政府が新型コロナ感染症対策の「切り札」として位置づけ、急ピッチで進められているワクチン接種。従来のワクチンとは仕組みの異なる「mRNAワクチン」がメインだということもあって、世界的に見ても接種に抵抗感を持つ人は多いようです。
その理由は、副反応への不安や政府への不信感など様々でしょうが、(昭和の時代に多くのワクチンに親しんてきた中高年よりも)若い人ほど、そして女性ほどその傾向が強いという調査結果もあると聞きます。心理学の専門家はこうした状況の一因が情報不足にあるとして、(接種を広めるには)政府やマスコミが丁寧に正確な情報を発信し続けることが重要だと指摘しているということです。
しかし、政府やメディアなどが伝えるワクチンの仕組みは、専門用語のオンパレードでどれもかなり難解です。説明を聞いても「安心した」と感じられないのは、ある意味仕方のないことかもしれません。
とは言え、知ろうとする努力はしてみたいもの。6月29日の「Newsweek日本版」に掲載されていた、米スタンフォード大学博士研究員の新妻耕太による解説(「ワクチンが怖い人にこそ読んでほしい-1年でワクチン開発ができた理由」)が比較的わかりやすい気がしたので、備忘の意味でここに残しておきたいと思います。
「ワクチン」とは、集団免疫を成立させて感染症にかからないようにする、もしくはかかっても重症化を防ぐ効果のある予防薬を指すと、氏はこの論考で定義づけています。
今回の新型コロナワクチンの特徴は、これまではひとつのワクチンを開発するのに10年かかると言われてきたものを、新技術を駆使してわずか1年で開発できたこと。そこで氏は、(まず)なぜそれが可能だったのかについて説明しています。
ウイルスは、我々の体の中で大量に増えるのだが、実際は自分の力だけで増えることができず、我々の体を構成する細胞に侵入しそのシステムをハッキングして増えているということです。
細胞内への侵入には、表面にあるトゲの構造体(スパイクタンパク質)をドアのロックを外す鍵のように利用している。増えた大量のウイルスが細胞外へと脱出する時に細胞は破裂するようにして死に、これが繰り返されることで組織に障害が起き様々な症状が起こるのだそうです。
一方、ウイルスの感染に対して私たちの体は「免疫システム」で対抗している。そしてその主力となる「免疫細胞」は私たちの体を守るいわば軍隊のような存在で、二隊構成になっていると氏は言います。
「第一隊」の「自然免疫」は、迅速な対処を得意とする部隊。ウイルスによる組織障害を察知した自然免疫細胞達は、現場へとただちに急行し「炎症」を誘導する。一般に嫌わることの多い「炎症」には、実は炎症には自然免疫細胞を活性化する効果があり、活性化された自然免疫細胞は感染細胞の死骸を食べて掃除するということです。
そして、この第一隊でもウイルスの撃退ができなかった場合に、第二隊が動きだすと氏は説明しています。
「第二隊」の主役は「獲得免疫」というもの。これは、相手に合わせた攻撃を行う戦闘のスペシャリスト集団で、免疫記憶もつかさどる。私たちの体の中にはあらゆる侵入者にそれぞれ対応できる獲得免疫細胞達があらかじめ備わっており、その時侵入してきた敵に対応できるスペシャリストのみが大量に増殖して出陣するということです。
この選ばれたスペシャリストの細胞が増えるのは、基本的に「リンパ節」という部分。感染によってリンパ節が腫れるのは、この獲得免疫細胞の増殖によるもの。今では一般にもおなじみの〝抗体〞を分泌するB細胞も、この獲得免疫細胞の一種だと氏は話しています。
分泌された抗体はY字型をしたタンパク質で、上部先端の二カ所を使ってターゲットに強力に結合する。抗体がウイルスのトゲ(スパイクタンパク質)に上手くまとわりつけば、ウイルスが細胞に入る能力を失わせる(中和する)ことができるということです。
そこでウイルスの撃退に成功すると、先ほど増えた獲得免疫細胞達は次第に数を減らし、生き残った少数の細胞が記憶細胞として保存される。そして、次に同じ病原体が体に侵入した際、記憶細胞は前回の経験に基づいて迅速に対応するので、効率よく病原体の排除ができて重症化が防げるというのが氏の説明するところです。
さて、ここまでが、ワクチン学の基礎となる「免疫」の仕組みについて。次は、いよいよ「ワクチン」についてのお勉強に入ります。
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