●恒久的な仕組みを残す~ISO9000s,MB賞~(その1)
単年度において着手から成果の取りまとめまで完結させた行政手続き簡素化の取り組みは、「行政手続簡素化計画」として、網羅的に記された許認可等の処理期間の短縮や提出書類の簡略化などの県民サービス向上のための改善を、各々所管部署で事案の実情に応じて年次的に実践していくものとなり、当室としては全体の進行管理をしていくのみとなった。
行政手続きの一つ一つの改善が図られ、県庁全体としてのサービス水準を上げる施策をまとめたことに達成感はあったが、計画として示した改善策を達成することがゴールであるということに何か物足りなさを感じていた。決めた事を計画的に着実に進めるということは役所の仕事として本領ではあるのだが、一方で、一旦走り始めた取り組みを柔軟に変更できないことが役所仕事とも揶揄されている。数年間に及ぶ行政手続き簡素化の計画は、その途上で関係法令の改正や、例えば行政のオンライン化の急進など、社会経済情勢が変化した場合には対応を変えて行かねばならなくなるかも知れない。
新行政推進室との名を頂いて新たな時代に即した仕事の進め方を考える時に、定点的・固定的に設定した目標を掲げて進捗管理するというオーソドックスな行政手続き簡素化という取り組み意外にやるべき事は無いのだろうか。何か、モヤモヤとして行政改革などに関する資料や情報を読み漁ってみた。
バブル経済崩壊以降の社会経済の安定低迷が見込まれ、はっきり言えば税収の右肩下がりが続くことが確実視される一方で、低所得層の増大や少子高齢化による行政の施策充実への要請の高まりという、相反する情勢の中、行政における民間的な経営手法や民間資本の活用とか民間との協働とかの提言がかまびすしさを増していた。PFIとかPPPとか格好いいキーワードで先見性を煽るようなそのムードは、かつての第三セクターなど熟考されずに流行病のように全国自治体に蔓延して今となってはボロクソなけなしの対象となっている施策が頭をよぎる。その盛り上げやお祭り騒ぎで結局はコンサルテーションの面々が稼ぎを上げて終わりとしか思えないのだ。
県が行政を進めるにあたり、普遍的で構造的なものとして組織体に染み渡り、自身をいかなる変化にも対応していける体質にできるもの…。そんな"お題"を独り考えてみるが、それに適うような答えがあるのだろうか。
加えて、県民サービスの向上について考えるにあたり、モヤモヤ感のあることがあった。前年の一年間をかけて全庁的にお願いをして実務担当者にご苦労をいただいた「行政手続簡素化計画」の取りまとめにあたり、作業負荷が掛かったり汗をかいてもらうのは、個人なり法人の"県民"と直接やり取りのある業務の担当者達であり、公金の出入りを管理する出納部門や監査、人事、財政などの内部管理的な部署には取り組みは及ばなかった。そうした部署の職員は全庁的な取り組みとは言え全く知らなかったり、庁内LANの掲示版で状況を知っていても"我れ関せず"か"高みの見物"といったところであったわけだが、確かに司司(つかさつかさ)でやるべきが異なる縦割り組織体とは言え、同じ県職員として県民サービスの向上に取り組もうという時にこの温度差でよいのだろうか…というのがモヤモヤ感なのだ。これは新たな時代に対応できる行政を運動として進めるにあたっても大きな課題に思えた。
県庁の中でどんな分野や部署であっても自分事として考えることができるようにするにはどうしたら良いか。「県民サービス」という言葉が目に入ると「許認可申請など窓口業務のある仕事だけの話」に受け止められがちだ。悶々と悩みながらネットで何かヒントは無いかと探っていたら、ハッとするワードが視界に飛び込んできた。
「次工程がお客様」。直接お客様とのやり取りが無くても、どんな仕事でもお客様に最終的に提供されるサービスの善し悪しに関わりがあるもの。そうした仕事の連鎖を考えた時に、中間工程とされる自分の作業を、次の作業が待ち受ける工程へとよりよいものとしてつなぐことがお客様のサービスの向上になるという考え方が必要だ、というのだ。
ISO9000シリーズに関するサイト情報に触れて、"我が意を得たり"とは正にこのことかと感じ入った。ISOといえば、カメラなどの精密機械の世界的標準規格だとばかり認識していたが、考えてみるとISO14000シリーズという環境負荷を確実に抑えるための規格も頻繁に話題になっていることが思い当たり、規格の対象は「仕事の進め方の品質を確保する」という分野にも及んでいたのか…と再認識させられた。
ISO9000シリーズは、「質の悪いサービスを生み出してしまう余地が無い仕事の進め方であることを、客観的に納得してもらうための点検項目を、国際的に規定したもの」で、「シリーズ」は9000から9004までの5つの規格(標準)から構成されているという。ISO9001は供給者の行う全ての工程を対象としたモデル。ISO9002は「設計開発」を除いたモデル。ISO9003は製品の最終検査及び試験だけについての品質保証のためのモデル。ISO9004は品質管理の何時通則や品質確保のためのシステム確立のための「解説書」であり、ISO9000は9001から9003の使いこなしについて説明した「手引書」なのだという。
「設計開発」とか仕上げに係る「検査」や「試験」という単語からは主に製造業を対象としていることが窺えるが、サービス業などお客様に供給されるものは、何でも適用が可能だという。仕事を網羅的に捉えるISO9001は、「20の要求項目」で構成されていて、各々についての要求水準を全て満たせば、客観的に見て品質が確保された供給体制と言えることになるのだ。
20の要求項目は、実務者の手先の作業の進め方に留まるものではない。大きく4つに区分されていて、最初の4項目は「経営者の責任の達成と基礎体制の整備を要求する項目」てあり、そもそもの経営方針や理念の適正性を浮き彫りにさせる。次いで、「正確なデータと適切な管理を宇休する項目」が4項目、「できばえの基準を設定し、チェックすることを要求する項目」が2項目、「検査の適正実施、検査後の使用を要求する項目」が10項目と、作業途上での点検や仕上がりに向けた出口検査に関して力の入った項目数だ。
「どんな仕事にも通用する客観性ある品質確保のための仕組み」をこのときに初めて認知した私は、霧が晴れるかのような気持ちになったが、具体的に要求項目を読み込むなどしていると、これは簡単に採用できるものではないな…との懸念が大きくなってきた。
製造業を意識した要求項目の文言をどのように職員各々が自らの業務に読み替えていくか。窓口業務を通じて県民へ提供する事柄が明確で分かり易い部署は未だ良いが、道路や河川の補修など考えた時に、それを利用する県民をお客様として捉えて、安全安心に、もしくは快適に利用できるようなものであるための品質確保という、ものの考え方、トランスレートの仕方を県職員にあまねく理解いただけるものであろうか。ましてや、人事財政など内部管理部門では、効果や効率性を高く発揮できる組織体制や人材、財政運営の質の確保という遠くを眺めるようで具体性が示しにくい幅広の概念になってしまう。ISO9001をそのまま導入するというのは現実的には相当な難題と思えた。
更に大きいのが費用の問題だ。職員自身が頭を悩ます難儀ならば、県民は喜びさえすると思われるが、ISO9001を取得するには国際的機関から認証を得る必要があり、県庁全体を対象として考えたときに最低でも1千万円は下らないようだ。更に、品質が確保されているかの恒常性が求めらるわけだから、毎年審査を受けることになり、それに数百万円を要すると見込まれる。公金不適正支出問題を経て始まった新行政推進室の取り組みに、多大な公費を投じることはなかなか通らないであろう。先の職員向けリーフレットも、パソコンと自作イラストを駆使して安価に仕上げていることを通じて、その矜持を内外に示してきたところなのだから。
(「新行政推進室8「恒久的な仕組みを残す~ISO9000s,MB賞~」編(その1)」終わり。「新行政推進室9「恒久的な仕組みを残す~ISO9000s,MB賞~」編(その2)」に続きます。)
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