beautiful world 17
待ち合わせた駅で奈生の姿を探した
電話をかけると
『陽太さんはもう着いた?私は着いてるよ(笑)』
といつもの明るい奈生の声だった
「どこだ!?」
『あっ、見つけた!ここです!(笑)』
手を振っている奈生の姿を見つけた
――奈生!
「お疲れさまでした!平日に会えるなんてなんだか新鮮(笑)」
「そう、だね…」
いつもと変わらない奈生だった
今直ぐにでも聞きたい
でも…
「友人にオススメしてもらったお店なんですよ~楽しみ!ふふふっ(笑)」
隠している理由がきっとあるはずだ
「陽太さん?ここです。」
「あっ、あぁ、」
今どきの洒落た創作料理の店だった
なんだか疲れてる?と聞いてくる君はいつもと同じだ
僕もいつものようにそんなことないよと応えた
大人になれば人それぞれ人生経験の中で他人には言えない過去や事情のひとつやふたつあるもんだ
でも僕ら二人に関わることだから知りたい
できれば君から話して欲しい…
「何をすれば陽太さんの元気が出るでしょうか。一緒に写真撮りに行くにも今月はお互いに難しいですしね?」
「(クリスマス)イブの日は一緒に過ごせるだろう?」
奈生はイブの金曜は会社の忘年会があるからその後なら大丈夫と笑顔を見せた
料理が出されるたび奈生の瞳はキラキラと輝いた
今こうして僕に朗らかに笑いかけてくれているこの笑顔に嘘はない
僕は君が隠していることを知っていると打ち明ける必要はないのか?
でも…
「陽太さん、イブの夜はどこかに行きたいですか?(笑)」
「それは僕からの質問(笑) どこ行きたい?」
「私は… あの展望台が良いかな(笑)」
展望台?
あぁ、近所のあの小さい展望所のことか
「あんなとこ?」
「あんなとこって!」スネた表情になった
スネた顔をしてブツブツと独り言のように
「私にはファーストキスの大切な思い出の場所なのに…」と呟いた
あぁ そうだったな…(笑)
「じゃあ寒いけどあそこでケーキにロウソク立てようか(笑)」
「ふふっ(笑) きっとめちゃくちゃ寒いけど(笑) 陽太さんへのクリスマスプレゼント、今準備してるんですよ(笑)ふふっ」
…奈生
「奈生からのプレゼントならなんでも嬉しい(笑)」
「…うん(笑)」
頬が少しピンク色に染まった
君の笑顔はキラキラして綺麗だ…
君は自分は太ってるからとか
もっと目が大きかったらとか
そんなどうでもいい小さなことを気にしているけれど
僕にはそんなこと全然気にならなくて
ただ目の前にいる君が心から美しいと感じてる
君が僕のことを大好きだってことも感じているし
僕も君が大切な存在だということは揺るがない
今 君が何のためにごまかし隠していても
僕のこの気持ちは変わらない
だからこそ僕はもう知っていると伝えた方がいいのかもしれない
きっと君の心は今より軽くなる
楽にしてあげたい…
―――
店を出ると冷たい空気に包まれた
寒いねと微笑む彼女の手を握った
「陽太さんの手は大きくて温かくていつも安心します(笑)」
そう言う君の手も僕の心を温かくする
「なんだか雪が降りそう...ほら!こんなに空気が冷たい(笑)」
白くなる息を指さした
奈生は時々子供みたいに無邪気なことを言う
そんなところも全て愛おしい
だからこそ…
「今日ね、学校を出る時 同僚の先生に声をかけられたんだ。」
「ええ...?」
「鈴木先生って言う人なんだ。」
「はい。」
奈生の声が少し沈んだように聞こえた
僕は足を止め奈生に向き合った
「でね。その鈴木先生が僕と奈生が一緒にいる所を見かけたって言ったんだ。」
奈生の驚いた表情が次第に曇っていく
「奈生… 君はいつから僕のことを知っていた?」
奈生は次第に涙目になっていった
僕の胸はズキズキと痛くなる
「どうして黙ってた。」
「ごめんなさ…」
声が震えていた
「奈生。誤解しないで欲しい。僕は君を責めてる訳じゃない。ただ理由が知りたいだけなんだ。」
奈生の冷たい頬に手をあてた
「ごめんなさい…」
ポロポロと涙を流しだした
「なぜ謝る?泣かないでくれ…泣かせたい訳じゃないんだ。」
「……かった」
「え?」
「気持ちを…拒否… されるって…思って… 恐かった」
拒否?
僕が 君を?
「そんなことする訳ないだろう(笑)」
「…先生が転任してきたあの日からずっと、ずっと好きでした…」
―― そんな…
だったらもう9年近いじゃないか
そんなにも長く一途に想ってくれていたってことなのか?…
「そうか… 」
あの頃の僕は元彼女の舞とまだギリギリ付き合ってた頃だ
僕が今の学校に転任して少し経った頃
舞は僕に別れを告げ日本を発った…
奈生が顔を見上げた
「黙っていて… ごめんなさい…」
奈生…
「でも奈生からのアプローチ、全っ然無かったなぁ(笑)」
「え…?」顔を上げた
「ほら、バレンタインデーの日とか?僕なんか義理以外貰ったことなかったぞ(笑) まぁ、それは今でも同じだけどな(笑) 鈴木先生なんか今でもめちゃくちゃチョコ貰ってる(笑)」
「私は早見先生の方が格好良いって思っていたしずっとずっと…好きだった…」
そう言ってまたうつむいた
「ずっと好きだったなら なんでチョコくれなかった?(笑)」
「だって…」困ったように口ごもった
「“だって” なんだよっ!(笑)」
両手で頬を挟んで顔を覗き込んだ
「渡さなかったから…今があるんだよね?」
「えっ…」
…あぁ、そうか
そうだな…
「ん~~っ!じゃあ許す!(笑)次は欲しい!約束だよ(笑)」
「先生… 」またポロポロと泣き出した
「今の僕は君の先生じゃないだろう(笑)」
「あっ、あの、」
スマホを取り出し僕に画像を見せた
「これをずっと見てました…」
これは…
制服を着た奈生と僕が一緒に写った卒業式後の画像だった
今にも泣きだしそうな目で笑顔を作っている奈生と
そんな奈生の気持ちを微塵も知らない笑顔の僕の姿がだった
――奈生との接点は本当にあったんだ…
…胸がジンとなる
「御守りみたいにずっと持ってました...早見先生が私にくれた言葉と。」
「僕なんて言った?」
「“卒業おめでとう。幸多き人生になりますように” と。早見先生のその言葉通り 今とても幸せです。」
また奈生の目からポロポロと涙が落ちてきた
きっとこの時 奈生に告白されていたとしても
僕は生徒の奈生の気持ちを受け取ることはしなかっただろう
高原で出会った時その事を知らされたとしてもきっと同じだった
“気持ちを拒否されるって思って恐かった”
だからずっと隠してたんだな…
「…また君と出会えて 僕は本当に幸せだ…(笑)」
また手を繋ぎ歩きだした
時々 グズッと鼻をすする音が聞こえる
ほんと子供みたいだ(笑)
このまま
帰りたくないなぁ…
敢えて人通りの少ない遠回りの道を選んで歩く
ずっとこのまま君の傍にいたい
そして…
―― 君と夫婦になりたい
「話があるって僕言ってたよね。」
「ん…」
「僕ら付き合って三ヵ月だな。」
「はい。」
「まだ三ヶ月… 早いかもしれないけど。僕と一緒に暮らさない?」
「嬉しい...」
――え?
OKってこと?
「…じゃあ」
「私も一緒に暮らしたいです…(笑)」
奈生の潤んだ瞳はキラキラしていた
「ん、一緒に暮らそう(笑)」
奈生を強く抱きしめると
空から雪がふわふわと僕らの上に舞い落ちてきた
「やっぱり降ってきた(笑)」
「この冬の初雪だな(笑)」
そしてクリスマスイブに
プロポーズしよう…
―――――――――