新潟久紀ブログ版retrospective

新行政推進室2「意識高いメンバー達とクセの強い室長でスタート」編

●意識高いメンバー達とクセの強い室長でスタート

 室内は壮観にさえ感じる景色であった。3つの班の形態に配置された机の上には電話が2台ずつある程度。壁際に配された書架書棚には殆ど図書などの配架物もない。当時はパソコン一人一台どころか、職場に共用のデスクトップパソコンが、しかも14型くらいの画面の白黒ブラウン管のでかいやつ一台が一般的な状況。加えて大仰なプリンターを横にして事務机一台分くらいのスペースを取って部屋の角に配置されていたが、その他のOA機器といえばFAX兼用のコピー機くらいであり、室内は清々しいくらいにガランとしてた。
 ついこの間まで、公金不適正支出問題の調査で動員された職員が多い時で30人程度ごった返していた会議室では、所狭しと並べられた会議用机の上に資料ファイルがギッシリと並んでいたが、"庶務係長"役を仰せつかった私が転出する同僚達の助けも借りながら日々搬出して書庫へ格納し、その入れ替わりに新メンバー達の分の机や椅子、備品等を可能な限り庁内から不要物品を集めるなどして、新設される新行政推進室としての模様替えをなんとか3月末までに終えていて、平成10年4月1日を迎えるに間に合った。
 なんといっても新設の課であり全てが転入者という異例のスタートである。皆が高い意識でやってくるに違いない。旅費問題調査の作業をしていた時の私のくたびれ感は、残業縮減のポスター撮りのキャストとしては高評であったが、新たな課のスタートに際してはそうもいくまい。前身の人事課行政システム改革班からの移行者として、新たなメンバーを迎え入れる気持ちで、誰よりも早く出勤し、昨日夕方までギリギリの準備作業によるヘタレ感が表情に出ないように濃いコーヒーを飲み干し、待機した。
 朝8:00過ぎになるとメンバーが順次出勤し始めた。一人一人と挨拶を交わす。一部に面識のある者もいたが、ほぼ全員がこれまで同僚になった経験のない職員達であり、軽い緊張感の漂う中で、簡単に雑談が始まるような雰囲気にはなかなかならない。それでもお迎え役として何か共通の話題の切り口でもと一人一人を眺めていると、出勤して直ぐに皆が一様に始めた仕草に驚いた。
 誰もが持ち込んできたラップトップパソコンを自分の机の上で開き始めたのだ。業務の電子化が進む中で、さすがに「新行政」を標榜する職場であり、3つある班において班長役となる行政調査員という役職者3人には各々庁内LANのラップトップパソコンが何とか配備されていたのだが、その他のメンバー8人は必要時に班内で融通しあうという前提だった。
 私はといえば、前々職の農政企画課時代にパソコンに詳しい農業専門職の同僚から洗礼に近い指導を受けて、業務にデスクトップパソコンを使うのが当たり前になっていたというか、もうパソコン無しでの仕事は考えにくいほどになっていて、公金不適正支出問題での膨大なデータ集計作業でさらに確信させられたあげく、年度末までに自費でSONYのVAIOを購入して職場に持ち込み、スタンドアロンで新職場立ち上げ作業に関する事務に使い始めていた。
 私のような対応は周辺を見聞きしても異例であり、新しいメンバー達も異動内示一覧表で前職をみれば各々個別にパソコンが必要だと思えるところではない。一人一人に聞いてみるとやはり「新行政推進室」という部署名を踏まえてこの度各自が自費で購入したのだと口を揃える。当時、私のVAIOが今から見れば、クロック速度もハード容量もとんでもない低スペックでソフトも全く入っていない状況なのに30万円近くもしたものだ。皆が大枚の自腹を切って新部署に臨んできたのだ。
 行きがかり上残留した私はともかく、新たに選抜された職員達はさすがに意識が高い人達だと感じ入っていると、始業後しばらくして、総務部長から個別に辞令を受けた新行政推進室長が入室してきた。我々の新たなボスである。私はこれまでの県職員生活11年間で全く接点が無かったが噂に聞く有名人であり、人事課の任用畑など職員を管理監督し配置調整する仕事が長かったためなのか部下をはじめ職員の仕事ぶりとその出来具合に厳しく、組合交渉などにも通じていて、"強面"ぶりで職の上下を問わず威圧感を感じさせる人物だという。
 「おっかなそうだなぁ」という前情報を聞いて新職場の準備に粗相があっては大変とばかり、お迎えするのは新たな天皇か将軍かとばかりに、「腰の具合が良くないらしい」と側聞すれば、予算の可能な範囲で腰に優しい最上級の椅子をなんとか調達するなど、"庶務係長"として全力投球したものだ。その御本尊様がいよいよ"御来座"だ。
 当座の日程確認などして少し落ち着いた頃合いで、通例により、室長は皆を前にして訓示的なお話を始めた。それは形式的な挨拶と激励などで無難に終えたのだが、一息ついて室内の雰囲気が和み始めると口も軽くなってきたようだ。3人の班長のうち1人が知古であるらしく室長は彼と気兼ね無く雑談を始めた。「私は知事から直接内示を受けた時に「これは左遷ですか」「何かの処分ですか」と返しましたよ…」などと漏れ聞こえる。
 人事が全てといわれる役所において泣く子も黙る人事課任用係で長年過ごし、それ以外もオーソドックスな保守本流といわれる部署を渡り歩き昇進してきた人物である。どうやら新設されたばかりで海の物とも山の物とも分からない新行政推進室などという部署がお気に召さないらしい。
 役所の組織の名称は政策そのものであるがその実効はスタッフ次第だ。新行政推進室という「器」は確かに希望や意欲を抱かせるものだが、やはりそこに配される「人」が肝要。えらく意識の高い同僚達と配属に憤懣やるかたなさそうなボス…。公金不適正支出問題対応という滅多に無いイレギュラーな一年間の次も穏やかには過ごせそうにないのは、新採用以来を振り返ると持って生まれた私の宿命かと改めて思うのでした。

(「新行政推進室2「意識高いメンバー達とクセの強い室長でスタート」編」終わり。「新行政推進室3「"新行政"ってなんだ?」編」に続きます。)
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