ミャンマー視覚障害者医療マッサージトレーニングセンターの日々の記録 「未来に向かって」

NPO法人「ジャパンハート」が、ミャンマーの視覚障害者の社会的自立を目指して立ち上げた新たなプロジェクト

大切な忘れ物

2012年05月31日 | 日記

ミャンマーの子供たちにとって楽しかった長い休みももう終わり、明日から学校が始まる。
この長期休み中も私は、昨年度の整理や新年度の準備、日本への一時帰国や地方盲学校への巡回など何かとあわただしかったが、授業がある次期に比べると少しは時間が取れた。そのため、普段よりもゆっくりと社会の状況にも眼を向けて色々なことを考えた。

最近マスコミでも度々眼にするようになったミャンマー。昨年の新政府発足後、新しい国づくりが着々と進められている。
私が住んでいるヤンゴンもものすごいスピードで変わりつつある。本当に驚異的な勢いと盛り上がり様で、若者を中心に人々は浮かれ、ある意味こちらが不安になることもある。
車の数が急増し、渋滞の中我先にと行こうとするクラクションの音が絶えない。また、次々とオープンする新しいショッピングモールは、消費欲を持った大勢の人々でごった返し、珍しい新商品が飛ぶように売れる。「どこからそんなお金が出てくるの?」とつい思ってしまうほど、ミャンマーの人たちの消費力には驚かされる。正に好景気。これまで民族衣装の巻きスカートが定番だった服装もみるみる西洋化してきている。
一方、町のタクシードライバーの多くが値切り交渉には一切応じなくなり、無理に値切ると驚くほどの対応の悪さ ・・・。供給不足の外国人向けホテルや住宅賃料も今や日本の都心部並みに急上昇し、払えなければ住むところがすぐに全くなくなるような状態だ。

発展することは大いに歓迎できるが、ミャンマーも国際社会の他の国々が経験した同じ道を辿るのかもしれないと思うと何だか寂しい。
私がミャンマーに着たばかりのころ、ある日40℃近くの中で停電になってエアコンも扇風機も長時間完全に止まってしまった。初めて経験するあまりの暑さに、センターの床に張り付くようにぐったり横になり涼んでいた。そんな時、頼みもしないのに言葉も通じないのにミャンマー人が1杯の水を持ってきてそっと差し出してくれた。冷蔵庫も止まっているので冷えてなんかいないが、これまで飲んだどんな飲み物よりも美味しいと思ったことを今でもはっきり覚えている。そして、「ミャンマーの人たちはなんてやさしいんだろう ・・・、ミャンマーの人たちのために少しでも力に慣れたら」と純粋に感じ、ここでの生活の大きなエネルギーになったことを思い出す。でも、こんな人の心の美しさも社会の発展の波に飲み込まれながら、物質的・金銭的な豊かさと共にいつしか消えてしまうのだろうか ・・・。時代の波に翻弄されるのではなく、ミャンマーの人々がずっと大切にしてきた信仰心の深さ、神の前に自己を律し他人を敬う心、そんな大切な忘れ物をしないことを願っている。

さて、今週は新入生が全国各地からセンターに到着し、来週からは授業を本格的に始める。こんな社会状況だからこそ、「ミャンマーの視覚障害者の職業的・経済的自立の基盤となる医療マッサージ教員の養成をする」と言うプロジェクトの基本コンセプトの元冷静に未来を見つめ、今年も教室で1日1日着実に学生たちの指導に当たっていくつもりだ。
   

 塩崎

各地で活躍するセンター学生

2012年05月22日 | 日記

先日は、約1週間かけて全国の盲学校にお邪魔してきた。
これは毎年今の長期休み期間中に行っている物で、各盲学校の状況を確認し、プロジェクトに関する共通認識を関係者間で獲ることが目的だ。

卒業式以来のセンター学生にも会うことができた。母校に戻った彼らは大活躍している様子。
彼らがセンターから3月に戻ると、どこからか噂を聞きつけて「ヤンゴンでマッサージを勉強してきた先生はいますか?」と地域の人が尋ねてきている様子だった。肩こり・腰痛など症状も様々だが、早速センターで学んだ医学的な知識と技術を生かしているようだ。そして、「とてもよく効いた。」、「症状がなくなった。」と喜ばれ治療費を払い、更に次の患者を連れてくる ・・・、こんなサイクルが各地の盲学校周辺のコミュニティ内でできつつあるとのこと。

そのためか母校に帰った学生たちは、なんだか会うたびに生活がよくなっているように見える。綺麗な服を着ておしゃれをし、大好きなDVDプレイヤーを買ったり、学校近くのカフェにコーヒーを飲みに行ったり、世間の若者が普通に楽しむようなことをしている。そして、「先生が好きなこれ買ってるので食べてください」と進める彼ら。更に、ある教え子が差し出した紙には点字で携帯電話の番号が書いてあった。どうも自分の携帯を買ったらしい。今の彼らは、1個のスーツケースに最低限の物を詰め込んでミャンマーに来て、毎日似たような服ばかり着てる私よりも遥かに潤っている。

しかし、これらは他人からプレゼントされたものでもなければ、支援者からの寄付金で買ったものでもない。センターで学んだ知識・技術を元にマッサージ治療をして、患者から感謝と共に支払われた立派な治療費で買ったもの。正に、彼らが自分の力で稼いだお金で自分の生活を楽しんでいるのだ。センターでの勉強は決して楽ではなかったと思うが、それを乗り越えて手にした今の喜びを思いっきり感じてもらいたい。

「いつ患者が来なくなるか分からないんだから、常に自分を磨き少しは貯金もしっかりしなさいよ。」と言う私に「はい先生」と笑顔で答える彼ら。本当に分かっているかどうか分からないが、そんな彼らの笑顔を見て、私まで嬉しくなった。
今後彼らに期待されることは「自分ひとりだけが幸せになることではなくて、ヤンゴンで習ったことを医療マッサージ教員として母校にいる後輩たちに伝えること」。これから教えていく際も、苦労して獲た自分の知識・技術を使って患者を実際に治した経験は必ず大きな自信になるだろう。そして、そんな彼らを見て、「自分も早くこうなりたい。」とミャンマー各地の視覚障害者が思ってくれるようになれば嬉しい。

ミャンマーの学校では来月から新年度が始まるが、各地の盲学校で彼らがどんな授業をしてくれるか楽しみだ。センターを離れても第1期卒業生・第2期教育実習生がお互いに協力して頑張ってほしい。



    塩崎