MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯488 トランプ氏が大統領になったら

2016年03月03日 | 国際・政治


 アメリカの大統領選挙に向けた候補者選びが、与党民主党、野党共和党でそれぞれ進められています。

 共和党では、ヤマ場と言われる3月1日のスーパーチューズデーで、11州のうち7州において不動産王ロナルド・トランプ氏が勝利を収めました。共和党の候補者がトランプ氏、ルビオ氏、クルーズ氏の3人に絞られる中、トランプ氏の優勢がいよいよ鮮明になってきたと言えるでしょう。

 アメリカの保守を体現する共和党の(あまり面白味のない)候補者の中で、トランプ氏は過激な発言により物議を醸すことで、(ある意味「本命」ではない)トリックスターとして現実に不満を抱く人々の支持を大きく集めています。

 昨年12月には、パリでのイスラム過激派によるテロやカリフォルニア州での銃撃事件を受け、トランプ氏はイスラム教徒の米国への入国を完全に禁止することを提案しています。移民政策においても、不法移民を防ぐためメキシコとの国境に「万里の長城」を建設すると発言したのは記憶に新しいところです。

 一方で、昨今のトランプ氏の人気や、場合によってはアメリカ大統領就任なども(冗談ではなく)現実のものとして視野に入れざるを得ない状況に、メディアなどでは「トランプ氏が大統領になったら」という視点からの様々な指摘がなされるようになっています。

 3月2日のYahoo newsには、国際ジャーナリストの木村正人氏が「トランプ氏が米大統領になったら日本は悪夢にさいなまれる」と題するレポートを寄稿しています。

 木村氏はこのレポートで、トランプ氏が一番やり玉に挙げているのは日本だと述べています。

 トランプ氏は1987年の公開書簡に、「米国は支払い能力のある日本や他の国に負担させることで膨大な赤字を終わらせる時が来た」と記しており、大統領選の公約にも「日本を守る義務はない」として日米安全保障条約の再交渉まで掲げているということです。

 また、同盟国である韓国に対しても、「支払いなしにいつまで韓国を北朝鮮から守ってやらなければならないのか」と疑問を呈すなど、これまでアメリカが担ってきた「世界の警察」たる立場を見直す方針を示しています。

 昨年大筋合意がまとまった環太平洋経済連携協定(TPP)に関しても、「TPPはとんでもない取引だ。いずれ中国が参加して中国に利用されるだろう」としてその締結を否定するなど、トランプ氏はアメリカの孤立主義と保護主義を強めることで、米国だけの安全保障を確実にしようと考えているということです。

 木村氏は、トランプ氏が大統領になったら世界は間違いなく不安定化すると考えています。

 地政学的な対立が顕在化しつつある国際社会の下で米国が孤立主義に走ったら、国際社会は軸を失い、カオス(混沌)に陥ることになる。その結果として、中国の海洋進出やプーチン大統領の野心にも歯止めがかからなくなるだろうというのが、現状に対する木村氏の認識です。

 さて、トランプ氏を世界を混乱に陥れる元凶になりかねないとするこうした評価に、反対する意見も一方にはあるようです。

 3月3日の(同じく)Yahoo newsでは、元光文社ペーパーバックス編集長で作家の山田順氏が、「トランプ大統領は日本にとって悪夢なのか? そんなわけがない」と題する興味深い論評を掲載しています。
 
 この論評で山田氏は、日本の「識者」達がトランプ氏を悪夢と考えるのは、彼が「日本を叩け」などと言っていることに骨髄反応を示しているだけで、アメリカのリベラルメディアの言論に乗っかって、「誰かトランプを止めろ」という言論を鵜呑みにしているだけではないかと述べています。

 確かにこれまでの発言を見る限り、トランプ氏は「日本が嫌い」と見て良いかもしれない。ただ、トランプ氏は白人とユダヤ人以外はみな嫌いなようで中国人だって嫌いなのだから、(こと「日本の利害」という観点で考えれば)中国寄りだったクリントン夫妻よりはまだマシなのではないかということです。

 日本の「識者」が問題視している「日米安保」発言についても、見方を変えれば日本の保守派にとっては念願の日本の独立がかなうチャンスとなる。そうなったら、安保を双務条約にして独自憲法を制定し「自国を自分で守る」ことが実現するのだから、彼は日本にとって「歓迎すべき」大統領ではないかと山田氏は指摘しています。

 さらに、人種差別発言の最たるものとされる「イスラム教徒のアメリカ入国を禁止しろ」「メキシコ人は麻薬や犯罪を持ち込む」「国境に万里の長城をつくる」などという発言についても、「移民反対」で「難民受け入れ拒否」が本音の日本人にとっては、敢えて問題視するような発言ではないのではないかともしています。

 アメリカがそうなら日本もそれでいいことになる。日本にとっては、逆に大歓迎なのではないかということです。

 TPPにしても地球温暖化対策にも、トランプ氏は強く反対しています。しかし、農業保護などの観点から本音としてはTPPやCOP21に諸手を挙げて賛成している訳ではない日本の国内世論にとって、これはある意味「願ったり、かなったり」なのではないかという指摘もあります。

 このように、トランプ氏の「暴言」は、実は日本にとって追い風となることはあっても国内的には「暴言」でも何でもないと、この論評で山田氏は説明しています。

 いずれにしても、トランプ氏の発言はあくまで「選挙のため」にアメリカの大衆の不満を一方的に代弁しているだけなので、政策として一貫しているはずがない。つまり、彼の言っていることを鵜呑みにするのはどうかしていると、山田氏はこの論評で指摘しています。

 トランプ氏は、当初、トランプで言えば「ジョーカー」だった。それがいまや「エース」になりそうだと山田氏は言います。確かに、共和党の主流派がトランプ氏の勢いに押され諦めてしまえば、本当に候補者として指名されるかもしれません。

 しかし、もしもトランプ大統領が実現しても、ジョーカーに対しては、ジョーカーなりの「相手に仕方」というものがあるかもしれません。

 少し「斜に構えた」観のある山田氏の指摘ではありますが、このままでは衰退の一途をたどっていく可能性もが高い日本の先行きを考えれば、今回の大統領選挙を国際社会における日本の立ち位置を大きく変えるチャンスとして捉えるこの論評における山田氏の視点に、私もなにやら不思議な魅力を感じたところです。



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