その頃、僕は30軒ほどのお店を
回っておりまして
コースの距離は
160キロ近くありました
特に優秀でもなく
所長からは「パートなみだな」と言われていましたが
お客さんから「あそこへ行ってみろ」と
紹介されたりして
年に数軒、新規のお店を取ることも
ありました
☆****☆
会社には台紙のメーカーなどがよくきて
所長がたっぷり飲まされた翌日はかならず
「君のコースを一緒に回るように..」
ということになるのです
お店はとてもそれを嫌がるので
「所長、僕のコースはやめたほうがいいと思います。」
などと言うと、飲まされて立場の無い所長は
突然切れて怒り出すのです
☆****☆
結局、僕は台紙の営業マンと
回ることになるのでした
何軒かまわったとき、やり手の営業マンが
「いつもこんな運転をされてるんですか?」
僕の運転がいかにも遅いといわんばかり、
普段でもあまり飛ばさないし、人を乗せたときはやたら慎重になる、
僕が「ええ、」と答えると
「僕は博多の人間なのでこの運転だと怖いです」
「えっ、ゆっくりなのが怖いんですか? 」
「博多では黄色は進めです。」
「黄色で止まると後ろから追突されます。」
「でもさっきの場合、すぐ赤に変わりましたよ。」
「あの赤は止まれじゃ無いですよ。」
「えっ、」
「死ぬ気で進め! です。」
そう言って笑っている営業マンに
「僕はまだ死にたくはありません...」
「・・・・・、」