安倍政権の進める成長戦略の一環として、外国人労働者の受け入れ拡大を目指した出入国管理法改正案)」が衆議院を通過し、今国会中の成立を目指して与野党の攻防もいよいよ本格化しています。
経団連など財界の強い要請を背景に、安倍政権は何としても今国会での可決・成立、来年4月の施行に向け強い意欲を示しています。
しかし、朝日新聞社が11月に行った全国主要100社への調査でも約4分の1に当たる24社が「議論が拙速」と回答するなど、人手不足に直面している経済界にも(外国人の労働市場への本格参入には)一定の懸念があることが見て取れます。
これから企業には、(こうした)外国人労働者の受け入ればかりでなく、女性や高齢者の活用、LGBTへの対応、そして様々な働き方の労働者が協働するダイバーシティの実現が求められるようになっています。
日本企業では遅れがちだった、構成員の多様性を前提とした「ダイバーシティ・マネジメント」が、今ほど重要視される時代はなかったと言ってよいでしょう。
もちろん、ダイバーシティ・マネジメントには、従業員の構成を性別や人種の点で多様化するばかりでなく、多様な人材を活用して組織やチームのパフォーマンスを上げていくことが求められています。
男女間や人種間の格差是正に目を向けるばかりでなく、異質な人材が集まり協働することで、同質な集団環境の中からは得られないイノベーションを起こしていくことが、企業にとってのダイバーシティの(究極の)目的だということです。
さて、「ダイバーシティ」という流行り言葉を大上段に構えるまでもなく、違った個性の持ち主にチームワークをもたらし、目標に向けそのパフォーマンスを存分に発揮させることがリーダーの役割であることは言うまでもありません。
労働市場のグローバル化が進めばなおのこと。異質で多様な人たちからなる創造的な組織やチームを一体どうやって作り出すのか、(そしてそれを)どのように統率していくかが、これからの企業経営のカギを握っていると言ってもよいでしょう。
日本経済新聞のコラム「やさしい経済学」(11/26,27)では、南山大学教授の中村和彦氏がマネジメント理論の基本に立ち返り、従業員が多様化し孤立化するこれからの組織の在り方について興味深い指摘を行っています。
氏はこの論考において、組織(のマネジメント)には「タスク」と「リレーション」という重要な2つの軸があると説明しています。
タスクの軸とは、仕事や業績に関心を向け、その達成のために働きかけることを重視するもの。一方、リレーションの軸では、人や関係性といった人間的側面に関心を向け、関係構築を目指して働きかけることを大切にするということです。
組織開発や社会心理学の多くの研究によって、職場や組織が活性化して成果を上げるためには、タスクとリレーションの両方が機能する必要があることが明らかにされていると中村氏は指摘しています。
日本の企業でも、1980年代まで業務の遂行と関係構築の両方を重視しQCサークルや小集団活動を通してタスクとリレーションの両立を目指してきた。しかし、バブル経済崩壊以降、成果主義が導入されることで、企業組織はより「タスク」を重視するマネジメントに変わっていったということです。
多くの企業において、四半期決算の導入や製品サイクルの短期化などにより、短期的な成果を求めるようになった。そしてその結果、数字しか話されない会議(結果を数字で判断し、数字をどのように上げるかを話す会議)ばかりが増えたとういうのが氏の印象です。
もちろんこうした状況では、従業員のモチベーション、上司と部下の信頼関係、職場内の協働といった人間的側面(リレーション)は軽視され、職場でのストレスが問題視されるようになったと中村氏はしています。
本来、組織開発においてトレードオフではなく両輪となることが求められているタスクとリレーションの関係が崩れ、組織パフォーマンスの持続性に影を落としているということです。
そうした状況を象徴するかのように、現在の日本企業では「おひとりさま職場」が増えているというのが中村氏の認識です。
上司は仕事を個人に振り分け、部下は仕事を1人で抱えてこなし、隣の席の人が何の仕事をしているか分からない。「個業化」とも呼ぶべきこうした状況は、従業員に団体戦ではなく個人戦を求めているようなものだと氏は指摘しています。
例えば、パソコンの操作は1人で行うため、一人一台のパソコンの導入が個業化を推進したのは誰もが認めるところでしょう。
また、比較的簡単なルーティンの仕事が次々と外部委託されたことで、社内の仕事は高度化して専門的になり、担当者にしか分からない業務が増えてきたのも事実です。
そしてそれぞれの職場では、仕事は個人に割り当てられ、担当者が個人でこなす「分業」が一般的になりました。さらに、今後リモートワークが広がれば、分業と個業化はさらに進行していくだろうと中村氏は見ています。
こうした分業と個業化には、実際多くの問題や弊害があると氏は言います。
まず、仕事を1人で抱えることになり、負担が多い場合にはストレスが高まることになる。そこをフォローするために、上司や同僚が心理的な支援をしたり補完したりする必要が生まれるということです。
また、中村氏は、分担した仕事の間に落ちるような狭間の業務について、個業化された環境では誰もカバーしようとしないことも挙げています。
さらに言えば、分業と個業化のもとでは職場での教え合いや人材育成がなされないということも前提として認識しておかなければなりません。
突き詰めれば、極端に個業化された組織は、自分の業務のことだけ考え、支援や助け合いがない個人プレイヤーの集まりと化した集団となるということでしょう。
こうした「おひとりさま職場」になるのを避けるには、仕事は団体戦であることを意識づけ、チームとしての支援や協働の関係を構築する取り組みが必要だと、中村氏はこの論考で指摘しています。
このような風土は、ある手法や解決策を導入すれば醸成されるというわけではない。協働の必要性を伝え続け、分業と個業化という現状について、マネジャーと職場のメンバーがコミュニケーションを通じてともに考えながら見直していくことが必要だということです。
ここで氏は、チームワークを機能させるための取り組みとして、
(1)分業する際に主担当とフォロー担当を決め複数メンバーによる支援関係を構築すること
(2)互いの負担状況や仕事のノウハウを共有する場(朝会など)を設けること
(3)チームとして協働するような仕組みを導入すること
の3つを挙げています。
どんなに才能のある個性的なプレイヤーが集まる職場でも、コミュニケーションを密にし予め助け合いのルールを作っておくという(基本的な)作業の如何が、創造性と生産性の両方を維持するカギを握っている。
ダイバーシティの果実を得るのは、結局のところこうした配慮ができる中間職のリーダーを擁する(ある意味「しっかりした」)企業だということでしょう。
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