昨年6月、名古屋市内のタワーマンションに暮らす住人が、隣接地に建設された別のタワマンに眺望が阻害されたとして提訴したことが、不動産関係者の間で話題となりました。
名古屋地方裁判所に提訴したのは、地上42階建てのタワーマンションの住人3人。大手不動産販売の積水ハウスなどに対し、同社が隣地で開発を進めるタワーマンションのうち30階を超える部分の建設中止を求めて訴えを起こしたということです。
これを、「お金持ちの(独善的な)権利主張」と捉えるかどうかは別としても、地域の景観や文化、都市機能などに大きな影響を与えるのは大規模住宅開発の宿命のようなもの。特に、大都市圏を中心に超高層マンションの建設計画が次々と進められていく状況を見れば、今後は同様のトラブルが各地で発生してくる可能性は否定できません。
こうした状況の中、11月13日のビジネス情報サイト「ビジネス+IT」に、不動産ジャーナリストの榊 淳司(さかき・じゅんじ)氏が『湾岸タワマンは将来「負の遺産」確定?麻布エリアに「永遠に勝てない」悲しすぎる理由』と題するちょっと心配な記事を寄せていたので、参考までに(2回に分けて)概要を小欄に残しておきたいと思います。
いわゆる「タワマン」は、その人気ぶりから現在も次々と新築が続いている。2024年以降に完成を予定している20階建て以上の超高層マンションは全国で321棟、11万1645戸に上り、そのうち首都圏が194棟、8万2114戸で全国シェアの約7割を占めていると、榊氏はその人気ぶりを解説しています。
タワマンをはじめ、日本で「マンション」と呼称している集合住宅は、ほぼ「鉄筋コンクリート造(以下「RC」)という構造を採用している。RCとは、鉄筋の周りをコンクリートで固めた構造物を、建物の躯体に採用する建築手法のこと。一方、この手法を用いて高層建築物が盛んに建設され出したのはここ80年程度で、世界を見渡しても建築されてから80年以上のRC高層建造物はほとんどないと氏はこの論考で指摘しています。
そして氏によれば、RCはほかの構造の建物と比べ耐久性に優れているとされているが、それでも、やはり建築物として寿命があり、その耐久性は約100年と言われている由。RC構造の基本は鉄筋とコンクリートでできており、(コンクリートはおそらく数百年の耐久性がありそうだが)内部の鉄(Fe)には「酸化」し得る…つまり錆びる可能性があるということです。
RCの基本を成すコンクリートはアルカリ性。通常はこのアルカリ性が、コンクリートに囲まれた鉄筋に「不動態被膜」という膜を生じさせて鉄筋の腐食を防いでいると氏は説明しています。
しかし、長い年月を経て、大気中の二酸化炭素に触れてコンクリートがアルカリ性から中性へ変化したり、塩害によってコンクリート中の塩化物イオンの濃度が高まることなどにより不動態被膜が破壊されたりした場合には、鉄筋が錆びて酸化鉄腐食が進むことがある。鉄が酸化(錆びる)すると、その容積が膨張し、周囲のコンクリートを破壊。RCの躯体構造にひび割れなどが生じて(そこからさらに)空気や雨水が入り込み、強度が保てなくなるということです。
つまり、いくら丈夫と言っても、RC構造で建造されたすべてのマンションは、鉄筋の酸化(錆び)によっていずれ寿命を迎え得るということ。言い換えれば、RCのマンションとは長く見ても寿命が100年程度の期間限定の集合住宅だというのが専門家としての氏の認識です。
一方、外国に目を向ければ、築100年以上の建物に現在も人が住むことは決して珍しくない。たとえばパリでは、今でもナポレオン時代に建設された石造りのアパルトマンが健在で、集合住宅として機能していると氏は言います。ローマでは、カエサルの時代から続く石造の集合住宅に今でも人が住んでいる。(説明すれば)これらの建物は石造もしくは煉瓦造で鉄筋が使われていないため、錆びないから何百年でも存在し続けることができるということです。
しかし、日本のRCマンションではそうはいかない。日本は世界に冠たる地震国であり、石造や煉瓦造の高層住宅は現実的ではない。現に、1923年の関東大震災では東京・浅草の遊園地にあった12階建ての「凌雲閣」が倒壊。およそ10人の死者が出たが、この建物は煉瓦造であったと氏は話しています。以降、この日本では、煉瓦造の高層建築は事実上「ご法度」になった。もちろん、現行の建築基準法でも認められていないということです。
さて、(そういうことで)今の日本で高層建築を作る場合は、事実上RC一択とならざるを得ない。もちろん、日本の法的な建築基準は世界最高水準の耐震性を定めており、その分安全性は非常に高いと氏は指摘しています。
しかしその一方、こうした安全性との裏返しで、RCは建物が寿命を迎えた後の「始末」、つまり解体に手間がかかるというのが氏の懸念するところ。特に、高層建築物であるタワマンの場合、建築的に寿命を迎えて解体する場合には、通常タイプのマンションに比べて恐ろしく高額の費用も発生すことが予想されるということです。
100年先はどうせ生きていないのだから、取り壊しや建て替えなんて「知ったこっちゃない」と言ってしまえばそれまでですが、不動産を「投資物件」ではなく「資産」として残そうと思えば、そうも言っていられません。
後世の誰かが「ばば」を引くことになるかもしれない物件を、(今節税できるからと言って)子孫に残そうというのも何とも無責任な話。確かに、解体技術は今後100年で進むかもしれませんが、(解体困難とされる)原威力発電所の例もあるところ。少なくとも購入に関してはもう少し慎重に考える必要もあるのかなと、改めて感じている次第です。(→「#2712 タワマンの後始末」に続く)
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