気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

たしかなこと 2 (16)

2020-08-23 11:20:00 | ストーリー
たしかなこと 2 (16)






「えっ?梶くん!お久しぶりです!(笑)」

「一人で映画?」


梶くんは以前と変わらず爽やかな人だった



「うん(笑) 宣隆さ… 主人は会食の予定が(部の予定表に)入ってなかったですか?」


「主人… か(笑) 会食?予定表には書いてなかったけど… 」


ーー え?


「そうなんですか?」


「今日急に予定入ったのかもしれないね。あ、何見るの?チケット買った?まだなら一緒に見ない?」


急に? … 私は今朝聞いたけど



梶くんと隣り合わせて映画を見た

梶くんは英語が堪能だから字幕なんか必要なくて映画はセリフを聞いて笑ってるのがわかった


時々ブツブツと一人言を呟いては笑う

よく聞いてみるとその言葉も英語で驚いた

そう言えば… 留学してたって言ってたような?




「ね、今から食事しない?映画の感想 話しようよ(笑)」


「私、もう食事してきたんですよ~」


「じゃあ食事、付き合ってくれない?久しぶりに会ったんだし奢るよ(笑)」


まぁ、まだ彼も帰って来ないだろうし いいか…


「じゃあ… お言葉に甘えて(笑)」




一緒にカフェに入って梶くんは食事をし私は珈琲を注文した



「何買ったの?(笑)」

買った服のペーパーバックを指差した


「こ、これは、、服」

それと彼が嬉しくなるかなと思ってセクシーなランジェリーを買った、とは当然言えない



「どんな服?」


「友達に選んでもらったワンピース。私センスないから(苦笑)」



空気が変わった気がして
優しく微笑みかけてきた


「… 笹山さん、変わらないね(笑)」


「あはっ(笑) 成長ないですか?(笑)」


「可愛いままだよ(笑)」


可愛い…?

「大人の色気ゼロでしょ(苦笑) あははっ」


「そんなこと。可愛い中に色気がある人だと思うけど?(笑)」



そんなこと彼にも言われたことない

“可愛い”とは言ってくれるけど…



なんだか嬉しいな…(笑)





「ねぇ、聞いていい?笹山さんはどうして部長と結婚したの?」


どうしてって…


そんな真顔で聞かれると
真面目に答えなきやならないじゃない…


「あ…愛しているから、ですけど…」


言ってて恥ずかしい!



「結婚するほど、なんだよね…そりゃ当然か(笑)」


「まぁ、そうですね(笑)」



何故そんなこと聞くんだろう?




「部長。今夜、会食じゃなかったらどうするの?」


「え?」


「浮気でもしてたら?」



“浮気”


京都の旅行で見たあの彼の顔が一瞬ちらついた




「あはは、彼はそんなことしませんよ(苦笑)」



今までも女性のフレグランスの香りをつけて帰って来たことが何度かあったことを思い出した

あの時は気にもしてなかったのに…



「部長も男だよ。もしかしたらって考えないの?」



忘れたいのに


また思い出してしまった





「あっ、いや、ごめん、まぁ、、ほんとに会食だと思うけどね(苦笑) それよりさ、」


少し焦ったように違う話題に変えてきた





本当に女性と密会でもしてたら…

信じようと決めたのに…



「あのさ。俺、好きだったんだよね。笹山さんのこと。」



ーー ん? え?



「好き?」


この人
突然何言ってるんだろう




「私を?(笑)」


「ん。本当に好きだった。この間、それを部長にも匂わせたんだけどね… (笑)」



突然の告白に戸惑った



「でも部長は ただ黙ってた。」


黙ってた… か
あの人らしい


彼の静かな横顔を思い出した




「でもどうして今更そんな昔のこと… 」


「ははっ(笑) なんかね。悔しかったんだよ。あの堅物な部長が笹山さんを射止めたことも愛妻家してるのもさ。」


まさか、あの彼が会社で愛妻家の顔を見せた!?


それはどういう時に、と聞くと

プリンを買って帰って欲しいと私が頼んだことがきっかけで部長の愛妻家の一面を知ったと梶くんは話した



「彼は愛妻家だと思いますよ。家ではよく笑うし結構会話もあります。本当に優しいし(笑) 会社では無口で気難しそうな人なんですけどね(笑)」


笹山さんが辞める日、部長泣いたでしょ。あの時はもう付き合ってたの?」


「ふふっ(笑) あの時はいろいろありましたけど、そうですね(笑)」


はぁ~!と大きな溜め息をついてうなだれた


「なんだよぉ!じゃあ俺始めから部長に負けてたってことじゃん!付き合ってたなんて全然気付かなかったわ(苦笑)」


「はははっ(笑)」

空気がいつもの梶くんになって安心した



「笹山さんが幸せなら…いいか」

残念そうに微笑んだ




店を出て最寄り駅に向かって歩いていたら急に梶くんは立ち止まった



「どうかしました?」


「ねぇ… やっぱり…もうちょっと付き合ってよ。」


「え?でも、」


「行こ!」


駅とは反対方向に向かって私の手を痛いくらい固く握り早足で私を引っ張って行く


「ちょっと!私もう帰んなきゃ、」


「なら、10分だけでいいから時間をくれよ。」


後ろから見る梶くんの背中は
男性性を意識させた



ひと気の少ない川縁でようやく立ち止まりやっと私の手を離した

手が汗ばんでる…




何故梶くんなこんな突拍子もない行動を取るのか理解できなかった



「あのさ。部長は優しいって言うけどそれ、本物?」


「本物ってどういう意味?」


「君への愛情が本物かって事だよ。だって、あんな、」


そう言いかけて梶くんは口をつぐんだ

険しい表情で…




「夫婦間の事を俺がとやかく言える立場じゃないのはわかってるけど、」

また顔を背けた



一体何が言いたいのか私、全くわからないんだけど、、」


「笹山さん、本当に大事にされてると思ってるの?会食が嘘だったら?」


「え…? なんでそんなことを言うの?」



私達の横を男女が楽しそうに会話をしながら通りすぎて行った


梶くんの背中はやっぱり冷たく感じる



「部長が家でどんな男なのかなんて俺は当然知らないよ。会社での部長しか知らないし。でも、」


振り返った彼は悔しそうな表情をしていた



「君の夫としてはどうなんだ。」


どうなんだって、、

何故 怒ってるの?



「それは梶くんには関係のないことでしょ。もう私帰るね。珈琲ご馳走さまでした。」


「笹山さん、俺は、」何か言いかけて


「俺は今でも君の味方だから。」





ーーー




電車の中で梶くんの言葉を思い出していた



“味方だから”


あれはどういう意味だろう


結婚もしてる私に何故 今頃になって告白を?




訳がわからない…



私がまだ未婚だったとしても
梶くんを恋愛対象としては見なかったと思う


でもそれは今 宣隆さんがいるから
宣隆さんという人を知ってしまったからかもしれない


だから “もしもあの時” なんてことを考えても答えが出ることじゃない





帰宅してもやっぱり宣隆さんは帰宅していなかった



会食… なんだよね?

梶くんがあんなこと言うから
不安になってきちゃったじゃない


買った洋服をクローゼットにしまい
下着も箱に入れたまましまいこんだ



お風呂に入ってソファに座ってテレビを点けた


しきりに時計を見ては時間が経つのが遅いと感じる


彼がいないと時間の経過が遅く感じる…



玄関のドアが開いた音がした

あっ、帰ってきた!



「ただいま。予定より早く帰ってたよ(笑)」

帰宅した宣隆さんはとても上機嫌だった



「おかえりなさい。会食どうだった?」


「あ、会食、ね、、(笑)」


スーツのジャケットを脱ぎながらスッと自室に入って行った


いつものようにハグしてキスがあるかと思ったのに無かった



ーー 何か隠してる?



彼がお風呂に入ってる間にスーツのジャケットの匂いを嗅いでみた

やっぱり女性のフレグランスの香りがした


あの時と同じだ

女性と密着したからこんなにしっかりと匂いがついてるんだよね



ーー あ、もしかして


梶くんは宣隆さんが女性と一緒の場面を見た… ?

だから 私に見せないために急に場所を変えてあんなことを言った…?

それは私の考えすぎ、だよね…


でもあの匂いは…
やっぱり気になる




お風呂場の外から宣隆さんに話しかけた



「今日、女の人と会ってた?」


「え~? よく聞こえない。」



大きな声でもう一度問いかけると身体を洗う手が止まった



「…どうして?」


「女の人のフレグランスの匂いがしたんだけど。」


「はっ!?」


この声 動揺した!?

「まさか、浮気?」


「ちょ、ま、待って!直ぐに出るから!」



明らかに動揺してる
まさか本当に浮気してたんじゃ…

言い訳でもするつもり?




髪もずぶ濡れのまま本当に慌てて出てきた



「… ごめん、嘘ついた。」


嘘ついたって、、
やっぱりそうなの?



心臓がバクバクしてきた







「ごめん… 万結と会ってた。」



ーー え?

万結って宣隆さんの一人娘の?




「あっ!こ、これ!、、」


私にスマホを差し出した



万結ちゃんと宣隆さんのLINEのやりとり


“今夜はごちそうさま~!” というメッセージに

困ったような笑顔の宣隆さんと万結ちゃんのツーショット画像と料理の画像が幾つか送られていた

確かに送信日時は今夜になってる…



どうして会食だなんて嘘ついたの!?」


浮気じゃなくて良かったけど
嘘をついていたことに苛立った



「それは… 」困った表情をした



万結ちゃんは前妻との子だからと宣隆さんなりに私に気をつかってたってことだったけど



「私、二人が会うことをイヤだなんて思ったこともないし、言ったこともないよね。そもそも その気の遣い方、間違ってる!」


私がそんな風に思っていると宣隆さんは思っていたなんて

そこまで度量がないと思っていたのが悲しい…




「悪かった… 本当にごめん… 」とうなだれた


そのうなだれた前髪からポトポトとカーペットに水滴が滴り落ちている


「とにかくっ!髪乾かしてきてください。」

母親に叱られた子供のように しょんぼり肩を落として髪を乾かしに離れた



こんな誤解を招くこと
もうしないで欲しい

それに…
私 信頼されてなかったんだな…




でも梶くんと二人きりで食事をした私も誤解される行為… だよね

それこそ浮気だって思われ兼ねない…か


私が彼を責める資格なんてないな…





「香さん、ごめんね」

しょんぼりした顔で戻ってきた



「これから万結ちゃんとどこかに行くなら正直にそう言って。本当に何も思わないし、反対もしないから。それと… 言いすぎてごめんなさい…」



宣隆さんの表情が和らいだ

「ありがとう…」


「今夜は楽しかった?」


「ん(笑) 久しぶりに食事をしたんだけど、高い店に連れて行かれてね。相変わらずちゃっかりしてるヤツだ(笑)」



前にもスーツにフレグランスの香りをつけて帰ってきたことがあったけど、あの時も万結ちゃんだったのかと聞いたら


「万結しかいない。あいつ、いつも(香水を)つけ過ぎてて本当に臭い。いつも言ってるんだけどね(苦笑)」


「私、宣隆さんの匂いは好きですよ?(笑)」


「自分ではわからないけど(笑) ねぇ香さん。心配してヤキモチ妬いてくれたのかな(笑)」


「や、妬きましたよっ!」


「えぇ?ほんとに?(笑)」

嬉しそうに笑った






今日は友達とランチをしてワンピースを買ったと報告するとそれを着てデートしましょうと微笑んだ


大人っぽいランジェリーとセクシーランジェリーを購入したことはまだ内緒…


大人っぽい方はつけられるけどセクシーなのは買ったものの、つける勇気がやっぱりない


もう直ぐ宣隆さんのお誕生日だし、その日につけてみるとか

うーん…




宣隆さんへのお誕生日プレゼント
実はもう準備はしてる


オーダーメイドのシャツとカフス
宣隆さんのネームを入れた

喜んでくれると良いけど♪




「あ、そうだ。今度の宣隆さんの休日、デートしませんか?(笑)」


「じゃあ海に行きません? 泳ぎに。」


泳ぐ!?


「冗談ですよね!」


「冗談ではないんですけどね?嫌ですか?」


「当然イヤですよぉ!」


「日焼けが気になりますかね?」


そうじゃない!
水着になるのが嫌なの!


「露出がイヤなんですっ!」



彼はきょとんとした


「宣隆さんは海で泳ぐことより水着姿が見たいんじゃないんですかぁ?」


見てみたいですよ、当然。」


「当然って、、」


そんな公衆の面前で堂々と見せられる身体じゃないの知ってるでしょ!!


「好きな人の水着姿が見たいと思うのは至極当然だと思うんですけど、、」

と困った笑顔を向けた



私はこの表情をされると弱い
ダメと言えなくなっちゃう…




水着姿が見たいなら

買ったあの大人っぽいブラセットとか、セクシーランジェリーとか、めちゃくちゃ喜んでくれそうだ


「水着じゃないですけど浴衣姿ならどうですか?私の地元のお祭りがあるんです。」




ーーー




実家に置いてある浴衣を着ることになった

宣隆さんは元々はお兄ちゃん用に仕立ててあった新品の浴衣を着ることになった


「お父さんのじゃ宣隆さんには丈が短いでしょうからねぇ(笑)」

とお母さんは苦笑いした

まぁ… お父さんは身長高くないしね(笑)



「お兄ちゃんったら “浴衣は汚さないよう気にしないといけないし歩きにくそうだからいらない!”って一度も着てなかったのよね!

これ宣隆さんのために作ったみたいに丈も問題ないわねぇ(笑) お兄ちゃんよりもイイ身体だから本当によく似合ってるし(笑)」


お母さん、めちゃめちゃテンション高い

イイ身体って、、
体格が良いとか他に言いかたあるでしょ!




「浴衣を貸していただいた上にわざわざ着付までしていただきすみません(苦笑)」


「良いの良いの!いってらっしゃい♪」




お母さんたら宣隆さんの胸筋が見たかっただけじゃないのぉ?

お母さん筋肉質な人 好きだもんな~!韓国人俳優のファンだし!





「香さんの浴衣姿、眩しい(笑)」


「恥ずかしいですよっ、その表現(苦笑) 宣隆さんこそ格好良くて素敵ですね… (
照)」


「素敵なのは僕じゃなくこの浴衣の方でしょう?」



お母さん、着付ける時 なんだか嬉しそうだったなぁ

横から見ると胸板が厚くなったせいか身体が大きくなったように見える



お祭りのある神社まで歩いた


「香さんはここで育ったんですね… ここは良い所ですね。山も海もあって… ご家族みんな温かくてね… (笑)」



夕暮れの夕日が宣隆さんの横顔を照らしていた




「宣隆さんももうあの家族の一員ですよ?(笑)」



私の顔を見て嬉しそうに笑った

「ん(笑) それが嬉しいんですよ…」




後ろから子供数人が走って追い抜いていった

お祭りの屋台が見えてきて徐々に人の賑わいを感じる



「結構 人が多いんですね(笑)」

「お祭りの日には帰ってくる人が多いみたいで毎年こんな感じです。私はもう何年ぶりかなぁ(笑)」



地元で子供の頃から顔見知りのお母さんよりずっと年上のおばちゃん達が久しぶり!と声をかけてくれる


結婚してから初めてのお祭りで宣隆さんを見るのは初めてのおばちゃんばかり


「あら、香ちゃんのダンナさん?(笑) まぁまぁこんな田舎の祭りによく来てくれましたねぇ(笑)」


宣隆さんはおばちゃん達に優しい笑顔で会話を始めた

おばちゃん相手なら気後れなく話せるんだと知った(笑)


「来年はまた家族が増えてるかもねぇ(笑)」
と、おばちゃんは私達に笑顔を向けた



… 赤ちゃん
なんか、、恥ずかしい、、



「そうなるようにがんばらなくてはいけませんね(笑)」



私の肩を引き寄せ微笑みかけた

またそんなにサラッと恥ずかしいことを…



「仲良いのねぇ(笑)」

「ふふっ(笑) はい、とても(笑)」


うわぁ… 惚気てる!
私、今 物凄ーく恥ずかしいんですけど!




でも
やっぱり私はこの人が大好き…

きっと旦那さまとしてハイスペックな人なんだなって最近実感するようになった




ーーー



露天の屋台でりんご飴やたこ焼きを買い人が少ない座れそうな所に移動した

食い意地のはっている私は早速たこ焼きを広げた


「暑いのにたこ焼きを買ってしまうのはこのタレの香ばしい香りに誘われちゃうからなんですよねぇ♪」

と、たこ焼きを食べ始めた途端
汗が吹き出てきた




「ははっ(笑) 凄い汗だよ(笑)」

隣に座ってる彼がタオルで顔や首の汗を拭き取ってくれる


なんだか娘を連れてる父親みたい

あはは… 恥ずかしい…




「宣隆さんもどうぞ!」


たこ焼きを差し出したら
セクシーな視線で微笑んで

「汗でうなじの髪が濡れてる。僕はそれだけでお腹いっぱい(笑)」



こんな所で たこ焼き食べて汗だくになった女にそういう視線、送る!?!?



「あの… たこ焼き… どうぞ」

「ふふっ(笑) ありがと(笑)」


たこ焼きを口に入れた
「熱っ!(笑)」



時々 突然ドキッとすることを言うからほんと反応に困るわ…



りんご飴を舐めた

「香さんとりんご飴、良く似合うね(笑)」


どういう意味???


「香さんはりんご飴みたいだな(笑)」
とクスクス笑った


「え?意味がわからないんですけど??」


「赤くて丸くて甘くて、カリッとしてるところがね(笑)」


「その説明じゃ全くわかりませんが?」


「ははっ(笑) 可愛いって事ですよ(笑)」




また “可愛い”

この人には私は大人の女に見えてないのかしら?と時々思う




空には星が少しずつ増えてきた



「僕を此処に連れてきてくれてありがとう。僕にも帰れる故郷を作ってくれてありがとう。」



そっか…

宣隆さんのご両親はもういないんだったね…


お祭りの屋台の明かりとお囃子の音の中に子供達のはしゃぐ声が聞こえる




「僕達の子供、欲しいな… 」


「…うん (笑)」



時々 宣隆さんは子供が欲しいと言う


宣隆さんの肩に寄り添うと
優しく肩を抱き私の頭に頬を寄せた


「こういう穏やかな時間がずっと続くと良いね… 」






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