2016.4.9 01:00
【アマゾンVS仏教会】「お坊さん便は宗教の商品化」と中止要請したものの「お布施の金額が不明瞭」と反論され…仏教会の次の一手は?
アマゾンで取り扱われる「お坊さん便」の画面。全日本仏教会は中止を求めている
インターネットを通じ僧侶を定額で派遣するサービスに、全日本仏教会(東京都)が危機感を強めている。サービスを取り扱うネット通販大手、アマゾンジャパンに「宗教行為を商品にしている」と中止を求めたものの、逆に「お布施の金額が不明瞭」など批判にさらされた。地方などの寺が檀家離れに直面している現実もあり、全日本仏教会は各宗派の担当者らによる協議会を設置する方針を決め、信頼回復に向け対策に乗り出すことになった。(高久清史)
「足下から見つめ直す」批判の嵐の中で反省の弁
「僧侶としてのあり方を足下から見つめ直し、信頼と安心を回復していかなければなりません」。全日本仏教会が斎藤明聖理事長名で3月4日にアマゾン宛てに送った文書は、販売中止を要請する一方、こうした反省の弁がつづられていた。
発端は昨年12月8日、アマゾンが葬儀関連会社「みんれび」(東京都)の派遣サービス「お坊さん便」の取り扱いを始めたことだ。
全日本仏教会はお布施にあたる費用を定額表示していることを「宗教性が損なわれる」と反発し、同月24日にアマゾンに抗議する談話を発表。だが批判的なメールが寄せられ、その件数は数十件に及ぶ。
「高額のお布施を要求された」「金額が不明瞭」。全日本仏教会広報文化部によると、1月26日、全日本仏教会に加盟する主要宗派などから選出された理事の会合で、メールの内容について説明が行われ、出席者からは一部の僧侶の質を問題視する意見も上がった。この会合で、アマゾンに販売中止を求めていく一方で、信頼回復に向けて対策を考える協議会を設置する方針が決まった。
檀家減少で出稼ぎ…僧侶にとっても頼みの綱
同様の派遣サービスは複数の業者が展開している。全日本仏教会としては世界的な企業で、影響力も大きいアマゾンの関与を問題視して抗議に踏み切ったが、こうしたサービスが僧侶にとっても頼みの綱になっている現実もある。
地方から都市部への人口の移動などで檀家の減少に直面。専門誌「SOGI」(表現文化社)の碑文谷創編集長は「檀家減少の進む寺の住職が派遣サービスに登録し、大都会での出稼ぎで寺を支えている例もある」と明かす。
みんれびへの僧侶の登録者数は3月時点で約450人。アマゾンでの取り扱い開始を発表した昨年12月以降、僧侶からの問い合わせが続々と寄せられているといい、広報担当者は「檀家の減少に悩む寺と、どこの寺に頼むか分からない人をつなげる役割を担っている」と話す。
大阪市の西栄寺は平成26年9月、関東に移り住んだ檀家との交流を続けることなどを目的に東京別院(東京都足立区)を設立。東京別院の榎本勝彦住職はみんれびに登録している。
榎本住職は「寺は人がいてこその寺であり、新しいご縁を求めていくことは必要」と説明し、「こういうサービスは時代の流れ。利用する方々の思いを受け止め、つとめさせていただく」と強調する。
みんれびが利用者に行ったアンケートからも、「時代の流れ」が浮かび上がる。「菩提寺との関わりが疎遠になり、法事をどこに依頼していいか悩んでいた」「寺に直接頼むと、お布施の額について聞きにくい」。みんれびの広報担当者は「お坊さん便では寺やお坊さんに必要以上に気を使わずに故人を供養できると感じてもらえている」と説明する。
「叩かれているうちが華」広がる危機感
全日本仏教会は今後、人選など細部を詰め、6月ごろに協議会を発足させる見通しという。
碑文谷編集長は「都市部で檀家減少による財政難からお布施の金額を上げ、檀家の反発を招いて寺離れが進んだケースもある」と指摘。その上で、「お布施が寺の護持や活動にどのように使われているのか情報公開したり、都会に出る人を地方と都会の寺が連携して面倒をみたりする努力が必要になってくる」と注文する。
全日本仏教会関係者はこう危機感を募らせる。
「寺は嫌いだが供養はしたいという人がいるからこそ、(全日本仏教会が)叩かれていると思う。叩かれているうちが華。加盟宗派と問題意識を共有していき、一刻も早く僧侶の質をあげ、開かれた寺を実現していく必要がある」
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「お坊さん便」 葬儀関連会社「みんれび」が平成25年5月から自社サイトでサービスを展開し、27年12月にアマゾンでの取り扱いを始めた。お布施にあたる料金は3万5千円の定額で、2万円を追加すれば戒名がつく。みんれびによると、問い合わせ件数は26年が8千件、27年が1万件と増加傾向にあり、受注件数も伸びているという。