MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2155 日本経済の課題③ 「金融正常化」

2022年05月13日 | 社会・経済

 5月4日、米国のFRB(=連邦準備制度理事会)は国内で進む記録的なインフレを抑制するため、①「22年ぶりとなる0.5%の大幅利上げ」と、②「量的引き締めと呼ばれる金融資産の圧縮」に乗り出すことを決めたと大手新聞各紙が報じています。

 FRBは4日までの2日間にわたり金融政策を決める会合を開き、政策金利を通常の2倍にあたる0.5%引き上げ、政策金利を0.75%から1%にすることを決定しました。さらに併せて、自身が保有する国債などの金融資産を来月から段階的に圧縮(市場に売却)していく対応を始めるということです。

 今回のFRBが発表した金融引き締め策を受け、5月10日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続落し、前日比84.96ドル安の3万2160.74ドルで取引を終えています。これは終値としては約1年2カ月ぶりの安値で、金融引き締めによって利ざやの減少が見込まれる金融株などを中心に大きく値を下げたとされています。

 一方、外国為替市場では、緩和方針を継続する日本とアメリカとの金融政策の方向性の違いを背景に円安ドル高が急速に進んでおり、今後も引き締めのペースをめぐるFRBのかじ取りに円相場が大きく左右されることが予想されています。

 日銀の黒田総裁は急激に進む円安について「全体としてプラスという評価を変えたわけではない」と容認の姿勢を崩しておらず、為替市場が1ドル131円台を指しても出口政策に向けて動く気配はありません。

 アベノミクスの開始から約10年間続いた日銀の金融緩和策。米国をはじめ先進各国が(インフレ懸念から)金融引き締めに向け舵を切る中、日本はどこに政策の転換点を見出そうとしているのか。

 折しも、5月10日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、「金融政策正常化、今が好機」と題する一文が掲載されていたので、参考までにその内容を小欄に残しておきたいと思います。

 ゴールデンウィークを控えた4月下旬。一段の物価高をもたらす「悪い円安」を食い止めるため、日本銀行が金融緩和を修正するとの期待が金融市場に浮上していた。しかし、そうした中で開かれた4月27、28日の金融政策決定会合において、日銀は逆に長期金利の上昇を抑える緩和姿勢を強化したと筆者はこのコラムの冒頭に記しています。

 インフレ懸念から多くの海外中央銀行は既に金融引き締めを進めており、日本でも4月の消費者物価(除く生鮮食品)は前年比で2%程度に達した可能性が高い。2%は日銀が2013年から掲げてきた物価目標の水準であり、仮にそれが達成できたのなら、マイナス金利の解除など金融政策を本格的に正常化するのが道理だろうと筆者は言います。

 しかし、日銀は、現在の物価上昇率の上振れは原油価格高騰などによる一時的な現象で、賃金上昇を伴う持続的なものではないと断じている。もしも、こうした日銀の説明が基本的には正かったとしても、2%の物価目標はそもそも高過ぎ、それに強くこだわる政策は様々なひずみを生じさせているというのが筆者の認識です。

 一時的な要因を除く(基調的な)物価上昇率は、現在、前年比で1%弱程度とされている。賃金上昇率が高まらない中では、足元の物価上昇率のもとでも実質賃金は下落を続け、個人消費は悪化してしまうと筆者は見ています。

 日本経済にとって(政府・日銀が目指すとしている)2%の物価上昇は、現状高過ぎてマイナスに影響してしまう。この点を踏まえれば、引き締め的な金融政策を採用することは、日本においても自然な選択のはずだということです。

 米国が急速な利上げを実施している現状は、急激な円高への巻き戻しのリスクを回避しながら10年近くにわたる日銀の異例の緩和政策を正常化するのに、まさに絶好のタイミングだと筆者は話しています。

 ここを逃してしまえば、急速な金融引き締めのもとで米国経済は悪化し、また金融市場の不安定化が生じる可能性がある。そうなれば、為替市場ではリスク回避の急速な円高が起こってしまい、日銀の正常化策は難しくなってしまうだろうということです。

 世の中で金融緩和の是正が口の端に上っている現状であればこそ、政府や国民、企業からの支持を得ながら円滑に金融政策の正常化を実施できるはず。しかし、2023年4月の黒田東彦総裁の退任前に、日銀が実際にそうした行動をとる可能性は小さいというのが筆者の見解です。

 かくして日銀は、絶好のチャンスを逃してしまうのか。せめて長期金利の上昇を一定程度容認し、急速な円安進行のリスクを減じる措置を早急に講じるべきではないかとこのコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。

 



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