beautiful world 9
“君は綺麗だと思ったよ。”
「んぐっ!!ゴホゴホッ!!」
飲みかけたコーヒーでむせた
“綺麗”って…
先生が言ってたあの“綺麗”って意味??
だとしたらこれって…
“告白”!!!
…んな訳ないよね〜
「あはっ、あはは…(苦笑)」
私は自信過剰な人間じゃない
むしろ自信が足りないくらいだし
でもどういう意味なのかは知りたい
だって今日の先生からは私を意識してる様子は全くなかった
図々しく寄りかかって爆睡しちゃったもんだから印象悪くなっててもおかしくない
言葉の意味は凄く気にはなるけど
その真意をメールや電話では聞きたくない
やっぱり直接聞きたい…
―――
ムカつくくらい朝から晴天 ーー
今頃 彼女は“先生”とやらと会ってるんだろう
習い事の先生とかだろうか
俺は今まで付き合った彼女は全て向こうから告白された
付き合ってても
俺は本気で好きにはなれたことはなかった
それで結局最後は彼女から別れの言葉を切り出され関係が終わる
“なんかつまんない”
“何を考えてるのかわからない”
“顔は良いのに”
“私のこと好きになってくれなかった”
大体そんな理由だった ーー
俺には“恋心”というものがわからなかった
だから誰かに固執や執着することはなかったし
それを孤独を感じたこともなかった
そもそも人間に興味が湧かない
なのに…
何故か田中さんのことだけは気になっている
田中さんにだけは好かれたいと思ってる
これって好きって事で良いんだよな…
好かれたいのに
好かれるような事ができない
言えない
なのについキツイ態度になっちまう
彼女にはもっと優しく、明るく笑顔で…
って、こんなぎこちない笑顔しか作れない
明日からは少しでも彼女に優しく接するようにしないと
好かれたい…
田中さんに笑いかけて欲しい…
ーーー
月曜日
彼女が出勤してきた
「おはようございまーす!」
なんだよ
いつもより元気じゃん
昨日“先生”と会ってたからか?
ムカつ…
ダメだ、、
優しく、優しく、優しく…
「葉山さん、おはようございます(笑)」
「や、あ… おはよう… 」
「や??」
「(ゴホン!) なんでもない。」
斜め向かい側の自分の席に座った田中さんは上機嫌だった
俺にはあんな顔
させらんねぇな…
「ハァ…」
昼休みになり
彼女はランチの誘いを断っていた
ダイエットしなきゃという彼女の声が聞こえてきた
ダイエットか…
確かに最近なんか丸くなったもんな
...ってまた俺は!
彼女の良いところを探して言葉にしねぇといけねーだろ、俺!
「あれ?葉山さんはランチ行かないんですか?」
彼女が声をかけてきた
「ああ、行く、」
席を立った
「なぁ。飯、行かないの?」
「今日はお昼抜きにします(苦笑)」
「ダイエットって聞こえたけど… 昼抜くより筋トレとか運動した方が良いんじゃ、ないか… ダイエットで身体壊したら意味、ないし… なんなら俺、運動、付き合うけど…」
なんかスゲーぎこちない言い方になってしまった…
「え?」
俺 余計なこと言っちまったかも
「飯、行くわ。」
立ち去ろうとしたら
「あの!葉山さん、お気遣いありがとうございます(笑)」
礼を言われちまった...
「どんな筋トレが効果あります? あ、今日仕事終わってからまた聞いて良いですか?(笑)」
彼女の笑顔がめちゃくちゃ輝いて見えた…
「あ、あぁ… 」
俺が彼女を笑顔にさせた…
ふわっと
心が軽くなって
温かく感じる
そうなんだ
本当はああいう表情(かお)を俺に向けて欲しかったんだ
「なにか??」
「あ… いや。」
部署を出てドアを閉めた
…嬉しい
こんな感情
久しぶりだ
―――
今日の葉山さん
朝からずっとおかしい…
なんでいつもの嫌みが出ないのかな
目が合った時
いつもなら“なんだよっ!”って感じで眉間にシワを寄せるのに…
今日はそれが無い
… やっぱりおかしい
あ、わかった!
きっとまた体調が悪いんだ
筋トレが必要なのって本当は葉山さんなんじゃない?
葉山さんは筋トレより健康管理??
“俺が筋トレするからお前も付き合え!!”的な誘いとか…
それはヤダ
仕事が終わって葉山さんが声をかけてきた
「あの、さ… 筋トレ、」
「その筋トレなんですけど、家の中でできるやつですよね?」
「あっ、まぁ、そうだな、、」
はぁ~ 良かったぁ
「ジム通いって手もあるけど。ジムの方が器具が揃ってるしバランスの取れた身体作りはできるだろうけど。」
バランスの取れた身体?
バランスの取れた… 筋肉
昨日の先生のガッチリとした身体を思い出したら顔が熱くなってきた
「あっ、あはははっ(照) …なるほど… 」
「帰るぞ。」
駅まで歩いている間
葉山さんは部屋でできる方法を幾つか教えてくれた
「走るのも必要かもな。」
「あー私、持久力ないんで。」
「は?本気で痩せる気、あっ… 」
“あっ”??
「だったら…歩く所からやってみれば、いいんじゃないか。」
あれ?
“はぁ?本気で痩せる気あんのか!?”って言いかけたんじゃ…
明らかにいつもと反応が違う…
「葉山さん。やっぱり体調悪いんじゃないんですか?」
「やっぱりってなんだよ。別に…なんともねぇよ。」
おかしいな…
なら今日は機嫌が良いって感じ?
「私本気で痩せないとって思ってるので歩くところから始めてみます。」
「で? 何キロ痩せる目標?」
「あー… 3、キロ?」
「なんだよ。5キロぐらい言うかと思った。」
「えっ!? 5キロは必要ですかね!!」
「知らねぇよ。目標は自分で立てるもんだし。」
「ですよねぇ…(苦笑)」
やっぱりいつもの辛口葉山さんだ
駅に着いて電車を待っている間
葉山さんはスマホを見ながら
「あの、さ。この前の金曜の夜のことなんだけど。」
金曜の夜??
「強引に飯誘って…悪かったな… 」
そうだった
あの夜別れ際 葉山さんは悲しそうな表情をしてたな…
「…いえ、」
それからの葉山さんはずっと無言でスマホの画面を見ている
俺に話しかけるなって空気…
「あの、葉山さん、」
ちょうど電車が駅に入ってきた
黙って乗り込むとまた当たり前のように私の隣に座った
「なぁ。」
「はい?」
「話があんだけど。」
「はい?」
「……」
え? ちょっと!
その話、待ってるんですけど?
「今週の土曜、」
「無理です、予定がありますから。」
「なんだよっ、速攻で断んなっ。」
「大事な予定があるんですっ。」
「チッ!」
「やっぱり短気ですねぇ(笑)」
あ、黙ってしまった
「…すまん」
えっ?
今 謝った??
葉山さんが!?
やっぱり熱でもあるんじゃ?
「なら…来週はどうよ…」
「まぁ、来週の土曜(祝日)なら…平日夜でも良いんですけど。何系の話ですか?まさか私に相談ごと…とかは無いですよね(笑)」
「デート…」
「はい?」
「来週土曜の休日は、デ…」
「デート!?いやいや、ただ話をするだけで良いんですよねぇ?」
葉山さんの顔が見る見る赤くなっていく
え…?
デートってマジ?
冗談じゃない...?
「ほら、なんだ!スポーツ、痩せたいんだろっ!?」
話じゃない?
デートがしたいの??
スポーツがしたいの???
目的がわからない話に戸惑った
「やっぱり熱でもあるんじゃないですか?」
葉山さん顔がますます真っ赤になった
「やっぱり熱あるんじゃ、」
「無いよっ!」
「なんなんです?そりゃ私は痩せたいですけど…で?スポーツって何するんです?」
葉山さんとの会話ってほんと疲れる
「テ、テニスしようぜっ、、」
テニス!?
あんなハードなスポーツとんでもない!!
「無理です。私の心臓もちません。」
「なら、ボーリング。」
「ボーリングしながら話しするんですか?」
「そう、だ、、」
なにがなんでもスポーツがしたいって訳ね
まぁ身体を動かす機会になるか…
「わかりました。」
「おぅ…ならボーリング。土曜、デート。」
「なんで片言…(苦笑) それともう!デートじゃないから!」
「… 嫌なら、いい。」
あれ? いきなり意気消沈?
「ボーリングは行きましょう。ボーリングで痩せるのかわからないですけど。」
「俺が痩せさせてやる。任せろ。」
はい??
あなたスポーツトレーナーさんですか??
面白っ(笑)
「なんだよっ。」
「葉山さんって意外と面白いんだなって(笑)」
「面白いことは何も言ってない…てか… 」
立ち上がった
「いつもそんな風に笑っててくれ。」
え?
電車は葉山さんが降りる駅に停まった
「約束、絶対に守れよ。」
「はーい。お疲れさまでしたぁ… 」
相変わらず単語会話で終わったけど
“いつもそんな風に笑っててくれよ”
って、だったらいつも笑わせてよ
デートってやっぱり冗談だよねぇ?
今日ずっと変だったけどやっぱり熱でもあったんじゃ...
ずっと顔赤かったし?
翌日も
その翌日も
それからの葉山さんはずっと
その変なままだった
優しくなったのは嬉しいことだけどね(笑)
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