新潟久紀ブログ版retrospective

新潟独り暮らし時代40「大学の醍醐味のゼミナールを決める(その2)」

●大学の醍醐味のゼミナールを決める(その2)

 新潟大学経済学部において来る昭和60年度の新3年生向けに掲示されたゼミナール受講学生募集一覧。学生に人気か不人気かの噂が飛び交う教授たちと、その演習予定内容が列挙されている中で、最後に記された「鈴木辰治ゼミ」。学友づての事前情報が無い理由はすぐに判明した。当該教授はこの一年間ドイツの大学に客員教授として赴いていて、私の一つ上にあたる新4年生のゼミ員を募集していなかったのだ。
 学友達に一応聞きまわると、教授の人と為りやゼミの雰囲気などを知っている者は皆無。当然そんな得体のしれないゼミに受講希望を出そうという者も周囲には居なかった。「ドイツ帰りの教授ともなると、一切をドイツ語で演習するとか、凄く厳しいことになるのではないか」などの風説を根拠もなくまことしやかに語る輩もいた。
 私は教養課程でバイトにかまけた欠席でドイツ語の単位を一度落としており、第二外国語の単位は必修だったので3年生に再チャレンジする予定でいた。どうせドイツ語を履修するのだから風説のようにドイツ語による演習だとしても平行して学習の相乗効果が上がるのでは…とも考えたが、そんな甘いものではないだろう。やはりこのゼミは選択対象外かと一旦の見切りをつけて踵を返した。
 それでもなんとなく心に引っ掛かりを感じる時が人生にはあるものだ。私の二つ上の学年、つまり、卒業を控えた現4年生には鈴木辰治ゼミの受講生が居るわけだから、ここは直接その声を聞いてみるかと考えた。学友たちが誰も注目せず、芳しい前評判も聞こえてこない、それがかえって元来あまのじゃく的な私の関心のトリガーを引いてしまったのだ。
 こうした時に、サークル活動に在籍していることは、学年を通じた縦割りの情報をたぐれることでも便利だ。就活を終えて一息ついている4年生に聞いていくと、鈴木辰治ゼミを3年生時に受講していた当事者が先輩の中におられたのだ。
 早速、当該先輩が大学の事務局に所用で訪れたタイミングを捕まえ、当時はゆっくり話せるラウンジのようなコーナーは無かったので、近くの空き教室にてお話を聞きはじめた。鈴木辰治ゼミというのは一体どんなゼミだったのか教えを乞うたのだ。
 大学のサークル活動である映画クラブのメンバーの中でも温厚で知的な印象のあるその先輩は、大手製薬会社に内定済ということだった。お喜びを申し上げると、TVコマーシャルなどで名の知れた企業に決まって大いに安堵はしているが、製薬会社というのは、特に親族が中心となっていて非上場の企業では、経営がワンマンがちであったり職員に厳しいところも多いとよく聞くので緊張しているよ、などと眼鏡の奥に穏やかな瞳で答えてくれた。
 そんな優しく誠実そのものであるような先輩は、属していたという鈴木辰治ゼミについて、開口一番「とにかく面倒な事は言わず学生の自主性を尊重する先生だよ」と話してくれた。学生達が自ら課題を掲げて議論して行き、教授は傍聴を基本としつつ適宜口をはさんで指導助言するといった演習の進め方だったという。もちろん全て日本語で行っていたという。
 単に放任ということではなく、学生自身が自分達の頭で考えて真理を追い求めていくこと、教授はそれを助長するものだったという。近年は大学進学率が高まる一方で、大学も高校の延長のようになっているとの指摘があるが、大学における学びの原則を重視している、ある意味古風な先生なのだという。
 これは掘り出しもののゼミではないか。面倒な縛りを嫌い、自由な発意を重んじてくれるゼミで、上級生もいないから新3年生でやりたい放題が目論めるとなれば、しかも応募倍率も低そうということなれば、私の志向には最適のゼミではないか。
 先輩は「但し、就活の面倒見は期待できないよ」と最後に触れたが、就活など恐れるに足らずと決め込んでいた世間知らず怖いもの知らずの当時の私には、迷わせるワードではなかったのだ。

(「新潟独り暮らし時代40「大学の醍醐味のゼミナールを決める(その2)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた独り暮らし時代の思い出話「新潟独り暮らし時代41「鈴木辰治ゼミの一年目(その1)」」に続きます。)
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