MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2154 日本経済の課題② 「進む円安」

2022年05月12日 | 社会・経済

 ロシア軍によるウクライナへの侵攻や対ロ制裁によるエネルギー価格の一層の上昇が、グローバル経済ばかりでなく、日本の身近な企業や家計にも深刻な打撃を与えるようになっています。

希少資源や半導体、ガソリン、小麦ばかりでなく、食料品や衣料品などの生活必需品の値上げも相次いでいる昨今です。そうした中、もちろん(それに並行して進む)為替市場での円安も輸入物価を押し上げ、日本経済にさらなる悪影響を与える要因として懸念され始めています。

 ゴールデンウィークが終わり、5月の外国為替市場では、円/ドル相場が約20年ぶりに131円台を付け、3月初頭から約2カ月間で15円以上も上昇しています。新型コロナのパンデミックが始まる直前の3年間(2017~19年)の平均年間値幅が9.74円だったことを考えれば、これは文字通りの「急激な変動」と言えるでしょう。

 20年ぶりの円安進行の底流に、(言わずと知れた)日本銀行の積極的な金融緩和の継続があるのは間違いありません。経済界からの懸念の声にもかかわらず、それでも日銀の黒田総裁は4月28日の金融政策決定会合で「緩和維持」を決め、「円安は日本経済全体で見ればプラス」との見方を変える気配は見られません。

 急激な為替相場の変動に様々な歪みが生まれる中、果たして現在の異例の円安状況はこのまま推移・定着していくことになるのか。今回の円安の構造に関し、4月26日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、「進む円安、理由に潜む不安」と題する一文が掲載されていたので、参考までにその内容を紹介しておきたいと思います。

 ここ2カ月ほどで急速に円安が進んだが、その最大の理由が内外金利差の拡大にあることは言うまでもないと、コラムはその冒頭に綴っています。

 米国はコロナ危機以来のゼロ金利政策に終止符を打ち、一転、利上げを急ぐ姿勢を鮮明にしている。一方、日銀は「円安は日本経済にとってプラス」として大規模緩和の姿勢を崩さず長期金利の上昇さえ抑え込んでいるのだから、円安進行は(市場の)当然の反応だというのが筆者の指摘するところです。

 しかし、円安の背景にあるのは「金利差」だけではない。日本企業の海外生産シフトの結果としての国際収支構造や対外資産構成の変化も、底流で円安要因として働いているというのが(今回の円安進行に対する)筆者の見解です。

 国際収支の内訳をみると、かつて巨額の黒字を誇った貿易収支も、近年はゼロに近い。代わって経常黒字を支えているのは専ら第1次所得収支、特に投資収益収支で、投資収益の主体は今や証券投資ではなく、直接投資による海外現地法人が稼ぐ収益にとって代わられていると筆者は言います。

 この直接投資収益は、計算上は投資収益にカウントされるにしても、実態はほとんどが海外法人の内部留保で日本に送金されることはない。つまり、経常収支は黒字でも、為替需給上は円高になりにくい構造に変化しているということです。

 またストックの面でも、(日本はいまだ世界一の対外純資産国ではあるものの)その内訳は直接投資のウエートが増えていると筆者は指摘しています。

 確かに、以前は(「有事の円」などと言われ)金融危機であれ天変地異であれ、何かショックが起こるたびに、日本へ海外資産が還流するとの思惑から円が買われていた。いわゆる「リスクオフの円高」だが、直接投資は簡単に還流できないので、今ではリスクオフの円高も生じにくくなったというのが筆者の認識です。

 ウクライナ危機の現在、原材料価格の高騰で日本の貿易収支は赤字が拡大している。一方、戦争でも(これまでのような)リスクオフの円高は起こらず、これらがもう一つの円安要因となっているということです。

 勿論、「円安は日本経済にプラス」と能天気に言えるなら問題ないのでしょうが、筆者はこの意見には懐疑的だとしています。日本が巨額の財政赤字を抱えながら何とか持ちこたえているのは、経常黒字で国債を国内資金で消化できるから。世界一の対外純資産への信頼があるからに過ぎないと筆者は言います。

 しかし、経常黒字のほとんどは勘定上の数字にすぎず、対外純資産も(その多くが現地で再投資され)国内に還流できない部分が大きいはず。そう考えれば、「円」そのものへの信頼について、これまでのように安心してばかりはいられないのではないかとこの論考を結ぶ筆者の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。

 



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