政府の地震調査委員会が3月26日に公表した、全国各地で震度6弱以上の巨大地震に襲われる確率などを示した「全国地震動予測地図」(2020年版)が話題になっています。
全国地震動予測地図は、過去に発生した地震の記録や地形が持つ揺れやすさの特徴などをもとに、大地震の発生確率などを地域的に推計したもの。今回の20年版では、関東地方の地盤の詳しい調査結果を計算に反映させたほか、各地方の細かい地形の情報や東日本大震災の余震の記録も加え精度を増したということです。
報道によれば、今後30年間の大地震の確率は、最も高い水戸市が81%である一方で、最も低い札幌が2.2%と国内でも大きな差がみられます。大都市で見ていくと、史上最悪の首都直下型地震の発生が懸念される東京都が47%、南海トラフ地震の影響が大きい名古屋市が46%と概ね2分の1の確率であるのに対し、広く太平洋に面した静岡市が70%、四国の徳島市が75%、紀伊半島の和歌山市は68%など、線上に並ぶ一部の地域で軒並み50%を超えているのも不気味と言えば不気味です。
世界で発生するマグネチュード6以上の地震の、実に20%以上が日本周辺で発生していると言われる「地震大国」の日本ですが、中でも政府の中央防災会議が最も注目しているのが「南海トラフ巨大地震」と言えるでしょう。
政府の被害想定によれば、南海トラフ巨大地震がひとたび発生すると、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、それに隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れになるということです。また、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域で、10mを超える大津波の襲来が想定されているところです。
駿河湾から遠州灘、熊野灘、紀伊半島の南側から、土佐湾を経て日向灘沖まで続く海底の溝状区域を「南海トラフ」呼ぶそうです。
研究では、南海トラフ沿いの地下ではフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に潜り込んでおり、地殻のひずみが生じ定期的に巨大地震が起こるとされている。実際、ここを震源に、100年から200年に1度の割合でM8クラスの大地震の発生が歴史に刻まれているということです。
記録によれば、最後に南海トラフを震源にした地震が起きたのが第二次大戦終戦前後の1944年(と46年)のこと。それから既に75年近く経っている現状を考えれば、次の地震がいつ起きてもおかしくないということになるのでしょう。そうした危機感のもと、6月1日の日本経済新聞は「南海トラフ地震、次は宝永型か」と題する記事を掲載し、南海トラフ大地震に関するさらに踏み込んだ解説を行っています。
西日本の太平洋側で想定されている南海トラフ巨大地震を巡り、過去に沿岸を襲った津波の痕跡の分析から、次に起きるのは江戸時代の1707年に起きた「宝永地震」と同じタイプのものになる可能性があると筆者は記事に記事は綴っています。
宝永地震では、まず紀伊半島付近で震源断層の破壊が始まり、静岡―高知沖の広範囲を震源域とする(南海トラフは史上最大の)マグニチュード(M)8.6の超巨大地震に見舞われた。一方、次の地震も同じタイプであれば、過去の被害を検証することによって、将来起きる地震の揺れや津波の高さを推定できるというのが記事の指摘するところです。
政府・地震調査委員で産業技術総合研究所名誉リサーチャーの岡村行信氏によれば、過去の状況を細かく調べると、南海トラフ巨大地震には宝永地震タイプのほかに、幕末の1854年に起きた安政地震(東海、南海地震)タイプの2つのタイプがあるということです。
「宝永型」は紀伊半島の地下から、一方の「安政型」は静岡、長野県境に当たる赤石山脈付近の地下から破壊が始まり、南海トラフ全体に広がっていく。地震で津波が発生すると海岸付近に砂などが積もり地層として残るため、そこから津波が入ってきた方向が推定できることを利用して(痕跡を残した津波が)宝永型か安政型かを分類できる可能性があると記事はしています。
そして、岡村氏がこの手法により、2タイプがどの程度の間隔で起きているかを分析したところ、宝永形と安静型はそれぞれ100~200年程度の周期で、南海トラフ周辺を震源として交互に発生していることがわかったということです。直近の記録では、1707年に起こった前々回の宝永地震は(名前の通り)宝永型で、約150年後の1854年に発生した前回の安政地震は安政型。で、あれば、2000年代前半に発生する次のタイプは宝永型になるということでしょう。
富士山の爆発や太平洋沿岸への大津波、さらには前後数年間にわたる余震によって日本各地で史上最悪の被害を引き起こした宝永地震に対し、現代科学を身につけた私たちの備えは万全なのか。過去の歴史資料に学びつつ、最悪の状況を念頭に置いた対応を心がけたいと、記事を読んで私も改めて感じたところです。
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