MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2705 なぜ「粉飾倒産」が増えているのか?

2025年01月07日 | 社会・経済

 赤字決算を黒字に偽ったり売上の過大な水増しや資金由の不正流出などを隠ぺいする(いわゆる)「粉飾決算」の発覚による倒産が急増していると、昨年10月8日の「東京商工リサーチ」が報じています。記事によれば、特にコロナ禍の業績悪化を隠ぺいし事業再生を目指す企業で目立つ由。2024年度上半期(4-9月)だけで11件(前年同期比120.0%増)と、前年度同期の2.2倍に達しているということです。

 タイミングとしては、(いわゆる「ゼロゼロ融資」などによる)コロナ禍の資金繰り支援で隠れていた粉飾決算が、事業継続を求めて金融機関などに支援を要請する際に発覚したり、粉飾決算を告白したりするケースが目立つとのこと。「粉飾決算」による倒産の多くは負債1億円以上で、10億円以上が8割以上(同81.8%)に達するなど、既に「手のつけようがない」状態で発覚するケースが多いのが特徴のようです。

 因みに、業歴でみると最も多いのは「創業30年以上」の実績のある老舗企業とのこと。コロナで傷んだ会社をなんとか復活させたい…という気持ちが強い余りにコンプライアンスに触れる行為に走ってしまったのでしょうが、その見返りは厳しいものだということでしょう。

 企業倒産を巡るこのような状況に対し、経済評論家の加谷珪一氏が「10月30日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に、『日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...』と題する論考を寄せているので、参考までに指摘の一部を小欄に残しておきたいと思います。

 粉飾決算が発覚して倒産・廃業するケースについては以前から一定数存在していた。しかし、(近年は)コロナ危機によって政府の手厚い支援策が実施されていたことで、経営不振が表面化しにくい状況だったと加谷氏はこの論考で説明しています

 しかし、コロナからの景気回復に加え、金融正常化に伴う金利の上昇で銀行のスタンスに変化が生じ始めた。企業の資金繰りをめぐる環境が変わり、今後は粉飾決算の表面化や倒産がさらに増える可能性があるというのが氏の指摘するところです。

 一口に「粉飾」と言っても、企業が不正会計を行っていても、資金調達環境に大きな変化がなければそう簡単には外部に発覚することはない。粉飾決算を行う企業はどう変えれば外部から疑われないか熟知しており、取引先や金融機関側が不正の存在を前提に動かない限り表面化しにくいのが現実だと氏は言います。

 ではなぜ、このタイミングで粉飾が発覚するケースが増えたのか。政府は20年、コロナ危機への緊急対策として、実質無利子・無担保で融資を行う、「ゼロゼロ融資」と呼ばれる支援策を実施した。氏によればそれは、パニック的な倒産を回避するという点で一定の役割を果たしたものの、経営が行き詰まっている企業を抜本的に救済するための仕組みではなかったということです。

 (そして2024年に入り)この「ゼロゼロ融資」の返済がスムーズにできず、金融機関に対して返済猶予などを申し入れる企業も増えてきた。そうなると、銀行側は当該企業の経営状況について改めて審査を行うことになるので、その過程で粉飾決算の事例が表面化するケースが目立つようになったということです。

 こうした動きに拍車をかけそうなのが、日銀による金融正常化だと氏は続けます。日銀が利上げを実施したことで、企業に対する貸付金利にも変化が生じている。金融機関が融資条件を変更する場合は「再審査」が行われるケースも多く、今まで審査対象になっていなかった項目もチェックされることになるので、粉飾が表面化しやすいということです。

 しかしながら、一般的には倒産数の増加は問題とされるが、(それ自体は)一定数の企業が新陳代謝によって交代することは市場メカニズムが健全に機能している証左であり、倒産が少ない状態というのは問題が先送りされていることの裏返しでもあると、加谷氏はこの論考の最後に指摘しています。

 経営に行き詰まった企業が倒産し、優良企業がその従業員や営業基盤を引き継ぐことは生産性の向上と賃上げにつながる。幸いなことに今は空前の人手不足であり、企業倒産が増えても失業率が急増するリスクは少ない。粉飾倒産の増加と銀行の融資姿勢の変化は、来るべき時が来たというサインと捉えることもできるということです。

 さて、(無利子無担保で、長い返済猶予期間があった)「ゼロゼロ融資」の返済が始まり、一定数の企業が「借り換え」や(「リスケ(リスケジュール)」などと呼ばれる)「条件変更」に動いているのは広く知られるところ。こうした中でいよいよ、市場において淘汰されるべき企業群が、順次浮かび上がってきているということでしょうか。

 一部の経済アナリストには、「ゾンビ企業を延命させた」と評判の悪かった「ゼロゼロ融資」。その賞味期限を迎え、「正常化」に向けた動きが(まずは)こうした形で表れ始めている(ということ)だろうなと、私も改めて感じているところです。



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