
日本のサラリーマンになったからには、いつでも「人生の最終のゴール」として意識の底にあるのが「定年」という存在です。
入社したばかりの時ははるか彼方にかすんで見えていたこのゴールテープですが、中堅社員になる頃には家族の人生設計の中に組み込まれ、50代に入って役職定年が見えてくる頃になると、次第にリアルに日々の生活の前にチラついて見えたりしてくるもののようです。
「ブリタニカ国際大百科事典」によると、「定年制」とは一定の年齢に達した労働者を労働協約や就業規則によって自動的に退職させるという(特に日本と韓国に見られる)制度で、日本では終身雇用制度と年功序列賃金体系が確立され始めた大正年間に導入されたとされています。
定年制は(歴史的に)多くの場合「退職金制度」とリンクしており、定年退職者には長年の功労に謝意を示し,老後の生活を保障するといった名目の退職金が支払われるのが一般的だということです。
そういう意味で、日本人にとっての定年とは、「現役」と「老後」を分ける人生の大きなエポックとして外的に存在していたひとつの「目印」、「メルクマール」のような存在だったと言えるかもしれません。
私の記憶では、1980年代の中ごろまでの日本企業では55歳定年が当たり前でした。サザエさんのお父さん磯野波平さんが、定年を一年後に控えた54歳の想定だったのは(一部では)有名な話かもしれません。
昭和一桁世代の多くが定年を迎える1980年代に入り55歳定年制の見直しが指摘されるようになり、1986年には「高年齢者雇用安定法」が改正されて60歳定年が努力義務となりました。さらにバブル崩壊後の1994年には同法がさらに改正が開催され、60歳未満の定年制が禁止されるに至っています。
また、その後も「高年齢者雇用安定法」は幾度か改正されており、2012年の改正では「原則希望者全員の65歳までの雇用を義務化」が明記されたことで、定年後も働く意思がある人は65歳まで働くことができる環境が法的に整ったことになります。
厚生労働省の「就労条件総合調査 結果の概況(平成29年)」を見ると、現在、定年を定めていない企業は全企業の4.5%で、前年の調査よりも0.1%減少しています。特に常用労働者が1000人以上の大企業では0.7%に過ぎず、大企業のほぼ全てに定年があるというのが実態です。
同調査によると、定年を定めている企業のうち、60歳定年の企業は79.3%(前年は80.7%)で減少傾向にあるとされています。一方、65歳定年の企業も16.4 %(前年は15.2%)を占め、さらに定年を66歳以上と定める企業も1.4%(前年は1.0%)と増加傾向にあるようです。
とは言え、日本人の平均寿命が延びる中、なかなか進まない定年年齢延長の動きを踏まえ、人事院でも国家公務員の定年を(民間に率先して)「60歳から65歳に引き上げる」検討を始めているとされています。
2019年の通常国会に国家公務員法など関連法改正案を提出し、2021年度から実施。(気の長い話ですが)3年毎に1歳ずつ引き上げて、2033年度に65歳とすることを目指しているということです。
こうした動きもあり、日本経済新聞社が今年の3月に行った「社長100人アンケート」調査においても、約6割の社長が近い将来に65歳定年を考えているとしています。
2017年の総務省の労働力調査では、65歳以上の高齢者の就業者数は807万人と過去最高を記録しており、雇用者数も426万人と雇用者総数の7.8%を占めるなど、(労働力不足が深刻化する中で)労働労市場における「働く高齢者」の存在感が増しています。
「人生100年時代」を掲げる政府は高齢者の就労環境の整備を急いでおり、「働き方改革」の一環として継続雇用年齢を65歳からさらに70歳まで引き上げることを具体的に検討していると伝えられています。
勿論そこには(経済界の要請ばかりでなく)、団塊の世代の全員が75歳以上となる2025年を見据え社会保障費の急増により将来に向けた懸念の絶えない財政問題の存在も見逃すわけにはいきません。
政府としては、高齢者の一人でも多くが現役として「支えられる側」から「社会を支える側」に立っていてほしい。そうした観点から、年金の受給開始年齢を70歳を超えても選択できるようにしたり、高齢者の介護費や医療費を抑制するための取り組みが進められているところです。
OECD加盟各国の比較でみると、日本の65歳以上の高齢者の就業率(20.1%)は、米国(17.7%)、ロシア(11.0%)、イギリス(9.5%)、ドイツ(5.4%)と比較しても際立って高く、最も低いフランス(2.2%)の10倍近い数字になります。
「このうえ、まだ働けというのか?」という声も聞こえてきそうですが、少なくともこの日本では「50代ではまだまだ中堅」「70歳は働き盛り」と考えられる時代がそう遠くない未来にやって来ることは、どうやら間違いなさそうです。
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