MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1752 懸念される場外乱闘

2020年11月01日 | 国際・政治


 11月3日の投開票を目前に、現職のトランプ大統領とバイデン元副大統領がしのぎを削る米国の大統領選挙ですが、ここに来て、開票日当日になっても10余りの州で投票結果の大勢が判明しない事態が生じる可能性が報じられています。

 今回の大統領選挙では、新型コロナウイルスの影響で郵便投票と不在者投票が大きく増加していることに加え、州によって集計方法がかなり異なるため開票作業が遅れる可能性が高いということです。

 そして、もしも開票作業が遅れた場合、トランプ大統領が法廷闘争に持ち込んだり一方的に勝利宣言したりするなどの懸念があり、多くの米国内メディアが(投開票日後の選挙の行方について)これまでにない混乱の発生を予想しています。

 実際、トランプ大統領は具体的な根拠を示さないまま「郵便投票が民主党による幅広い不正につながる」と主張しており、得票数でバイデン候補に及ばなかったとしても、政権を平和裏に引き渡すと約束することを繰り返し拒んでいるということです。

 こうした状況を受け、選挙前からさまざまな団体がデモの計画を立てているとされ、市民の間にも(混乱に便乗した)略奪や破壊活動などへの不安が広がっていると伝えられています。

 こうした事態に備え、各州では投票所に武装した州兵や警察官を配置してテロなどの破壊行為に備えており、首都ワシントンでは、建物の窓ガラスを木の板で覆う作業が急ピッチで行われているとの報道もあります。

 専制的な指導者が法律を無視し強権的に振舞う発展途上国であればまだしも、自由主義世界を牽引する米国のリーダーを選ぶための選挙がこのような状況にある事を、一体どのように受け止めればよいのか。

 米国の民主主義の劣化を象徴するかのように、こうして混迷を極める米国の大統領選挙に関し、10月23日の日本経済新聞のコラム「大機小機」は「米大統領選 プロレス流観戦法」と題する皮肉を込めた一文を掲載しています。

 トランプ米大統領はプロレス好きで知られている。1980年代に自身が経営するカジノにプロレス興行を誘致したのがその始まりだと、筆者はこのコラムの冒頭に綴っています。

 トランプ氏自身、実際にプロレスイベントのリングに上がったこともある。その時の場外乱闘でトランプ氏が放ったラリアットのシーンは、大統領就任後に相手を「宿敵」米CNNテレビに見立てて修整が加えられ、SNS(交流サイト)で発信されたということです。

 プロレスを好む国内の(伝統的な)大衆に向け「トランプ=戦う男・強い男」というイメージを発信するための戦略だったのでしょうが、もとより敵役をはっきりさせて大衆をあおるトランプ流の演説は、プロレスのマイクパフォーマンスを彷彿とさせると筆者は指摘しています。

 そして、11月3日の米大統領選の投票日まで2週間を切るなかで、追い込まれたトランプ氏の選挙戦略は、益々プロレス的になっているように見えるというのがこのコラムにおける筆者の見解です。

 振り返れば、9月末の大統領候補者のテレビ討論において、トランプ氏は司会者の再三の制止をものともせず、バイデン候補の発言中に妨害発言を繰り返した。メディアに「史上最悪」と評されたこの討論も、トランプ氏にしてみれば、5カウントまでは反則が許されるプロレス流の戦い方なのだろうと筆者は説明しています。

 トランプ氏はそもそも大統領選の決着自体をプロレス的な場外乱闘に持ち込もうとしているようにみえる。民主党の票が多数を占めるとみられる郵便投票を「不正の温床」とこきおろしているのも、その後の法廷闘争という場外乱闘を見据えた戦略ではないかというのが筆者の認識です。

 一方、そうした視点に立てば、(見かけからも分かるように)バイデン氏は善玉役ベビーフェースを演じる構えに見えると筆者は話しています。

 トランプ氏の新型コロナ対策の失敗を糾弾し、大統領の資格はないと国民に訴える。正義の味方はヒールの無法な挑発を(今は)敢えて正面から受け止め、怒りをためる姿を観衆に印象付けているといったところでしょうか。

 さて、今後の展開として、リング上に立つバイデン氏が(今後)トランプ氏の場外乱闘作戦による混迷を避ける方法はただひとつ。相手を場外に逃がさず、リング上で正々堂々とピンフォール勝ちすることだと筆者はこのコラムに記しています。

 ベビーフェイスが満場の観客から喝采を浴びるためには、誰がみても圧勝という結果を大統領選で出すことが重要になる。この決戦が米大統領選に新たな歴史を刻む名勝負になるのか大乱戦になるのか、世界が固唾をのんで見守っているということです。

 散々やられてきたベビーフェイスが最後に怒りの鉄拳をふるう。力道山の空手チョップが炸裂するのはまさにこの瞬間と言えるでしょう。

 もしもこのまま場外乱闘へ持ち込まれれば、(気が付けば)ヒールによってパイプ椅子などが振り回され、両者の額が割れたりして(場合によっては観客をも巻き込んだ)流血の騒ぎが起こるのは必至です。

 訳の分からぬ混乱の中でゴングが打ち鳴らされ、勝敗が付かないまま20カウントの時間切れ。両者が勝利を宣言する中で、観衆はやり場のない思いを胸にしたまま家路につくほかありません。

 当然、最終的に勝者が決まったとしても観衆がチャンピオンへの敬意を払うことはなく、いずれ世の中はプロレスそのものへの興味を失っていくことでしょう。

 プロレスにせよ一国のリーダーを決める選挙にせよ、勝負のルールは誰のためにあるのか。その果実は結局のところ、観衆のためにあるのだという厳しい現実を、私たちは今忘れるわけにはいきません。



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