平仮名と漢字ではどちらが覚えやすいか。
言葉を学ぶ時、まず「ひらがな」次に「漢字」を学習する。この流れは知的障害児
教育にあっても同様である。これまでごく自然に行われてきたことだが、果たして正
しいことか。「漢字」は「ひらがな」よりも容易に学ぶことができるのではないか。
このことを検証するため、九月より漢字の学習を行った。
1 漢字学習の実際
朝の会と帰りの会の前に行った。時間は五分以内とし、石井勲氏の指導を参考に行
うものとした。
※ クラス6名(小学部3年生)はこれまで教えられた経験が無いため漢字を読ん
だ事実は無い。
(1) 朝の会で「曜日」と「一日の予定」を学習
①「月・火・水・木・金・土」の漢字を教える。
→「げつ」「か」「すい」「もく」「きん」「ど」と教師が言いながら黒板に曜日
の漢字を一枚ずつ貼る。「もう一度言ってみます。」と言って曜日の漢字を指差しな
がら「げつ」「か」・・と繰り返す。(6名中2名は2日以内に覚えた。)
②一日の予定を漢字で教える。
→一日の予定を話す時、漢字カード「朝の会」「図工」「遊び」「給食」「掃除」
「遊び」「着替え」「帰りの会」を並べて貼る。(6名中2名は2日以内に覚えた。
自閉的傾向の児童は、「ひらがなカード」よりも「漢字カード」の方がすぐにマッチ
ングできた。)
(2) 帰りのあいさつ前に漢字学習
①公文式の漢字カード(くもん出版)を使用する。
→一日5~6枚、表の絵を見せてお話をし、裏
返して漢字を見せる。
(一人の児童は、一週間で8個の漢字を覚えた。)
②一日一つ、漢字の成り立ちを教える。
→川・雨・月・火・水・木・金・土について絵から漢字に変わっていく様子を三段
階(絵→象形文字→漢字)で黒板にかいて教えた。(成り立ちの絵を描き始めると皆よ
く注目する。)
③絵本を読み、出てくる動物の漢字を見せる。
→動物が出てくるたびにその漢字カードを、用意したパネルに貼り付けていく。
④絵描き歌の後、漢字クイズをする。
→絵描き歌はクラス6名の児童が黒板に注目する。その後クラスで飼っている「亀」
身近な「犬」の漢字の成り立ちをクイズで教えた。
(身近な動物はすぐに覚え忘れなかった。)
⑤パネルシアターで漢字を提示する。
→登場人物や背景を貼り付けていくパネルシアターの話は動きがありどの子も好き
である。出てくる人や物の漢字カードを見せながら行う。
⑥手遊び歌で漢字を提示する。
→「手をたたきましょう」の歌に合わせて「手」と「足」の漢字カードを見せる。
(動きも伴うのでよく覚えることができた。)
⑦パソコンで漢字を学習する。
→根本直樹氏、斎藤浩康氏の作られた漢字学習サイトを使用させていただいた。
(隣のクラスの児童も興味を持って毎日やってきた。)
2 漢字の学習で見えた事実
クラス6名の児童は小学部3年生の9月まで漢字を読むという事実が無かった。そ
れはできなかったのではなく、与えられなかったからである。
朝の会で「月・火・水・木・金・土」のカードを読んで見せ黒板に貼っただけで、
2名の児童が瞬く間に覚えてしまった。また、一日の予定(「朝の会」「図工」「遊
び」「給食」「掃除」「遊び」「着替え」「帰りの会」など6~7項目)も同様に覚
えていった。どちらも1回3分程度、たった2日以内での出来事である。
会話がある程度できる児童はとにかく驚くほど短時間で「漢字」の読みを覚える事
が分かった。
隣のクラスに会話は少しできるが、「ひらがな」がなかなか理解できない児童がい
た。入学してから2年以上「ひらがな」をよく理解できずにいた児童である。その児
童も漢字なら覚えることができた。
ある日、小プレールームという部屋に来ていたその児童に声をかけた。山の絵を描
き、「この絵はなんだか分かる?」と聞くと、すぐに「山。」と返事が返ってきた。
「そう、よく分かったね。すごい。」と誉めてから、「この絵からこんな漢字ができ
たよ。」と絵→象形文字→漢字と、絵からの成り立ちを教えた。続いて「川」について
も同様に教えた。
その後、漢字を指差してもう一度聞くと、「山。」「川。」と大きな声で答えた。
一瞬にして覚えてしまったのである。
言葉の見られない児童、自閉的な傾向を持つ児童も黒板に成り立ちの絵を描くと注
目し、マッチングは「漢字」の方がやり易い事がうかがえた。
知的障害を持つ子ども達が言葉の意味を学ぶ時、「ひらがな」での理解は難しいが
写真カードや絵カードなら比較的理解が進む。絵から形作られている漢字を覚え易い
のはごく自然なことである。
「漢字」は「ひらがな」よりも容易に覚えることができる。認識の力をまずつけて広げ
ていく場合、写真や絵の次に「漢字」を手立てにすべきである。その後「ひらがな」に
つなげる指導が有効であると実践を通して強く感じた。
3 漢字指導の微細技術
身近なものほど覚え、記憶に留める。覚えて2週間後、毎日扱う一日の予定の漢字
はほとんど忘れなかったが、あまり身近に目にしない動物の漢字は半分以上忘れてし
まった。生活に身近な漢字から教えていくことが有効である。
「田んぼの田だよ。」という指導は注意しなければならない。児童は「田」を「たん
ぼ」と覚えてしまった。「田」は「た」なのである。
言葉を学ぶ時、まず「ひらがな」次に「漢字」を学習する。この流れは知的障害児
教育にあっても同様である。これまでごく自然に行われてきたことだが、果たして正
しいことか。「漢字」は「ひらがな」よりも容易に学ぶことができるのではないか。
このことを検証するため、九月より漢字の学習を行った。
1 漢字学習の実際
朝の会と帰りの会の前に行った。時間は五分以内とし、石井勲氏の指導を参考に行
うものとした。
※ クラス6名(小学部3年生)はこれまで教えられた経験が無いため漢字を読ん
だ事実は無い。
(1) 朝の会で「曜日」と「一日の予定」を学習
①「月・火・水・木・金・土」の漢字を教える。
→「げつ」「か」「すい」「もく」「きん」「ど」と教師が言いながら黒板に曜日
の漢字を一枚ずつ貼る。「もう一度言ってみます。」と言って曜日の漢字を指差しな
がら「げつ」「か」・・と繰り返す。(6名中2名は2日以内に覚えた。)
②一日の予定を漢字で教える。
→一日の予定を話す時、漢字カード「朝の会」「図工」「遊び」「給食」「掃除」
「遊び」「着替え」「帰りの会」を並べて貼る。(6名中2名は2日以内に覚えた。
自閉的傾向の児童は、「ひらがなカード」よりも「漢字カード」の方がすぐにマッチ
ングできた。)
(2) 帰りのあいさつ前に漢字学習
①公文式の漢字カード(くもん出版)を使用する。
→一日5~6枚、表の絵を見せてお話をし、裏
返して漢字を見せる。
(一人の児童は、一週間で8個の漢字を覚えた。)
②一日一つ、漢字の成り立ちを教える。
→川・雨・月・火・水・木・金・土について絵から漢字に変わっていく様子を三段
階(絵→象形文字→漢字)で黒板にかいて教えた。(成り立ちの絵を描き始めると皆よ
く注目する。)
③絵本を読み、出てくる動物の漢字を見せる。
→動物が出てくるたびにその漢字カードを、用意したパネルに貼り付けていく。
④絵描き歌の後、漢字クイズをする。
→絵描き歌はクラス6名の児童が黒板に注目する。その後クラスで飼っている「亀」
身近な「犬」の漢字の成り立ちをクイズで教えた。
(身近な動物はすぐに覚え忘れなかった。)
⑤パネルシアターで漢字を提示する。
→登場人物や背景を貼り付けていくパネルシアターの話は動きがありどの子も好き
である。出てくる人や物の漢字カードを見せながら行う。
⑥手遊び歌で漢字を提示する。
→「手をたたきましょう」の歌に合わせて「手」と「足」の漢字カードを見せる。
(動きも伴うのでよく覚えることができた。)
⑦パソコンで漢字を学習する。
→根本直樹氏、斎藤浩康氏の作られた漢字学習サイトを使用させていただいた。
(隣のクラスの児童も興味を持って毎日やってきた。)
2 漢字の学習で見えた事実
クラス6名の児童は小学部3年生の9月まで漢字を読むという事実が無かった。そ
れはできなかったのではなく、与えられなかったからである。
朝の会で「月・火・水・木・金・土」のカードを読んで見せ黒板に貼っただけで、
2名の児童が瞬く間に覚えてしまった。また、一日の予定(「朝の会」「図工」「遊
び」「給食」「掃除」「遊び」「着替え」「帰りの会」など6~7項目)も同様に覚
えていった。どちらも1回3分程度、たった2日以内での出来事である。
会話がある程度できる児童はとにかく驚くほど短時間で「漢字」の読みを覚える事
が分かった。
隣のクラスに会話は少しできるが、「ひらがな」がなかなか理解できない児童がい
た。入学してから2年以上「ひらがな」をよく理解できずにいた児童である。その児
童も漢字なら覚えることができた。
ある日、小プレールームという部屋に来ていたその児童に声をかけた。山の絵を描
き、「この絵はなんだか分かる?」と聞くと、すぐに「山。」と返事が返ってきた。
「そう、よく分かったね。すごい。」と誉めてから、「この絵からこんな漢字ができ
たよ。」と絵→象形文字→漢字と、絵からの成り立ちを教えた。続いて「川」について
も同様に教えた。
その後、漢字を指差してもう一度聞くと、「山。」「川。」と大きな声で答えた。
一瞬にして覚えてしまったのである。
言葉の見られない児童、自閉的な傾向を持つ児童も黒板に成り立ちの絵を描くと注
目し、マッチングは「漢字」の方がやり易い事がうかがえた。
知的障害を持つ子ども達が言葉の意味を学ぶ時、「ひらがな」での理解は難しいが
写真カードや絵カードなら比較的理解が進む。絵から形作られている漢字を覚え易い
のはごく自然なことである。
「漢字」は「ひらがな」よりも容易に覚えることができる。認識の力をまずつけて広げ
ていく場合、写真や絵の次に「漢字」を手立てにすべきである。その後「ひらがな」に
つなげる指導が有効であると実践を通して強く感じた。
3 漢字指導の微細技術
身近なものほど覚え、記憶に留める。覚えて2週間後、毎日扱う一日の予定の漢字
はほとんど忘れなかったが、あまり身近に目にしない動物の漢字は半分以上忘れてし
まった。生活に身近な漢字から教えていくことが有効である。
「田んぼの田だよ。」という指導は注意しなければならない。児童は「田」を「たん
ぼ」と覚えてしまった。「田」は「た」なのである。