MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2499 他殺被害者 0歳がダントツで多いという現実

2023年11月22日 | 社会・経済

 11月は児童虐待防止推進月間とのこと。各地の自治体が中心となり、「オレンジリボン・キャンペーン」と銘打ち、全国で様々な啓発イベントが開催されています。

 こども家庭庁が公表した速報値によれば、2022年度の1年間に全国の児童相談所受けた子どもの虐待に関する相談件数は21万9170件で、過去最多を数えた由。統計を取り始めた1990年度から32年連続で増加中であり、前年度より1万1,510件増えたということです。

 一方、虐待による子供の死亡事例の検証結果を見ると、2021年4月1日から翌2022年3月31日までの間に発生した児童の虐待死は、前年度より3人少ない74人とのこと。このうち、心中以外の虐待死は50人で、心中による虐待死(未遂を含む)は24人とされています。

 また、心中以外の虐待で死亡した子供の年齢は、0歳が24人(48.0%)でもっとも多く、虐待の類型では「身体的虐待」が21人(42.0%)、主たる加害者は「実母」が20人(40.0%)で最多を数えるとのことです。

 生まれたばかりの乳児が、庇護者であるべき存在からの加害によって命を落とすという、こうした理不尽で痛ましい事案の発生をどうすれば少しでも減らしていくことができるのか。9月27日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に教育社会学者の舞田敏彦氏が「日本の他殺被害者のうち0歳児が断トツで多い理由」と題する論考を寄せていたので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 日本の教育の特徴は「私」の比重が高いこと。もちろんそれは制度面ばかりでなく、保育や教育に対する考え方にも「私」が前面に出ていると、舞田氏はこの論考に記しています。

 それは、「就学前の乳幼児の世話は、まずは誰がすべきか?」という問いへの回答を国ごとに比べた数字からもはっきりしている。(10年ほど前の調査になるが)東京大学物性研究所(ISSP)が行った「Family and Changing Gender Roles IV」によれば、日本を含む主要7か国への調査の結果、日本は「家族」という回答が77%を占める一方で、スウェーデンは「政府」という回答が83%となっているということです。

 前者は東アジアを中心とした「私型」、後者は北欧諸国に多く見られる「公型」の典型で、他の国はこの両端の間にあると氏は指摘しています。因みに、「家族」の割合が日本の次に高いのがお隣の韓国で57.1%、次いでアメリカが56.5%で続きます。一方、ドイツが41.0%、フランスは30.9%と、ヨーロッパの各国では「私」の比率が比較的低いとういうことです。

 これらはあくまで国民の意識の比較だが、現実の制度もこれに近いと言っていいと舞田氏は話しています。日本は家族の役割を重視する国だが、昔と違って家族の小規模化が進み、働く女性が増え、かつ職住分離の雇用労働が多くなっている。そうした現在、当事者、特に母親の負担は(「ワンオペ」などと揶揄されるように)極めて大きくなっているというのが氏の認識です。

 社会が変化しているにもかかわらず、制度や国民の意識がそれに追いついていない。保育を家庭という私空間に委ねる(密封する)やり方は、そろそろ限界にきていると舞田氏はここで指摘しています

 「親密性の病理」という言葉があるが、家族という(閉じた)私空間で四六時中親子が接していては、当然育児ストレスも亢進する。ストレスが高じたことで最終的に幼い命が奪われるケースも、実際に相次いでいると氏は言います。

 厚労省の内部統計によれば、2013~22年の10年間で、「他殺」という死因で亡くなった6歳未満の乳幼児は190人を数えるとのこと。多くが家族による虐待死と考えられ、各年齢の他殺被害者数と比較しても、0歳の乳児がダントツで多いという実態が浮かび上がってくるということです。

 望まない妊娠・出産による遺棄や虐待死。加害者には、妊娠を届け出ず、行政や医療との接点を持たないで出産した女性が多いという指摘もあると氏は続けます。若年出産や貧困という要因が加わると、孤立(抱え込み)の闇はさらに深くなる。相談機関の情報をSNS等で提供する、妊娠の確定診断の費用を補助するといった支援が求められるというのが、この論考で氏の主張するところです。

 児童虐待の防止には人員が必要となるが、現状では不足している。世の中には「公」と「私」の仕事があり、成熟社会になるにつれ前者の比重が増してくると氏はこの論考の最後に話しています。

 日本の労働者の公務員比率は10%ほどだが、北欧の諸国では半分近くにもなっている。ロスジェネ世代の活用等も視野に入れ,(必要があれば)公務員を大きく増やすことも検討すべきだろうと論考を結ぶ舞田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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