のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「宇宙人受難之碑」8

2017-08-01 08:10:06 | 小説
 1.5ボックス車が突き破ったガードロープの手前で軽自動車が急停車。運転席から往路も運転していた男が、助手席からは往路は後部座席に乗っていた女の子が出てきました。運転していた男は、崖下を見て嘆きました。
「な、なんてことを・・・」
 と、崖下から先ほどの黒装束の男が急浮上してきました。男はフードをかぶってません。単眼ドクロの顔が丸見えです。2人の顔は一瞬にして恐怖にひきつりました。
「な、何、これ?」
 黒装束の怪物は思いっきり鎌を振り上げました。どうやら運転してきた男を狙ってるようです。
「や、やめろーっ!」
 運転してきた男に鎌が振り下ろされました。すると男の身体に衝撃が走りました。
「うぐっ!」
 男は倒れました。怪物は今度は女の子を見ました。女の子の顔は恐怖にひきつってます。
「あ、ああ・・・」
 女の子は逃げようとしましたが、ヘビににらまれたカエルか、身動きが取れません。女の子はとっさに両耳をふさぎ、小さくうずくまって、ただひたすら叫び続けました。
「やめて! やめて! やめて! やめてーっ!」
 怪物は振り上げた鎌を女の子に振り下ろす体勢でしたが、その動作を止めました。どうやら怪物はちょっと笑ったようです。そして黒いフードをかぶりました。すると怪物の身体は微粒子のようになり、細かく散って消えてしまいました。

 テレストリアルガードサブオペレーションルーム。隊長が例の小石を巾着のような袋に戻しました。そしてこうつぶやきました。
「ふっ、ちょろいもんだ」
 と、隊長の背後に赤い何者かがいます。隊長ははっとして振り返りました。そこには赤いマントをかぶった7歳くらいの女の子が立ってました。頭にはマントと一体になったフードがあります。そのフードを深くかぶってるせいか、顔は見えません。隊長はあせりました。
「お、お前?・・・」
「あなたは殺し過ぎました」
 と言うと、少女は弓矢を構えました。
「な、なんで? なんでだよーっ!」
 と言うと、隊長は急激にバック。が、すぐに壁に詰まりました。女の子は弓矢を構えたまま、ゆっくりとゆっくりと歩いてきます。
「やめろーっ!」
 女の子が矢を放ちました。その矢が隊長の耳をかすめ、壁に刺さりました。材質的には矢が刺さるような壁ではないのですが、なぜかぐさっと刺さったのです。さすがの隊長も、恐怖で顔がひきつってます。女の子は赤いフードに手を伸ばし、そのフードを取りました。なんとその女の子も単眼でした。
「ふふふ、次ははずさないよ」
 というと、女の子の姿は微粒子のようになり、細かく散って消えてしまいました。同時に壁に刺さった矢も微粒子のようになり、消滅しました。隊長は腰砕けになってしまいました。
「ああ・・・」

 それから1週間後、明るい陽光の高速道路を走る1台のセダンタイプのクルマがあります。テレストリアルガードのカラーリングが施されてるところを見ると、テレストリアルガード所有のクルマのようです。
 その車内です。運転してるのは寒川隊員、助手席には香川隊長が座ってます。この2人はテレストリアルガードの隊員服を着てます。後部座席には女神隊員と先日女神隊員に痛い目に逢わされた男がいます。顔などを見ると、けがはほぼ全快してるようです。男は物珍しそうに流れてる光景を見ています。ちょっと声が漏れました。
「あ、ああ~」
 女神隊員はいつもの白いワンピース、白い巨大な帽子をかぶってます。前髪のウィッグも見えます。流れる光景を楽しそうに見ている男を見て、女神隊員はちょっと笑ってるようです。
 運転してる寒川隊員は横目で隊長を見ました。
「隊長、ここんとこずーっと顔色悪いですよ。病院に行った方がいいんじゃないですか?」
 隊長はぽつりと言いました。
「うるせ」
 セダンがインターチェンジで降りました。そして一般国道を走り、狭い道を走り、急な坂道を登り、じょんのび家族の門の前に着きました。後部座席のドアが開き、男がセダンを降りました。園内で遊んでいた子どもたちがそれに気づき、わっと集まってきました。
「あ、お兄ちゃんだ!」
「お兄ちゃん!」
 男はあっという間に子どもたちに取り囲まれてしまいました。が、たまたま通りかかった人が男を見て、びびりました。
「お、おい、エイリアンじゃねーか!」
 寒川隊員はその人に、
「いや、彼は本物ですよ」
 隊長がさらに続けました。
「実は1ケ月前から宇宙人と入れ替わってたんですよ。ここでようやく本人を見つけ出し、解放することに成功したんです」
 通行人は関心しました。
「ああ、そうだったんだ」
 テレストリアルガードは相変わらず口は一流のようです。
 騒ぎを聞いて女性職員が出てきました。女性は男を見て、思わず感激しました。
「ああ、帰ってきた・・・」
 男も女性に気づきました。その場で2人は抱き合いました。女神隊員は帽子を取り、その女性に深々と頭を下げました。
「すみませんでした」
 その瞬間、女性は今目の前にいる女がヘルメットレディだと気づきました。反射的に思いっきりぶん殴りたくなりました。でも、頭を上げた彼女を見たとき、その思いはなくなりました。ウィッグの透き間からありえない場所に瞳が見えたからです。女性はこの女も宇宙人なんだと理解したようです。隊長はそんな女性に話しかけました。
「彼をテレストリアルガードの隊員に登録しました。もう警察を怖がる必要はないですよ。もちろんこの先ずーっとここにいても、何も問題ありません」
 女性はその隊長に頭を下げました。
「あ、ありがとうございます。彼はずーっと警察を怖がってました。これで正々堂々街を歩くことができます」
「いや、外を歩くのはちょっと・・・」
「あは、そうですか」
 女性はちょっと赤くなりました。隊長は女神隊員と寒川隊員を見ました。
「じゃ、行こっか」
「はい」
 セダンが走り始めました。その車内です。助手席の隊長が発言しました。
「女神隊員」
 後部座席の女神隊員がはっとしました。隊長はさらに発言を続けました。
「給料使ってる?」
「使うひまないですよ。外出できないし、文字が読めないから、ネット通販もできないし・・・」
「じゃ、あんたの給料を半年分じょんのび家族に廻しても、なんの問題もないな」
 女神隊員は微笑みました。
「はい」