MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2116 有権者は馬鹿にされている

2022年03月22日 | 社会・経済


 自民・公明両党の幹事長らが政府に申し入れた、年金受給者への5000円の臨時給付に対する世論の批判が止まらないようです。ニュースネットワークのFNNが3月12日行った世論調査でも、「支給すべきでない」が54.5%と「支給すべき」の41.2%を10ポイント以上回る結果となったと伝えられています。

 何故、政府内で急にこういった話が持ち上がったのか。それは3月15日の午後、自公両党の幹事長・政調会長4人が首相官邸を訪れ、新型コロナの感染拡大の影響で受給額が減る年金生活者に一律5000円を給付する案を岸田首相に要請したことが発端だと報じられています。

 年金の支給額は、2021年の4月から現役世代の賃金動向と連動(マクロ経済スライド)することとされており、今回、新型コロナ感染拡大の影響で現役世代の賃金が減少したため、支給額はこの4月から0.4%減額される予定となっています。このため、年金の減額分を「ひとり5000円」の給付金で穴埋めしようというのが、今回の発想だということです。

 これとは別に、「10万円」という高額な支給が決まっている住民税非課税世帯を除くと対象者は約2600万人とされ、支給が1回限りのものだとしても必要な予算は1300億円を超えると指摘されています。もとより、自民党の高市早苗政調会長が主導していることからも、こうした発想がどこから(誰から)きているのかは想像に難くありません。

 一方、この夏に参議院議員選挙を控え、「選挙目当て」「買収」「バラマキ」といった各メディアの強い批判を前に、当初前向きだった岸田政権からも「どうしたものか」とたじろいだ様子が伺えます。

 こうした状況を踏まえ、公明党の石井啓一幹事長は3月18日の記者会見で、「年金生活者への支給は総合的な対策の一部だ。多くの人に波及するような追加の経済対策を考えている」と述べ、さらに高齢者以外への追加の支援策すら検討するという構えを見せています。

 「不公平」との批判があるのであれば、「じゃあ全員に…」ということでしょうか。こうして選挙があるたびに(バラマキと目されるような)一律給付金が検討される現在の状況に対し、3月20日の日本経済新聞に「与党は選挙のたびに給付金を配るのか」と題する社説が掲載されているのが目に留まりました。

 政府・与党が新型コロナウイルス対策の名目で調整を始めた年金生活者への5000円の給付金。「2022年度の年金額が0.4%減額になる分を補うため」…としているが、減額は現役世代の賃金水準にあわせて年金額を調整するもの。国会が(紆余曲折を経て)定めた法律に基づく改定であり、年金制度の根幹をなす措置を帳消しにするような給付金には賛同できないというのが記事の主張です。

 4月分以降の年金は、国民年金の満額受給者で月259円、夫婦2人の厚生年金の標準世帯で903円それぞれ減額になる。4、5月分は6月15日に支給されるため、与党はこれが7月に予定されている夏の参院選の逆風になると考えたのでしょう。

 (そこで)6月中に1人あたり5000円を配れば、1年間の減額分は帳消しにできるということかもしれない。しかし、選挙の票を目当てに有権者に給付金をばらまくような(あからさまな)政策は、まさに言語道断だというのが記事の指摘するところです。

 公明党は昨年の衆院選でも子どもに10万円を配る公約を打ち出して、選挙後に実現させた。自公政権は選挙のたびにこうして給付金を配るつもりなのだろうかと、記事は疑問を投げかけています。

 たとえ選挙対策でなくても、この政策の効果には疑問が残る。それは、飲食や観光など自粛政策で打撃を受けた業種で働く現役世代と異なり、高齢者の年金はコロナ下でも安定的な給付が確保されているからだというのが記事の見解です。

 収入が少なく住民税非課税の世帯には、(既に)10万円の給付金を配ることが決まっている。与党はこの対象になる高齢者世帯には今回の5000円は給付しないとしているが、そうだとすれば低所得者支援という政策にもあたらないと記事は言います。

 年金をもらいながら飲食店などで働く高齢者の中には、コロナで職を失ったり収入が減ったりした人もいるかもしれない。だがその対策は、1回限りのお金を配るよりも、その予算でシニアの就業支援策を充実させたほうがよいというのが記事の指摘するところです。

 そもそも現在の年金制度には、(大きな)欠陥が指摘されていると記事はしています。それは、少子高齢化の進展に合わせて年金給付を抑える措置が、賃金・物価の低迷でほとんど発動されず、このままだと将来の年金水準は大きく低下してしまうことだということです。

 さて、与党の幹部たちが、選挙の票はカネで釣れ、民衆(有権者)なんて所詮その程度のものだと考えているのだとしたら(まさに)とんでもないこと。政府の懐(つまり我々の税金が)与党の人気取りのために傷んでいくのを、がこのまま黙って見過ごしてよいはずがありません。

 若い世代ばかりでなく、(当事者である)年金受給者自身が「馬鹿にするな」と声を上げることで、政府も目を覚ましてくれるかもしれません。

 記事も指摘するように、将来不安を払拭する年金改革こそが与党がなすべき仕事であることは言うまでもありません。ところが今は高齢者に協力を求めるどころか、人気取りのばらまきに走っている。こうした状況に対し「あきれるほかない。」と厳しく結ばれた記事の視点を、私も強い共感を持って受け止めたところです。


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