旧統一教会と自民党との(ある意味)抜き差しならない関係が、野党はもとより多くのメディアで取沙汰されています。
さらに、岸田首相が即決した安倍晋三元総理の国葬への国民の反発も重なって、誕生以来の厳しい状況に置かれている岸田文雄政権。そうした折、政府が(物価高対策の一環として)住民税非課税世帯を対象に1世帯当たり5万円を給付する事業の実施を決めたと報じられたことから、「またもや高齢者への人気取りか…」と揶揄する声が大きくなっているようです。
もとよりこの対策は、エネルギー価格や食料品価格の高騰が続く中、生活困窮者対策が必要との観点から実施されるもの。今回、給付の対象となるのはおよそ1,600万世帯で、政府は国会で事前の審議が必要ない(つまり国会の審議を経ずに内閣が自由にできる)「予備費」から、約9,000億円(1兆円近い)の支出を想定しているということです。
一方、全世帯への一律給付でなく、住民税非課税世帯に限定されている点に対しては、「物価高で困窮しているのは何も非課税世帯に限った話ではない」と不公平感を露わにする向きが多いのも現実です。
9月13日に発表された国民民主党の「緊急経済対策」では、国民1人一律10万円給付をする「インフレ手当」(総予算10兆円)の給付を提案するなど、「給付をするなら国民全員に」との声には依然根強いものがあるようです。
こうした状況に対し、9月7日のYahoo newsに関東学院大学教授の島澤諭(しまさわ・まなぶ)氏が『住民税非課税世帯とは誰なのか?-物価対策の5万円給付は高齢世帯へのバラマキ-』と題する論考を寄せているので、参考までにその内容を紹介しておきたいと思います。
給付金の対象として、最近しばしば耳にするようになった住民税非課税世帯という言葉。(省略されているのでわかりにくいのですが)これは同一世帯の全員の「住民税均等割」が非課税の世帯のことを指すものだと島澤氏はこの論考で説明しています。
「住民税均等割」とは、所得金額にかかわらず(「1人いくら」と)定額で課税される地方税のこと。性格的には「人頭税」にも近いものの、所得が一定以下の場合はかからなくなるところが一般的な人頭税とは異なるということです。
つまり、今回の給付が実施されれば、(本人が働いていようがいまいが)「住民税均等割が非課税」でさえあれば年齢問わず支給対象となるということ。定期的な収入の中から様々な控除を行った残りの所得が一定以下であれば、(交付申請などの面倒な手続きをせずとも)5万円が口座に振り込まれるということになります。
それでは、そんな(羨ましい)住民税非課税世帯の年齢構成はどうなっているのか。厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、当該「非課税世帯」は全世帯の23.3%、日本中の世帯の約4分の1が非課税世帯に該当するとされています。
これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれでしょうが、要はそれだけの世帯が税金を納めていないということ。そして、そのうちの72.5%(約4分の3)を占めるのが65歳以上の高齢世帯だということです。
その意味するところは、今回5万円の給付対象となる人の多くが年金受給者だということ。保有資産の多寡に関わらず、年金支給額が一定以下であれば今回の給付対象になると氏は言います。
しかも、年金受給者の場合は勤労世帯よりも所得要件が緩く、勤労世帯ではだいたい年収100万円以下であるのに対し、65歳以上の年金受給者の場合は概ね155万円以下で住民税非課税になる。さらに、配偶者を扶養している夫婦二人世帯の年金生活者の場合は、年収211万円以下でも住民税は非課税のままだということです。
一方、会社員に専業主婦、子ども1人の3人の現役世帯では年収205万円以下、また子ども2人の4人世帯であれば年収255万円以下が目安となる。このように、給付金の受給資格要件を住民税非課税であることとすると、年金という安定した「金融資産」をもつ高齢世帯へのバラマキになってしまうというのが、この論考において島澤氏の指摘するところです。
さて、世帯主の年齢が65歳以上の世帯の貯蓄額は平均でも2000万円を超えていると言われています(2021家計調査)。このように、住民税の課税・非課税が「低所得=生活困窮」の判断基準として適当でないにもかかわらず政府がこの基準を使い続けているのは、(国民の所得を行政が正確に把握できないという)実務上のハードルがあるからに他なりません。
結局のところ、給付の対象を絞り込めば不公平感が増し、一律に広げればバラマキの誹りを受けることになる。所得や預貯金の状況は個人情報にかかわることだけに反発は大きいかもしれないけれど、やはり(ぼちぼち)ナイナンバー等を活用した行政情報のDXを推し進めなければならい時期なのかもしれません。
いずれにしても、極めて高額な財源を投じるのですから、政策の効果とともに国民の公平感(=納得感)を得ることは重要なこと。生活が安定している高齢世帯も、安定した収入源を持たない困窮勤労世帯も同列に扱い、一律に同額をばらまくのは公平な政策とは言い難いと考える島澤氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます