MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2712 タワマンの後始末

2025年01月14日 | うんちく・小ネタ

 最近の首都高速道路を車で走ると、川沿いや臨海部のウォーターフロントを中心に(まさしく)林立するタワマンに目を奪われます。以前の日本ではあまり目にすることのなかった光景だけに、「ああいった場所に住んでみたいなぁ…」と思う若い人たちの気持ちもわからないではありません。

 しかし、例えば災害時の対応や停電の影響、荷物の受け取りからエレベータ渋滞に至るまで、その使い勝手についてはまだまだ不安の残るところ。そのうえ、100年後に建て替え時期を迎えた際に取り壊しに法外なお金がかかると聞けば、(特にシニア世代が)二の足を踏むのも致し方ないことかもしれません。

 そんなことを感じていた折、11月13日のビジネス情報サイト「ビジネス+IT」に、不動産ジャーナリストの榊 淳司(さかき・じゅんじ)氏が、『湾岸タワマンは将来「負の遺産」確定?麻布エリアに「永遠に勝てない」悲しすぎる理由』と題する論考を寄せていたので、(引き続き)指摘の一部を残しておきたいと思います。

  寿命がおよそ100年と言われるRC造のタワーマンション。しかし榊氏によれば、今のところ日本のタワマンで取り壊されたケースは、(氏の知る限り)九州・福岡に1件だけしかないということです。

 その際どれほどの解体費用が掛かったのかは不明だが、このタワマンのケースは異例で、2015年に発覚した耐震偽装ゴム事件の対象物件だった故に築20年程度で取り壊されたもの。しかもこのタワマンは賃貸で、いわゆる「ワンオーナー」。所有者が「ひとりもしくは1社」であるので、オーナーの意思決定のみで解体が可能だったと氏は説明しています。

 一方、分譲型のタワマンの場合には、所有者数は数百人以上であるのが普通のこと。今の日本の法制上では、(解体するには)そのほぼ全員が解体に同意し、かつ費用分担に応じなければならならず、現実的に考えれば区分所有法に従っての解体は非常にハードルが高いということです。

 しかしそれでも、(いくら遠い未来とはいえ)タワマンにも建物としての「終わり」の時は必ずやって来る。なのに、日本にある多くのタワマンは、その「終わり」まで想定されているとは言い難いというのが氏の懸念するところです。

 極端な話、東京の港区や千代田区で山手線の内側にあるタワマンは、建物の「終わり」がやってきても解決策はある。老朽化した建物を取り壊して、建て直せばいいと氏は説明しています。

 例えば、港区の麻布エリアにある500戸のタワマンが築60年を迎えたとする。タワマンの場合、容積率は一杯一杯なので、再建築する新たなタワマンも元の住戸数と同じ500戸しか作れない。ただ、港区の麻布エリアにある500戸のタワマンなら、管理組合は数年の議論を経たとして、も取り壊しての再建築を可決できるはずだと氏は話しています。

 その理由は「コスト」にある。1戸当たりの取り壊し費用はおよそ1,000万円。それに、再建築のためのコストが3,000万円かかるし、3年程度の仮住まいの家賃を2,000万円くらいは見込む必要があるかもしれない。しかしそれでも、500戸のオーナーは喜んで賛成し、合計6,000万円の費用を負担するだろうと氏は言います。

 なぜかと言えば、再建築されたタワマンの1住戸の資産価値が2億円程度に見込まれるから。総額6,000万円の費用負担と3年の仮住まいで、2億円のタワマン住戸が手に入るのであれば、このプランに賛成しないオーナーはいないということです。

 でも、これは港区の麻布エリアという、日本でも最高レベルに不動産価格が高いエリアだからこそ叶うシナリオだというのが氏の指摘するところ。さらに、不動産の資産価値評価や建築コストが現状のままであったら…ということが前提の話だというのが氏の見解です。

 さてそれでは、今盛んにタワマンが建設されている東京の湾岸エリアで、再建築されたタワマンの資産価値が6,000万円に満たない場合はどうなるのか。日本の人口は減少過程に入っている。このトレンドは今後何十年と変わらない。かつ、少子化で大きな人口増も期待できず、東京の住宅価格が現在のように上昇し続けることはあり得ないと氏は指摘しています。

 そんな中、東京という街が膨張し続けることを前提に開発されている湾岸エリアで、半世紀先でもタワマン1住戸が今の貨幣価値にして6,000万円を超える資産価値評価を得ているかどうか。湾岸埋め立てエリアが人気を保ち続ける未来が待つ保証は、現時点ではどこにもないということです。

 タワマンというのは、あくまで「限られた敷地に多くの住戸を作る」…ということに建設する意味(とコスト上のメリット)があると氏はこの論考の最後に記しています。確かに、それは通勤に便利で建物や街も新しくてきれいだからこそ。いくらウォーターフロントの眺望が良くても、実際に住むのに不便であれば(同じ価格帯なら)多くの人が麻布や青山、せいぜい高輪や品川辺りを選ぶでしょう。

 そう考えれば、現在の湾岸エリアにおけるタワマン建設の集中は、「まとまった土地がない」という開発事業者の都合に過ぎないと氏は言います。確かに、人口の減少や急激な高齢化が確実視されている現在の日本で、(例え東京都内とは言え)いつまでも今までのような不動産神話が続くとは考えにくのも事実です。

 都内の各所で次々と建ち上がっていくタワーマンション。確かに短期の「投資物件」としては魅力的かもしれませんが、未来の不動産評価が危うい埋立地で、(ただ「売れるから」という理由で)多くのタワマンを建設し分譲すること自体、子供たちの未来に「負の遺産」を残すことにもなりかねないのではないかと警鐘を鳴らす榊氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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