もうすぐ3月11日。
東日本大震災の被災地も、間もなく震災から5年目の春を迎えようとしています。
復興庁が今年1月にまとめた報告書「復興の現状」を見る限り、この間、被災地のインフラの再建は着実に進みつつあるようです。
国道や上下水道や病院、学校の復旧はほぼ完了し、鉄道も91%まで戻っています。産業関連についても、港湾は98%、漁港は67%、農地は70%、養殖施設89%と、数字上からは急ピッチで整備が進んでいる様子が見て取れます。
一方、災害公営住宅の建設の進捗は2015年末現在で計画の約15%、自力再生者に向けた高台における宅地整備は11%に留まっています。本年度中に、それぞれ43%と22%まで伸ばす見込みということですが、こちらについては計画戸数の完成までにもう2~3年を要する見通し(目標2018年度)です。
報告書からは、昨年1月時点で22万9000人とされていた震災による避難生活者も約17万8000人となり、この1年で5万人以上減少していることも判ります。
しかし、仮設住宅やみなし仮設(6万5704戸)、親戚宅などに身を寄せている被災者も未だ多数おり、中でも福島県からの避難者が、全体の半数以上の約9万8000人を占めているということです。
今年2月に発表された昨年の国勢調査の集計(速報値)によれば、震災による津波の被害が特に大きかった岩手、宮城、福島3県の沿岸自治体と、東京電力福島第1原発事故で避難区域が設定された自治体を合わせた42市町村の人口は、震災を挟んだ5年間で4.1%(10万6141人)の減少を見せています。
42市町村を除く東北6県185市町村の人口減少率は3.7%ということですので、震災は被災地の人口流出に拍車を掛けたことがこうした数字からも判ります。
地域住民による経済活動の復興状況はどうでしょう。
生業の復興などに活用するために設定された補助金を利用した企業へのアンケート(2016.1復興庁)において、「震災直前の水準以上まで回復している」と回答した企業の割合は半数に満たない44.8%となっています。建設業(76%)や運送業(53%)と比較して、特に地域に密着した水産・食品加工業(26%)や卸小売・サービス業(36%)などで厳しい状況が続いている現状が覗えます。
さて、復興に向けたこの5年間の政府の動きを見ると、震災から約1年後の2012年2月に復興の司令塔として設置された復興庁の下、復興予算は2017年度までとされた集中復興期間を含む5年間の総額で19兆円から25兆へと増額されています。
主な実績(内訳)を見てみると、住宅の再建やまちづくりに約10兆円、産業や生業の再生に4.1兆円、被災者の生活支援などに2.1兆円、除染などの原子力災害対応に1.6兆円が投入されており、自治体にはこれとは別に、特別交付税(約4.6兆円)や全国防災対策費(3.0兆円)などが復興財源として交付されています。
さらに、2016年度以降の5年間分も含めると、被災地の復旧・復興には既に総額で32兆円(国民一人当たりで実に25万円超)という予算が確保されており、これまでに例のない手厚い対応であることは間違いありません。
政府によるこのような直接的な投資に加え、被災地に対しては全国の自治体の一般財源による個別支援も行われているほか、(政府からの支援を受けた)東京電力による原子力災害への損害賠償(約6兆円)のうちの多くがこの地域に投入されているのも事実です。
さて、こうした空前の巨額資金の集中投資が行われてきたにもかかわらず、震災から5年を経た現在でも、被災地の復旧・復興は未だ道半ばとの声が多く聞かれます。確かに先にも述べたとおり、いまだ多くの被災者が避難生活、生活再建に苦しんでおり、住民の生活を支える経済活動やコミュニティーの再構築はなかなか進んでいないようです。
NHKが昨年、東北3県の被災者に対して行ったアンケート調査では、復興のスピードが遅いと感じている人が全体の約65%に及んでいます。また、被災地への支援が十分続いていると考える人は全体の29%に過ぎず、1年後の自分の未来は明るいと感じている人は17%にとどまっているということです。
結局、震災から5年を経て見えてきたのは、インフラなどのハードを整えたり生活資金を提供したりするだけでは、(被災者が未来への希望を持てるような)本当の意味での復旧・復興にはうまく繋がっていないという現実です。
人々の生活を自律的なものへと始動させるためには、人々の内面に届き、行動を喚起するソフト面の課題への対応が不可欠だと言うことです。目指すべき未来やそこに向かうためのステップという仕掛けがないままやみくもな再建策を提供するだけでは、被災者がついて来られないのも仕方のないことなのかもしれません。
被災地の人々の力や地域の持つ様々な資源を活かしながら経済を回し、地域ぐるみで生活を再建していくためのアイディアと工夫が今求められています。
政府の資金を(消化しきれないほど)なみなみと注ぎ入れるばかりでなく、地域の人たちの間に「生活する意欲」を育むもっと夢のある具体的なプロジェクトを、民間主導の下(1兆円とか2兆円とかいった規模感で)大胆に始動できないものかと、震災から5年を経て改めて感じるところです。
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