今年の暮れも差し迫った12月17日、自民、公明、国民民主3党の税制調査会長は所得税の非課税枠「年収103万円の壁」をめぐって国会内で協議。国民民主の古川元久税調会長らは自公の提案を不服として10分ほどで会議を退出し、「協議は打ち切りだ」と述べたと報じられています。
キャスティングボードを握る国民民主は、「国民の手取りを増やす」として所得税非課税枠の拡大を目指しており、最低賃金の伸び率に合わせ103万円から178万円への引き上げを求めています。一方の自公は、7兆円とも言われる税収減を理由に2025年は20万円上げて123万円にする案を提示したものの、国民民主により強く拒否された形です。
この流れに、(女性問題で)役職停止中の国民民主党の玉木代表は自身の「X」に、「温厚なわが党の古川元久税調会長も席を立ったようです。『178万円を目指す』と合意したのに123万円では話になりません」と投稿したとされています。一方、17日午後に開かれた自民党の税制調査会では、出席者から「責任ある財源論から考えて、できないものはできない」などとの意見が出されたということです。
この話を聞いて、所得税の控除額を引き上げれば確かに「手取り」は増えるのだろうけれど、それはあくまで所得税を(それなりに)払っている人の話。低所得者への恩恵はそれほど大きくないのではないか…などと考えていた折、12月17日の日本経済新聞の投稿欄「私見卓見」に、京都産業大学教授の八塩裕之氏が『拙速な所得税改革は避けよ』と題する投稿を寄せていたので、参考までにその主張を小欄に残しておきたいと思います。
国民民主、党が主張する「103万円の壁」に関する所得税改革が論争になっているが、国民生活に広く影響する所得税の在り方については、時間をかけて冷静に検討すべきだと八塩氏はこの論考で述べています。
同党の主張は基礎控除の75万円引き上げで、現在の政局では、これによって生じる国や自治体の税収ロスが注目されている。しかし、税収ロスを問う前に、そもそも所得税の減税の仕方自体に大きな問題があるというのが氏の主張するところです。
今回の問題の発端は、最低賃金が上昇し、大学生などの被扶養者のアルバイト所得が増えて、所得税が課され始める103万円を超えるケースが出てきたこと。(氏によれば)それによって扶養者に適用されていた特定扶養控除が適用されなくなるため、仕事を控える動きが生じているということです。
今回の学生の問題は、インフレで所得が増えると所得税の適用税率が上がり自然と増税が起きる「ブラケットクリープ」をどうするかという話。もちろん何らかの対処は必要だが、ただ、そのために基礎控除を大幅拡張することには問題があるというのが氏の見解です。
例えば、仮に「75万円の基礎控除拡張による減税」を来年から実施するとして、それを現在の所得税(+復興特別所得税)・個人住民税を維持しつつ給付を行う政策に置き換えてみる。するとこれは、年間給与2000万円の人には32.77万円、年間給与1300万円の人には25.11万円の給付金を(毎年)配り続ける政策に等しいと氏は説明しています。
一方、年間給与400万円の人には11.33万円の給付金が毎年配られるが、税を払わない低所得者には一切給付はない。こうした(再分配に逆行する)給付政策に対して強い批判が出ることは間違いないが、国民民主党が主張する所得税改革は、まさにこれを実行するものだというのが氏の指摘するところです。
この問題を「所得税制度」に則してみると、所得控除を拡張することによる減税効果が、高い限界税率に直面する「所得の高い層」に大きく及ぶことは明らかだと氏は言います。
諸外国では近年、この問題を避けるため、所得控除のあり方の改革が行われてきた。また、仮に基礎控除を引き上げる場合でも、それによって給与や年金への控除の上限を下げるといった改革を合わせることも考えられるということです。
(いずれにしても)所得税は、国税制度の中核をなす紛れもない基幹税。今回、基礎控除を一度大きく拡張してしまうと、これを戻すのは政治的にも極めて難しくなると氏は言います。
政治的な意地の張り合いや人気取りのために、朝三暮四に走るようなことは厳に慎む必要があるということでしょう。せめて拙速な改革は避け、時間をかけて、冷静に所得税のあり方を改めて検討すべきだと話す八塩氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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