MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2058 衆議院議員はどのように決まるのか

2022年01月07日 | 国際・政治


 10月31日に投開票された先の衆議院議員選挙では、神奈川13区の甘利明・自民党前幹事長をはじめ小選挙区で落選しても重複立候補した比例代表で「復活当選」した与野党の重鎮が数多く見られました。かつて自民党や民主党の幹事長としてキングメーカーの名をほしいままにした立憲民主党の小沢一郎議員ですら、現職最多の18回目の当選ながら自身も初めて小選挙区で敗れ、比例復活の屈辱を味わっています。

 こうして、小選挙区で敗れたはずの候補が議席を獲得する(いわゆる「比例復活」の)様子はインターネット上で「ゾンビ」と揶揄されることもあるようですが、そもそも小選挙区制と比例代表制は全く異なる制度。一票の格差の拡大が議論されている現状を見れば、国政における参議院との性格分け含め、根本的に見直しを始めても良い時期に来ているような気もします。

 日本の衆議院議員選挙で、小選挙区制と比例代表制を組み合わせた「小選挙区比例代表並立制」が導入されたのは、今からちょうど四半世紀前の1994年のこと。日本新党の細川連立政権の政治改革法案を下敷きに、混乱する政局の中でのすったもんだの議論の末、村山自さ社連立政権のもとで法案が可決されました。

 年配の方ならご記憶の通り、それまでは衆議院は「中選挙区制」という、都道府県をいくつかに分けた、今よりもやや広い選挙区から2人3人と複数の当選者が出る選挙制度を採用していました。しかし、この中選挙区制に対しては、立候補者が広い選挙区で選挙活動を行わねばならず、「お金がかかりすぎる」などの根強い見直し論がありました。世論の中には、「中選挙区制が金権政治に繋がる原因となっている」「小党分立状態が続き政治の不安定化を招いている」などの指摘もあり、お金のかからない、なおかつ政権交代が可能な二大政党制を促す「新しい選挙制度」が検討されてきました。

 一方、対案であった小選挙区制には「死票が多く出る」という欠点が以前から指摘されており、小政党には不利だとして(共産党などの野党を中心に)反対が根強かったのも事実です。そこで死票が比較的少なく、各党の得票率に応じて議席が配分される比例代表制を併用することで与野党が折り合い、現在の小選挙区比例代表並立制の導入に至りました。

 さて、現在の衆院選の小選挙区制度は、全国を289の小選挙区に分け、1選挙区につき1人を選出する制度となっています。この選挙によって衆議院議員の定数465人のうち289人を決定し、残りの176議席は政党名を投票する比例代表選挙において決定していきます。比例区は全国を11ブロックに分け、政党ごとに議席の数を争うもの。政党は事前に候補者の当選する順番を決めたリストをつくり、獲得した票数に応じてリストの上から順番に当選者が決まっていく。これが、いわゆる「拘束名簿方式」と呼ばれ仕組みです。

 さて、そこで(「わけわかんない」と)しばしば問題となるのが、先に述べた「比例復活」と呼ばれる復活当選の問題です。小選挙区に立候補しつつ、併せて比例区の名簿に登載された候補者は、小選挙区で落選しても比例区で復活当選することがある。もう少し詳しく説明すると、比例区の議席は各政党の得票率で決まり、当選者は政党の名簿順で決まる。比例代表の名簿では政党が複数の重複候補者を同一順位にできるので、この場合、小選挙区における当選者の得票数に対する落選候補者の得票数の割合(惜敗率)を求め、惜敗率の高い候補者から当選者となるルールとなっています。

 このルールに従えば、重複候補者は小選挙区で落選しても比例区で復活当選できるので、1議席が割り当てられている単一の小選挙区を地盤とする議員が、選挙区によっては複数いるという現象が生まれてくる。今回の衆議院議員選挙で目立った(選挙区では落選した)ベテラン議員が次々と復活した背景には、こうした仕組みがあったというわけです。

 もちろん、各陣営の選挙戦略も、このようなルールを背景に緻密かつ綿密に練られていることでしょう。選挙区で負けるのは織り込み済み。その場合、惜敗率はこのくらいにはなるはずだから名簿のこの辺の順位に名前を載せておけば…と、選挙コンサルタントの皆さんも票読みに余念がなかったはずです。

 「政治家は選挙が全て」「選挙は民意」と言いながらも、その選挙自体がひとつの技術的な「仕組み」である以上、戦略によって当落の結果は大きく異なります。一票の価値や地方の声の反映などの問題も含め、だからこそ有権者は「選挙」の在り方に関心や問題意識を持ち続ける必要があると改めて感じるところです。



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