80%を超える記録的なインフレが続くトルコで、トルコ中央銀行は今年の9月、金融政策を決める会合で政策金利をさらに1%引き下げ、12%にすると発表しました。
世界の主要中銀を見ると、米連邦準備理事会(FRB)9月21日に0.75ポイント、イングランド銀行(英中央銀行)が同日0.5ポイントの利上げを発表しており、新興国でもインドネシアやフィリピンの中銀などが金融の引き締めを決定しています。
世界的な引き締めサイクルが広がる中で、これに逆行するトルコ中銀の利下げ判断に市場は動揺を隠せず、トルコリラは一時1ドル=18.42リラと、昨年12月に本格的な通貨危機時に見舞われた際の安値を下回り、最安値を更新したとされています。
トルコのエルドアン大統領は、「高い金利は景気を冷やす」と独自の主張を強く訴えており、トルコ中央銀行は大統領の意に沿う形で金利の引き下げを決めたようです。
一方、こうした「エルドラン・ポリシー」の下で、トルコ国債の保証コストを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは、2008年の世界金融危機時を上回る水準に上昇。政府・中銀の介入等により若干の持ち直しがあったものの、危険水準の700ベーシスポイントを超える水準が続いているとされています。
足元のGDP統計見る限り、一見すると堅調に推移しているようにも見えるトルコ経済。4~6月期の実質GDPは前年同期比+7.6%と、8四半期連続で着実にプラス成長を刻んでいます。また、9月に発表されたOECDの経済見通しでも、2022年のトルコの成長率見通しは前年比+5.4%と、6月時点から1.7%の上方修正が見込まれているということです。
来年6月に大統領選挙を迎えるトルコでは、恐らくは経済政策、中でも物価高騰対策が最大の争点となるでしょう。そこを見据え、(こうして)トリッキーな動きを見せるエルドアン政権の今後について、10月18日の日本経済新聞は「きしむ世界、揺れる新興国」と題する特集において、『トルコは曲芸師か』と題する興味深い論考記事を掲載しています。
「このインフレ下では考えられない売れ行きだ」…ヤンマーのトルコ法人トップは農機販売の好調ぶりに目を見張っている。実際、トルコにおけるトラクターの販売価格は年初から7割超も上昇しているにもかかわらず、1~8月の国内販売台数は過去5年間の平均と比べ2割以上伸びているということです。
その秘密は金利にある。対前年で80%を超えるインフレ率に対し政策金利は年12%にとどまり、さらに政府の補助で国営銀行は半分の6%で農機購入ローンを提供していると記事はしています。これは見方を変えれば、現金を農機に換えれば「もうかる」構造になっているということ。実際、投資や資産保全目的で購入する例も増えているということです。
トルコは今年9月、2会合連続で政策金利を引き下げ、インフレを考慮した実質金利のマイナスをさらに深掘りした。インフレに対抗するため引き締めを進める世界の中銀とは逆方向の緩和に突き進んでいるというのが記事の認識です。
「世界経済が下向きになっても、我々のトルコ経済モデルは成長を続けている」…低金利による成長を掲げる大統領、レジェプ・タイップ・エルドアンは4~6月期も前年同期比で7.6%となった経済成長率を(そう)誇ったということです。
一方、通貨リラは売られ、対ドルの価値は1年前の半分以下。労働人口の半分が月5500リラ(約4万3000円)の最低賃金で働くトルコで、高インフレは庶民の懐を直撃しているのも事実だと記事はしています。
支持率の低迷に悩むエルドアンは2023年半ばに予定される大統領選挙を見据え、さらなる金融緩和と財政出動で(このまま)乗り切る構えを見せている。足元の国家財政を顧みることは敢えてせず、年内にも政策金利を1桁にする可能性にも言及したということです。
さらに、エルドアンは政権維持のためロシアにも接近する。7月以降、ウクライナ侵攻で孤立するロシア大統領のウラジーミル・プーチンと4度にわたって会談、トルコ国内でロシア国営ロスアトムが進める原子力発電所の建設推進で合意したと記事は記しています。
ロスアトムは8月、トルコ国内の子会社に建設資金として50億ドル(約7400億円)を送金した。その後も続く送金の総額は100億ドルを超えるとされ、一部がトルコ国債の購入に充てられているということです。
エルドアン大統領率いるトルコの財政運営には、利下げにより企業の借入コストが低下しインフレ抑制につながるという認識があるほか、彼の主要な支持層である建設・不動産セクターにとって低金利環境が望ましい、といった理由があるとされています。
いずれにしても、曲芸師のようなトルコの綱渡りは、ウクライナ問題も含めた国際政治にも影を落とすと記事も指摘しています。ヨーロッパ世界とアジアをつなぐ要衝の国トルコは、一体どこへ行こうとしているのか。トリッキーなエルドアン大統領の動きから、しばらくは目が離せそうにありません。
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