2024年11月の米国大統領選で当選したドナルド・トランプ氏。今年1月20日の就任式を機に、大統領に返り咲くことが決まっています。世界の大富豪や経済人が(トランプ氏が滞在する)フロリダのパームビーチに秋波を送る中、東京商工リサーチが行った調査によれば、トランプ氏が米国大統領に就任することで業績面に「マイナス」の影響があると回答した日本企業は28.1%で、「プラス」と回答した企業の8.6%を19.5ポイント上回ったということです。
産業別では、10産業すべて「マイナス」の回答が「プラス」を上回り、特に、「マイナス」回答率では、農・林・漁・鉱業が43.5%、製造業が34.5%と際立った由。関税政策では、すでに中国への追加関税や、各国一律10~20%程度の関税を課すことを主張しているトランプ氏に不安を感じている企業は多いようです。
もっとも、そうした影響自体がトランプ氏の狙いとも言えるところ。就任前から各国の政治や経済に揺さぶりをかけ米国の影響力を最大限に発揮させようという戦略は、既に半分成功していると言えるかもしれません。
「何をしでかすかわからない…」世界が抱くそんな警戒感を踏まえ、エール大学教授で哲学者のジェイソン・スタンリー氏が12月18日の日本経済新聞(特集「トランプ再び」)に『「一党独裁」3千選否定できず』と題する論考を寄せ(トランプ氏を思いっきりこき下ろし)ているので、参考までに小欄でその内容を紹介しておきたいと思います。
トランプ氏は権力を1人で牛耳る「パーソナリスト(独裁者)」。次期政権はワンマンな一党独裁のようなものになるだろうと、スタンリー氏はこの論考の冒頭で予言しています。
イデオロギーがないから「ファシスト」ではないとの意見もあるだろう。しかし、移民や性的少数者(LGBTQ)が国家や家族を脅かすと扇動し、「救えるのは自分だけ」と主張するのはファシスト的で、トランプ運動の中核だと氏は言います。
世界一の経済大国で多くの貧困や極端な富の格差を目にし、現状に強烈な不満がある米国の有権者には、互いに譲り合う制度である民主主義が弱々しく見える。民主主義が(実際に)人々を幸せに豊かにしない限り、人々は強い独裁者に投票するというのが氏の指摘するところです。
一方のトランプ氏はマフィアのボスのようなもので、人々に望むのはまず「忠誠心」。第1次政権で登用した有能な人材は最後に「彼は独裁者だ」と背いたが、同じ過ちを繰り返さぬよう、不祥事など問題がある人々を味方につけるだろうと氏は言います。なぜなら、(脛にそうした傷があればこそ)相手をコントロールできるから。能力より忠誠心で部下を選ぶとは、そういうことだということです。
いずれにしても、トランプ氏の最終目標は刑務所に入らず、自分と家族を裕福にし、死ぬまで権力の座に居座ることのはず。我々は初代大統領ジョージ・ワシントンが任期2期で退く英雄的な決断をしたと習ったが、「英雄ではない人」は2期で退くだろうか。我々は、今後、彼が居座ることなどないと思い込もうとしているだけだと氏は続けます。
合衆国憲法は「大統領職に2回を超えて選出されることはできない」と定めるが、おそらくトランプ氏は気にしない。事業家としても法律など気にしていなかった。こうした人物を打ち負かすのは非常に厄介だというのが氏の認識です。
(トランプ氏が主導した)外国人やLGBTQを排斥する政治が成功した背景には、現状の失敗があるとスタンリー氏は述べています。米国の人々は「民主党は偽善的」との怒りを抱いている。リベラルなエリートに恥をかかせ、苦しめたいというのがトランプ氏と支持者の共通の願望であり、「報復」として顕在化したのが今回の選挙結果だということです。
共和党は(その手段として)真実と虚偽を「区別」する仕組みを意図的に壊した。メディアは双方の意見を平等に伝えようとし、それがまた逆に真実を潰す。そして、言論の自由を利用して虚偽を含めたあらゆる意見が同等になると、人は何を信じていいのか分からなくなると氏は言います。
世界が米国の現状にいまさら驚くことすら既になくなった。米国がイスラエルのネタニヤフ政権を全面支持し、パレスチナ自治区ガザで膨大な犠牲を出していることで、すでに米国の国際的評価は深く傷ついている。民主化の推進や人権問題に対する圧力は、今やほとんど期待できないということです。
スタンリー氏はこの論考において、民主主義の最大の問題は「人々が暴君に投票すること」だと厳しく指摘しています。そして、暴君に投票させないように不平等を解消するには、(残念ながら)多くの時間がかかるということです。
人々はウソをつくトランプ氏を偽善的と思わず、偽善的な政治家の集まりで弱々しい民主主義を敵のように見る。古代ギリシャのプラトンが民主主義は専制政治に転落すると考えた理由もそこにあると話す政治哲学者としてのスタンリー氏の言葉を、私もこの論考で大変興味深く読んだところです。
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