先の臨時国会で成立した令和4年度第2次補正予算には、コロナ禍や物価高騰に苦しむ中小企業のための資金繰り支援や事業再構築の取り組みを支援する補助金などとして、総額約1兆1千億円もの中小企業への追加支援策が盛り込まれています
また、10月28日に閣議決定された来年度予算編成を見据えた総合経済対策には、エネルギーや原材料の高騰分を下請け中小企業が適正に取引価格に転嫁できる環境の整備や、資金繰りに悩む中小企業が個人保証に依存しない融資慣行の構築に向けた施策の実施、新たに輸出に取り組む中小企業1万社への支援なども明記されているところです。
それにしても、これまで大変な資金が投入されてきた「制度融資」なども含め、この日本ではどうして「中小企業」というだけで、(内容を問わず)これほどまでに手厚い保護が受けられるのか…この部分については以前から不思議に思っていたところです。
都市部・地方部を問わず、税金の投入によって延命できている中小企業は多いはず。本来であれば市場から退場を迫られるはずの業績の悪い中小企業が、政治による市場機能の阻害によりゾンビ化している状況を懸念する専門家も多いようです。
しかし、それでも政治は動かない(動けない)。気が付けば右から左まで、地域に根付いた中小企業(の経営者たち)の政治資金や後援組織に絡めとられ、身動きが取れない状況なのかもしれません。
しかし、日本経済の停滞が大きな政治課題になる中で、適正な競争環境を構築し企業の生産性を上げていくためにはこのままでよい筈がありません。折しも物価の高騰が経済成長の世界的なハードルとなっている現在、政府が採るべき道はどこにあるのか。
12月21日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に、経済評論家の加谷珪一氏が『「雇用を守る=企業を守る」はもう機能しない...いま本当に守るべきは「労働者」だ』と題する(ある意味)「直球」の論考を寄せていたので、その概要をここで残しておきたいと思います。
コロナ危機は、日本が抱えていた賃金や雇用の構造的問題を浮き彫りにした。日本では「雇用を守ること=企業を守ること」として、雇用政策はもっぱら企業支援という形で提供されてきたが、非正規労働者や零細企業の労働者はこの枠組みには入らず、国民の間には大きな分断が生じていると氏はこの論考で指摘しています。
急激な経済状況の変化に対して、政府が国民生活を守るのは先進国としては当然の政策と見なされ、戦後日本の場合、それは企業を通じて行うことが暗黙の了解となっていた。雇用を守るために「企業を支援せよ」という声が大きく、政治はこれに応える形で各種の企業支援策を実施してきたということです。
サラリーマンという雇用形態が一般化し社会が画一的だった昭和の時代までは、こうした企業を通じた労働者保護はうまく機能した。しかし1990年代以降のグローバリゼーションやライフスタイルの多様化によって、企業に依存する従来型のセーフティーネットはうまく機能しなくなっていると氏は説明しています。
業績低迷に悩む企業は、非正規社員を雇用の調整弁とする安易な選択を行った。一方、大企業の正社員は既得権益化し、前例踏襲の業務慣行によって企業のイノベーションを阻害しているというのが氏の認識です。
この状況で一旦経済危機が起これば、従来の企業支援策だけでは支援の枠組みから外れる人が出てくることになる。企業から切り捨てられた非正規の多く労働者が路頭に迷うことになるということです。
コロナ危機に際して政府は、これまでの方針を大転換し、国民に対して一律に給付金を配るという施策を行った。一部からは単なるバラまきと批判されたこの政策だったが、長年慣れ親しんだ「企業を支援する」という発想から一歩抜け出し、国民を直接支援する政策に舵を切ったことには(それなりの)意味があると氏は言います。
本来、企業というのは常に新陳代謝が図られるべき存在であり、時代に追い付けなかった企業は市場から退出してもらうのが筋というもの。一方、労働者は保護されるべき存在であり、簡単に身一つで路上に放り出してよいものではないというのが氏の見解です。
ところがこれまでの日本では、過剰に企業を保護する一方、解雇されてしまった労働者は何も支援されずに放置されるという、本末転倒な状況が生まれていたと氏はしています。このため多くの国民が会社をやめることに恐怖感を感じるようになり、これが人材の流動化を(一層)阻害しているということです。
仮に企業から解雇されても、政府が十分な生活支援とスキルアップの学習機会を提供してくれるのであれば、労働者は安心して次の仕事にステップアップできる。意欲のある人はむしろ積極的にこの制度を利用するので、必然的に社会全体での人材適正配置が進んでいくだろうと氏は話しています。政府は今回の給付金をきっかけに、企業支援を中核とした従来型の雇用政策から完全に脱却し、個人支援に的を絞った新しい雇用政策に大転換すべきだということです。
近年では、企業サイドもこれまでの年功序列の処遇から、業務に対して賃金を払ういわゆるジョブ型の雇用への転換を進めているところ。ジョブ型雇用になれば、組織ではなく個人が主役となるので、当然、雇用の支援策も個人にシフトしたほうが整合性が取れると氏はこの論考の最後に指摘しています。
森ばかりを見て木を見ない。政治的影響力の大きい経営者の声ばかりを聴いて、個々の労働者の実情を省みないままでは、国民が本当に幸せになれるはずもありません。生産性の低い多くの企業がひしめき合えば、不健全な競争や市場のゆがみが生まれ、優良な企業の成長を妨げることにもつながります。
日本の雇用・経済対策も、いよいよ企業中心の政策から労働者中心の政策へ、大きな転換点を迎えているということでしょうか。この改革が実現すれば、日本経済を成長軌道に戻すことはそれほど難しいことではないのではないかとこの論考を結ぶ加谷氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます