫たちの枕の下にそれぞれ入れておいてくれたのをうっすらと覚えています。

 一般に、初夢に見ると縁起が良いものとして「一富士二鷹三茄子」というものがあるようですが、実際に「富士山」や「鷹」はもとより「ナス」の夢を見たことのある人などいるのでしょうか。

 私自身はと言えば、(50年以上も生きてきているのに)「初夢」として印象に残るような夢を未だ見た記憶がありません。

 見たいと思っても見ることはできないし、見たくないのに見てしまう。そして思いがけずにすっかり忘れていたことを鮮明に思い出したり、会いたかった人に会えたりするのも「夢」ならではというところでしょう。

 「夢占い」という言葉があるように、こうした「夢」を超自然的存在からのお告げでとして受け止める考え方は世界中に見られるようです。

 いわゆる「予知夢」と呼ばれるもののように、夢は(あまりに唐突な、思いがけない内容だったりするだけに)これから起き得る危機を知らせるために神様が送ってくれたメッセージだと考えたくなるのも(何となく)わかる気がします。

 20世紀初頭、心理学の祖と言われる精神医学者のジークムント・フロイトは、人が体験する夢を manifest dream(顕在夢)と呼び、無意識的に抑圧された幼児期由来の願望と昼間の体験の残滓が(人間の脳内で)加工され歪曲されて現れたものだと捉え、「夢判断」という精神分析手法を提唱しました。

 夢は人間の隠された「願望」を映しだす(ひとつの)鏡だというフロイトの考え方も、確かに人々の経験にフィットするようで、今でもこの考え方は多くの人々に広く受け入れられています。

 誰でも(時に)、あまりに鮮明でリアリティーにあふれる(そして時に奇妙な)夢を見ることがあるのではないでしょうか。そうした夢は大概フルカラーで、空気感に富み、出てくる人たちも一人一人が誰だかはっきりしていたりします。

 そうしたリアルな夢の世界から汗びっしょりで飛び起きたりすると(そしてその夢の光景を何日たっても忘れられないでいたりすると)、どうしてもその夢の持つ「意味」というものを考えたくなってしまいます。

 さて、(因みに…ですがそう言えば)生まれが1949年以前の人と1963年以降の人とでは、見る夢の色に明確な差があるということがAPA(アメリカ心理学会)の調査結果により明らかになったという記事をWeb上で見かけました。

 『週刊現代』(2017年2月11日号)によると、APAが1993年と2009年の2度にわたって米国の10代から80代までの被験者を対象にこの調査を行ったところ、どちらの結果も「カラーの夢を見る」と答えた人の割合は30歳未満が約80%に対し、60代ではわずか20%程度であったということです。

 そして、その理由を分析したAPAが出した結論は、「世代間における夢の違いは、カラーテレビの普及によるもの」という驚くべき内容だったと記事は記しています。

 人がなぜ夢を見るのかと言えば、睡眠時、脳を構成する神経細胞同士をつなげるシナプスが記憶の取捨選択を行う際に生じた記憶の「断片」が夢を形作っているというのが現在の定説です。

 実は、この記憶の断片には特に(情報量の多い)テレビからの視覚情報が多く含まれており、テレビ視聴によってもたらされた画像の記憶がそのまま日々の夢に反映されるというのがAPAの見解だということです。

 世界初のカラーテレビの本放送は1954年にアメリカ・NBCで開始されており、米国における実験結果の変化のタイミングと合致しているということです。

 一方、日本でカラーテレビが一般家庭に普及したのは東京オリンピックが開催された1964年頃のことですから、子供の頃のテレビと言えば白黒だった「団塊の世代」は白黒の夢を、それ以降の世代はカラーの夢を(も)見る世代と言えるかもしれません。

 記事は、いずれ生まれてくる世代は4Kや5Kのハイビジョンの夢を見るかもしれないし、3Dの飛び出す夢を見るかもしれないと綴っています。

 確かにこれから先、洪水のような情報が様々な形のメディアを通じて世界中からストレートに人々の脳に飛び組んでくる時代を迎えるでしょう。

 VR(バーチャル・リアリティ)に馴染んだ子供たちが大きくなる頃には、皆が(七福神が乗り込んだ木造船が大海原を行くような)スーパーリアルな初夢を見るようになるのかもしれません。




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