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つれづれなるまま(小浜正子ブログ)

カリフォルニアから東京に戻り、「カリフォルニアへたれ日記」を改称しました。

中国風信③「一人っ子政策」の今(『粉体技術』2013年6月号より転載)

2013-12-28 13:16:20 | 日記

[写真は、計画出産の宣伝スローガン。「人口の発展と調和のとれた社会はともに歩み、結婚出産の新風俗とゆとりある生活はともに進む」]
 最近しばしば、「一人っ子政策」が緩和されるかもしれないという報道がある。中国も少子高齢化社会に突入しようとしているので、人口構成のバランスを保つため、二人目もOKになりそうだ、というのである。「一人っ子政策」の話はやや込み入っているのだが、関心が高い話題なので、今回はこれを取り上げよう。
 1979年以来行われているいわゆる「一人っ子政策」は、「一組の夫婦に子供一人」が原則だが、全ての場合に一人っ子が要求されるわけではなく、どのような場合に何人生んでいいかを細かく規定するものだ。だから中国政府は「一人っ子政策」という言い方を嫌って、「計画出産」と呼ぶ。じつは多くの中国農村では、夙に1980年代半ばから、第一子が女の子だった場合は、一定の出産間隔を空ければ第二子を生むことができる。この方式は「1.5人政策」ともいわれ、中国全体ではこのような地域がもっとも多い。「一人っ子政策」のはずの中国でも、きょうだいがいる人が結構いるのはそういうわけだ。(ちなみに計画出産の規定に違反した「計画外」の出産は、地域にもよるが以前はかなり多かった。そのような場合も、多くは罰金を払えば戸籍登録されるので、全部が戸籍のない「闇っ子」になるわけではない。「計画外」の出産には罰金を払わなければならない、というのはもちろん大変なのだが、逆にいえば、罰金を払えば生んでもいいという側面もあったわけで、中国の事情はややこしい。)
 一方の都市では、「一組の夫婦に子供一人」はかなり厳格に実施され、現在の都市出身の若者のほとんどは一人っ子である。上海の合計特殊出生率などは1970年代から日本の平均以下で、現在では約0.7人という超少子化社会だ。ところが都市でも、夫婦の両方が一人っ子の場合は、早くから二人生める規定になっていた。「一人っ子政策」が始まってもう30年以上経つので、近年の都市の出産年齢の夫婦には、二人目を生んでもよいカップルが多い。しかし彼らのほとんどは、「子供は一人が精一杯」といって、二人目は考えたことがないという。教育費が高騰し、送り迎えや習い事など、競争のように子供に金や手をかける風潮で、子供を育てる経済的時間的な負担が大きいからである。加えて、一人っ子であることを当たり前として育ってきた世代の彼らには、きょうだいの存在自体がピンとこないのかもしれない。
 中国の農村では、伝統的な「養子防老」のための男児願望に加えて、改革開放政策下の個別農家経営で働き手がいるので、「一人っ子政策」には抵抗が強い、と言われてきた。先の第一子が女児の場合に第二子の出産を認める規定は、そのような現実との妥協の結果だ。しかし近年、農村で聞き取りをすると、そうした農民の多子・男子願望が変化していることを感じる。筆者は2006年に、初めて中国東北地方の農村で、「べつに女の子だけでもかまわない」「規定では(第一子が娘なので)もう一人産めるが、娘一人だけでいい」という農民を知って驚いた。そうした人は、まだ多数派ではなかったが、絶対少数でもなかった。聞けば、息子は結婚の時に家を用意する必要があったりして負担が大きいし、近年は娘も親孝行してくれるから、という。その村はもともと計画出産の優等生として表彰されたような少子化した村だった。その後、むしろ計画出産では「落後」しているとされる華中地方の村でも、やはり娘一人でもよい、という人に複数出会った。村の女性たちの話からは、近年の近代化の中での農村の暮らしの変化の大きさもうかがえるが、そのような中で、子供への意識も変わって不思議はないのかもしれない。最初に触れた「一人っ子政策」の緩和の検討も、こうした都市と農村それぞれの意識の変化を踏まえたものといえるだろう。(滄媚)
追記:この記事は2013年5月に執筆したものですが、同11月に「夫婦の一方が一人っ子の場合は、間隔をあければ二人目の出産が可能」と政策が変化したことが報道されました。