◆◆番外エピソード短編集◆◆
●農地保有合理化法人の移行
「農地保有合理化法人」というものを御存知だろうか。農業の経営規模拡大のためには、高齢化やサラリーマン化で営農を続けられない等の事情がある農家から、農地を売ってもらったり貸してもらったりすることになる。そんな農地の出し手と受け手の権利移動のマッチングに直接介在して、農地の融通や集団化を円滑化するための組織が、農地保有合理化法人である。
農地保有合理化法人は、農地法による一般の農地取得要件を適用されず、農地法許可の例外措置となる法人として昭和45年の農地法改正により創設され、国の制度的な設立支援の下で全国の都道府県に設置された。
平成5年には、農業経営基盤強化促進法の制定により、農用地等を活用して、効率的かつ安定的な農業経営を総合的に育成するための事業を行う法人として位置付けられたことから、私の農政企画課への転入と同時期に、その所管が農地部農地管理課から当課に移り、同法の担当者である私が同法人制度も担当することとなっていた。
売り貸しに出す農地があっても、機械設備の都合等で即座に全てを受けられる農業者が現時点で少なかったり居なかったりで、農地の出し受けにはミスマッチが伴う。さりとて農地を遊ばせる状況が増えれば食糧安定供給にも支障が…などと大袈裟に言わずとも、雑草や病害虫の発生で地域の営農や生活環境に悪影響を及ぼしたり、棚田などは適切に管理しないと土砂崩れに至ることもあり、放っておけるものではない。良い受け手に引き受けてもらえるまで農地を中間保有して適切に管理しようというのが農地保有合理化法人の主な役割なのだ。
この法人が中間保有している間に、例えば経営基盤の脆弱な若手農家等が管理耕作を有料で請け負い、資金力が付いたところで当該農地を買って大規模農家へと成長する…というように、仕組みとしては理想的なものであったが、やはり私有財産の取引に介在するリスクはあった。農地保有合理化法人から農地を買う意向を示していた農家が経営不振で頓挫したりすると、行き場を失った農地を同法人がいつまでもコストを掛けて保有し続けることとなり、地価の下落基調の中では、取得価格での転売も難しくなる。いわば不良債権を抱えるリスクが農地保有合理化法人にはあったのだ。
売り貸しに出す農地があっても、機械設備の都合等で即座に全てを受けられる農業者が現時点で少なかったり居なかったりで、農地の出し受けにはミスマッチが伴う。さりとて農地を遊ばせる状況が増えれば食糧安定供給にも支障が…などと大袈裟に言わずとも、雑草や病害虫の発生で地域の営農や生活環境に悪影響を及ぼしたり、棚田などは適切に管理しないと土砂崩れに至ることもあり、放っておけるものではない。良い受け手に引き受けてもらえるまで農地を中間保有して適切に管理しようというのが農地保有合理化法人の主な役割なのだ。
この法人が中間保有している間に、例えば経営基盤の脆弱な若手農家等が管理耕作を有料で請け負い、資金力が付いたところで当該農地を買って大規模農家へと成長する…というように、仕組みとしては理想的なものであったが、やはり私有財産の取引に介在するリスクはあった。農地保有合理化法人から農地を買う意向を示していた農家が経営不振で頓挫したりすると、行き場を失った農地を同法人がいつまでもコストを掛けて保有し続けることとなり、地価の下落基調の中では、取得価格での転売も難しくなる。いわば不良債権を抱えるリスクが農地保有合理化法人にはあったのだ。
市中金利が下がり融資により農地を買いやすくなったり、圃場整備を契機として地域ぐるみで農地の集団化や担い手農家への集積を進める施策の推進など手厚い補助金の投入を背景として、農地の権利移動が当事者間で直接的に進む状況が増えるようになったことなどにより、農地保有合理化法人としての事業は縮小へと潮目が変わっていった。
このような取組事業の縮小基調の情勢の中で、他県において住宅供給公社や土地開発公社など"公社"を標榜する団体が、ずさんな経理等で巨額の損失を出して社会問題化したこともあり、農地保有合理化法人としての事業を担う農業公社も、県の出資法人として、そのあり方の見直し圧力が強まることとなる。
民間有識者による県出資法人の見直しを議論する委員会において、担当課である我々は、県農業公社は独立しての存続が妥当であると主張し続けてきたが、社会的な雰囲気は完全に"アゲンスト"になっていた。廃止すべきとの論調もあったが、何とか類似団体との統廃合ということで決着した。県農業公社と県林業公社との統合である。
「農地保有合理化法人」すなわち「県農業公社」。私の配属と同時に他部局からの所管を移されその担当となり、その途端に他公社との統合が決まるとは。その頃までは、昭和の時代以降、第三セクターは増えて存続するばかりであり、統廃合の前例が乏しかった。新採用職場に続いてまたしても"前例無きドッキング業務"が私に舞い込んできたのだ。巡り合わせの悪さに「どうしてこんな目に…」と天を仰ぐのみだ。
「県農業公社」と「県林業公社」の統合というと、同じ農林水産部の所管として仲間内でのやり取りのみで容易なのでは…、と思われがちだが、県農業公社を所管する農政企画課が農業専門職の牙城であると同様、県林業公社を所管する林政課は林業専門職の牙城であり、仕事は完全に縦割り。こちとらが「コメだ野菜だ、田んぼだ畑だ」と騒いでいる傍ら、林業の分野では「杉だキノコだ、山だ森だ」とえらく異世界なのだ。
司令塔となる県本庁の担当課がこうした縦割り具合なので、二つの公社においても、各々のOBが勤めていることも相まって、社風から実務の進め方まで大きく異なっていた。公社として予算決算の財務諸表などは同様なものを作成していたのだが、仕事の進め方の習慣や作法等の違いは、組織統合を詰めていく中で思いのほか難儀させる要因になった。
それでも、内外の関係者と意思疎通を良好にして、統合実務に関わる当事者達をなだめたりすかしたりもしながら、期限までに統合できる目処が立ってきた。そんな中で、私にはまたしても"前代未聞の大玉ミッション"の遂行が控えていた。
このような取組事業の縮小基調の情勢の中で、他県において住宅供給公社や土地開発公社など"公社"を標榜する団体が、ずさんな経理等で巨額の損失を出して社会問題化したこともあり、農地保有合理化法人としての事業を担う農業公社も、県の出資法人として、そのあり方の見直し圧力が強まることとなる。
民間有識者による県出資法人の見直しを議論する委員会において、担当課である我々は、県農業公社は独立しての存続が妥当であると主張し続けてきたが、社会的な雰囲気は完全に"アゲンスト"になっていた。廃止すべきとの論調もあったが、何とか類似団体との統廃合ということで決着した。県農業公社と県林業公社との統合である。
「農地保有合理化法人」すなわち「県農業公社」。私の配属と同時に他部局からの所管を移されその担当となり、その途端に他公社との統合が決まるとは。その頃までは、昭和の時代以降、第三セクターは増えて存続するばかりであり、統廃合の前例が乏しかった。新採用職場に続いてまたしても"前例無きドッキング業務"が私に舞い込んできたのだ。巡り合わせの悪さに「どうしてこんな目に…」と天を仰ぐのみだ。
「県農業公社」と「県林業公社」の統合というと、同じ農林水産部の所管として仲間内でのやり取りのみで容易なのでは…、と思われがちだが、県農業公社を所管する農政企画課が農業専門職の牙城であると同様、県林業公社を所管する林政課は林業専門職の牙城であり、仕事は完全に縦割り。こちとらが「コメだ野菜だ、田んぼだ畑だ」と騒いでいる傍ら、林業の分野では「杉だキノコだ、山だ森だ」とえらく異世界なのだ。
司令塔となる県本庁の担当課がこうした縦割り具合なので、二つの公社においても、各々のOBが勤めていることも相まって、社風から実務の進め方まで大きく異なっていた。公社として予算決算の財務諸表などは同様なものを作成していたのだが、仕事の進め方の習慣や作法等の違いは、組織統合を詰めていく中で思いのほか難儀させる要因になった。
それでも、内外の関係者と意思疎通を良好にして、統合実務に関わる当事者達をなだめたりすかしたりもしながら、期限までに統合できる目処が立ってきた。そんな中で、私にはまたしても"前代未聞の大玉ミッション"の遂行が控えていた。
(「農政企画課8-1「農地保有合理化法人の移行」編(1/2)編」終わり。県職員3か所目の職場である農政企画課の回顧録は次回いよいよ最終回です。)
☆農政企画課勤務時代に自作したマンガリーフレットもご笑覧ください。
☆ツイッターで平日ほぼ毎日の昼休みにつぶやき続けてます。