バンドの司会で入ってきたFさんは
いつもニコニコしていた
ある日、キーボードが欲しいというので
僕の持っているのを売ってあげた
ところが約束した日になっても
金を払わない、
二度、三度とそれが続き
さすがに温和な僕も少し強い口調で催促した
すると、「しつこいな、
何回 同じ事を言ってるんだよ。」
「今日は風邪気味で頭が痛いんだ。」
ついに怒りだした
その時、横で聞いていたバンドマスターが
「金が払えないんだったら、品物を返せ、」
その一言で僕のキーボードは
翌日に戻ってきた
☆*****☆
その後も Fさんには
借金取りからの電話が頻繁にかかってきていた
車に飽きると支払いが終わっていないのに
売ってしまって新しい車を買う
前のローンは踏み倒す
車を変えるたびに合わないからと服や靴まで買い換える
☆*****☆
ある夜、みんなと楽屋から出てくると
ホールの入り口に黒い服を着た人が六人くらい立っていた
そして一人が「Fさんはどちらにいらっしゃいますか?」
たまたま Fに聞いたから
「まだ楽屋じゃないですか...」
Fは しらばっくれていつもの笑顔でそう答えた
男たちは足早に楽屋への階段を下りていった
だけど楽屋にいたのはバンドマスターが一人だけ..