MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1964 政争がもたらす3つの行き過ぎ

2021年09月13日 | 国際・政治


 与党自民党内では、9月29日に予定されている自民党総裁選後の政治日程について調整が進んでいるようです。
 10月初旬に臨時国会を召集し、首相指名を受けた新首相が所信表明演説と各党による代表質問の後、新首相が衆院解散・総選挙に踏み切る。その場合、10月中の衆院選は困難となり、10月21日の議員任期を超えた「10月26日公示―11月7日投開票」か「11月2日公示―14日投開票」が有力視されているということです。

 今回の選挙の最大の争点は、(もちろん)新型コロナ感染症をどのように収束させていくかということになるでしょう。ワクチン接種の拡大や病床確保の問題、ロックダウンなどの強い措置の導入をどうするかなど、課題もいまだたくさん残されています。
 また、コロナで傷ついた経済をどのように立て直していくかも、今回の選挙の重要な争点となることでしょう。給付金をどうするのか、GoToキャンペーンはどのタイミングでどう実施していくかなど、メディアも注目しているところです。

 さらに、コロナから離れれば、少子高齢化などにともなう社会保障費の急増にむけて、財源をどのように確保していくのかも重要な論点です。消費税の減税なども視野に、ポストコロナに向けた与野党の議論が盛んになると予想されます。
 その他、DXの推進や脱炭素などの環境対策、米中対立を前提とした安全保障など様々な論点が考えられますが、いまだ「平時」とはいいがたい状況の選挙であるだけに、提示される公約は(その規模や内容において)かなり「過激」なものになってくるかもしれません。

 「週刊東洋経済」の9月18日発売号では、こうした「国難」のタイミングで政治がもたらしがちないくつかの「リスク」について、大正大学教授の小峰隆夫氏が「政争が招く3つの行き過ぎリスク」と題する論考を寄せています。

 選挙が近づくと、政治家は通常以上に世間の反応に敏感となり、国民に受け入れやすい政策を提示しがちになる。そして、対立する候補の政策を、「国民感情に反する」として攻撃することが多くなると小峰氏は言います。
 こうした国民感情を軸とする政争は、特に現在のようなコロナ危機下においては、以下の三つのリスクをもたらし易いというのがこの論考における氏の見解です。

 その第1は、経済活動を抑制しすぎるリスクです。
 新型コロナ感染症はより広まりやすく、より重症化率の低い病気になりつつあるとされている。人流抑制の感染予防効果が限定的となる一方で、ワクチン接種や治療法の確立が進めば、経済活動の再開と医療体制の整備が対策の本道となるだろうと氏は予想しています。

 しかし、経済活動をもっと強く制約すべきだという考えも依然根強いため、経済活動を再開しようとすると「人の命よりも経済を優先するのか」といった反発を招きかねない。こうした国民感情に引きずられていると、経済の停滞が不必要に長引き、国民は大きなコストを払うことになるということです。

 第2は、財政のバラマキが行き過ぎるリスクだと氏は指摘しています。
 コロナ危機下では、感染予防、経済的被害の救済などで財政出動を求める声が強まりやすい。こうした要求に応じるには財源の裏付けが必要となるが、国民感情は当然負担を嫌います。

 すでに野党からは「国民は困っているから」という理由で、消費税の減税や廃止といった議論まで出てきている。日本人はなぜか消費税が大嫌いなので、こうした主張を喜ぶ国民も多いだろうと氏は見ています。
 しかし、消費税減税・廃止論には(代替財源も含めて)問題が多すぎる。財政規律を書いた歳出拡大は当然財政赤字を増やす。超低金利によって、国債をゼロコストで発行できるうちは良いが、金融環境が変化した時を考えると将来に大きな禍根を残すというのが氏の認識です。

 つづく第3のリスクとして、小峰氏は(政治が)政策の負の側面を強調しすぎることを挙げています。
 日本のコロナ対策に多くの問題点があったのは間違いない。しかし、国際的に見れば人口当たりの死亡者数が非常に少ないうえ、ワクチンの接種率も急速に進んでいると氏はしています。
 さらに、雇用への影響が限定的であるなどプラスの面が多い中、政策のミスばかりが強調されれば、国民全体が過度に悲観的になり、経済までをも委縮させかねないというのが氏の懸念するところです。

 では、どうすべきなのか。現在の国難ともいえる事態に関しては、これを政争の材料にすることなく、超党派で対応を協議し政策を進めることが望ましいと氏はここで指摘しています。
 これまでの対策は対策として、新たなスタートラインに立ってできることを地道に積み上げていく。有権者受けする(派手な)バラマキ政策ばかりでなく、業界や地域の状況合った(小規模でも)丁寧な対応が求められるということでしょう。

 必要なのは、ポストコロナの社会の基礎をしっかり作り上げていくこと。守勢から攻勢へのスイッチをうまく切り替えることができるのか、日本の政治が試されていると言っても過言ではありません。
 世論に流されないため、専門家の意見も十分に取り入れていくべきだ。実行は難しいかもしれないが、(政局にかまけず)ぜひ真剣に考えてもらいたいとこの論考を結ぶ小峰氏の視点を、私も興味深く受け止めたところです。




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