定年後の仕事の意味
アンコールキャリア?
「アンコールキャリア」という言葉をご存じだろうか。この間日本でもあちこちで使われる機会が増えてきているようだ。言葉の定義はいくつかあり、必ずしも定まっていないが、「アンコール」とは、コンサートであれば演奏が終わった後に、再びステージに登場することである。つまり、アンコールキャリアは、日本で言えば、定年まで働き続けているステージが終わり、その後の働き方を指すことになる。
元々は、2008年に社会起業家のマーク・フリードマン氏が著書で使い始めた言葉である。事例としては、元マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏が、マイクロソフトの後に引退せずに、ビル・ゲイツ財団のフルタイム勤務を始めたことが挙げられたりしている。ここから、定年後にそれまでとは違う新たな仕事に就くことを指して、アンコールキャリアとされる場面もあるが、必ずしも新しい仕事には限定されない。違いは、働くことの意味など、まさに働き方である。
以前はセカンドキャリアと言われることが多かったが、セカンドキャリアが、それまでの仕事からキャリアを積み上げて、次の仕事に活かしていくことを指し、キャリアそのものが中心になることから、アンコールキャリアとは少しニュアンスが異なる。
働くシニアの実像
日本の高齢就業者数は、この間増加し続け2021年は909万人になっている。15歳以上の就業者総数に占める高齢就業者の割合は13.5%と過去最高である。高齢者の就労率は、年代別にみると60~64歳では71.5%と既に4人に3人が仕事に就いている。65~69歳でも50.3%と遂に半数以上が仕事をしている。ちなみに70歳以上でも18.1%で増加中となっており、団塊の世代で現在も仕事をしている人はいる。この世代は、女性の就労率が元々低かったが、女性の就労率も一貫して上昇しており、60~64歳で60%と既に半数以上が仕事に就いている。
こうした高齢就労者の半数以上は雇用者(約58%)であり、さらにその75%は非正規の職員・従業員である。この非正規の職員・従業員の就業の理由別割合は、男性は「自分の都合のよい時間に働きたいから」(30%)が最も高く、次いで「専門的な技能等をいかせるから」(18%)、「家計の補助・学費等を得たいから」(16%)などとなっている。女性では、「自分の都合のよい時間に働きたいから」(38%)が最も高く、次いで「家計の補助・学費等を得たいから」(21%)、「専門的な技能等をいかせるから」(8%)などとなっている。つまり男女ともに収入を得ることよりも、自分の都合で働くことに重きを置いている。
仕事のやりがい
ニッセイ基礎研究所が、57 歳~61歳の公務員(元公務員)と正社員(元正社員)を対象に行った調査の結果によると、「定年前の人の間でも、定年後の人の間でも、定年後に働き続ける最も大きな理由は、『老後資金が十分でないから』であった。ただし、「定年を迎えた人の方が、定年を迎えていない人よりも、老後資金のみを理由として挙げている人の割合は小さく、定年を迎えた人が実際に定年後に働く理由としては、老後資金の充足に、やりがい等の理由が加わっている人の割合が大きい傾向が見られた」としている。
つまり、定年後働く動機として、「お金」は重要な要素であるが、「仕事内容が好きだから/仕事を通して社会に貢献したいから/人と関わりを持つため」といった仕事そのものを楽しむ姿勢や、やりがいを軸とする働き方への意向が強くなっている、ということである。
このことは、Indeedがおこなった調査でも同様の傾向になっている。「収入よりもやりがいや社会貢献を重視した仕事をした方が良い」という質問に対して、「そう思う・どちらかというとそう思う」の合計は、60歳代で約57%、70歳代では約68%と大半を占めている。
定年前まで役割や責務として仕事を続けてきた人々の多くが、定年後の働き方として自らの生き方を改めて考えて、実践していこうとする意識が大きくなっている。まさにアンコールキャリアである。
さいごに
このようにアンコールキャリアとして、これまでと同じでない舞台で仕事を続けようとする人たちが既に多くなっている中、これに対応する仕事が社会的に提供されているだろうか。リスキリングも良いことだと思うが、アンコールキャリアとして相応しい仕事のあり方を社会的に考えていくことが必要だ。特に65歳以降、70歳代でも仕事に就く意欲が増加しており、それに見合う仕事の機会が今は特定の職種などに限定されており、これをもっと数多くの職種で提供していくことが求められている。
★ 統計からみた我が国の高齢者、総務省、2022年9月
定年後の働き方―定年前の予定とのギャップ、岩﨑敬子、ニッセイ基礎研究所、
2022年10月
「シニア世代の就業」に関する意識調査、Indeed、2022年10月
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