のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「神の国を侵略した龍」5

2017-08-25 09:57:19 | 小説
 ここは郊外の病院、いや、診療所です。小さい個人経営の診療所のようです。今ここの病室のベッドで1人の女が目覚めるところです。
「うう・・・ こ、ここは?」
 女は怪獣に変身してた女でした。まだかなりきついようです。それでもなんとか立ち上がろうとしました。しかし、立てません。
「くっそー・・・」
「どうした?」
 その突然の声に女ははっとしました。ドアのところに医師らしき人影があります。男性にも女性にも見える医師。髪はショートだけどポニーテールなところを見ると女性のようです。年は30歳未満。女医さんらしく、メガネをかけています。女はその女医さんにぶっきら棒に話しかけました。
「あんた、誰?」
「小林クリニックの医者」
「なんで私はここにいる?」
「昨日うちに運ばれてきた」
「なんで?」
「覚えてないのか?」
 女はうなずきました。
「まあ、覚えてないだろうなあ・・・ 昨日渋谷で怪獣が出た。これは覚えてない?」
「覚えてる」
「あんたはガレキの中から発見された。これは覚えてない?」
「なんとなく覚えてる」
「ここからかな、覚えてないのは? あなたは救急車に乗せられた。でも、他の病院はすでに満ぱいで、ここまで運ばれてきた」
「そして一晩ここで過ごしたのか?」
「正解」
 女医さんはここでちょっと時間を置き、発言しました。
「あんた、地球人じゃないよね。内臓の構造が私たちとまるっきり違う」
 女は特に反応しません。
「残念だけど、私はテレストリアルガードか警察に通報する義務がある」
 女は今度は不快な顔を見せました。
「やめて」
「やめてって言われてもねぇ、これは義務なんだ。もし通報しなかったら、私、医師免許取り上げで、明日っから喰っていけなくなるんだ」
「やめてったら、やめて!」
 女は怒鳴るように発言しました。ちょっと時間を開け、今度は女医さんが質問しました。
「じゃ、訊くわよ。あんた、いったいなんなの?」
「私は・・・ 私は昨日渋谷で暴れたドラゴン・・・」
「はぁ?」
 女医さんは唖然としてしまいました。女医さんはこの女は5年前地球を襲ってきたユミル星人の兵隊の生き残りだと思ってたからです。でも、すぐに納得しました。
「そっか、これであなたの創傷の意味がわかった。あの創傷の原因はミサイルだったんだ。でも、巨大化する宇宙人は知ってたけど、巨大な怪獣に変身する人間がいたなんてね・・・」
「別に巨大化してたんじゃない。今が小さくなってるだけだ」
「そっか・・・」
「通報するのか?」
「しない」
「なんで?」
「宇宙人だったら通報義務があるが、怪獣に変身する人間は通報する義務はないから」
 それを聞いて女は、ちょっと笑いました。

 渋谷で怪獣が暴れた事件をいつの間にか人々は渋谷怪獣事件、またはただ単に渋谷事件と言うようになりました。その渋谷事件から2日後、小林クリニックに入院中の女は今ベッドの上で半身起こされてます。上半身は包帯でぐるぐる巻き状態です。女医さんがその包帯を解いてます。包帯が解かれると、背中にいくつかのガーゼが出てきました。そのガーゼを外すと、その部分の皮膚は裂け、中の肉もえぐれてました。女医さんがその傷に霧吹きのようなもので薬を吹きかけました。その瞬間、女にひどい傷みが走りました。
「いた・・・」
「我慢しろ。お前、ほんとうは巨大なドラゴンなんだろ?」
 再び包帯を巻いて、今日の治療は終了。ここで女が女医さんに質問しました。
「なんで私を助ける?」
「きまぐれ」
「私はお前の同胞を1000人以上殺したんだぞ」
「別に私の親族が殺されたわけじゃないんだ、無関係」
 この件に関しては、女医さんから明確な答えは得られないようです。女は質問を替えることにしました。
「この国には神がいるのか?」
「いたな、昭和20年、西暦1945年までは。あまり役に立つ神じゃなかったが」
「今はいないのか?」
「いない」
「一昨日巨大化して私と闘った女は、女神と言われてた」
「女神?・・・ ヘルメットレディのことか?」
「あいつ、ヘルメットレディというのか? 私は女神と聞いたぞ。ヘルメットレディてなんなんだ?」
「地球の守り神みたいなものだ」
「守り神? やっぱり神じゃないか」
 女医さんは「それは比喩的表現だ」と言おうとしましたが、話がややっこしくなりそうなので、やめておきました。
 女はふとマガジンラックに入ってる新聞を見ました。
「あっ、それ取って」
「これか?」
 女医さんは女に新聞を取ってあげました。女がその新聞を広げると、その1面には、大病院のエントランスの前で子どもたちに囲まれてる女神隊員の写真が。女医さんはそれを横目で見て、
「そいつがヘルメットレディだよ」
「あは、やっぱり人気があるんだ・・・ とっても凛々しくて、みんなに尊敬されてるんだろうなあ・・・」

 一方こちらは大病院に入院してる女神隊員です。女神隊員はドクターストップがかかってるとはいえ、元気いっぱい。医師にそれをアピールするため、医師が診断に来る時間に合わせストレッチ体操を始めました。で、医師がやってきて、やっぱり怒られました。
「困りますねぇ・・・」
 女神隊員はとても小さくなりました。
「あは、すみません・・・」

 渋谷事件から3日目・4日目・5日目・・・ そして7日目。今日も怪獣の女は治療を受けてました。今その治療が終わったところです。
「今日から包帯はいらないな」
「出てってもいいのか?」
「おすすめできないな」
 おすすめできない=命の保証はできないが、退院しても構わない。女はそう解釈しました。女は女医さんに質問ました。
「もう1度訊かせて欲しい。なんで私を助けた?」
「きまぐれ」
 やっぱり真面目に応えてくれそうにないようです。女は黙ってしまいました。すると今度は女医さんの方から質問してきました。
「じゃ、私から訊いていいかな? なんで渋谷を壊した?」
「壊したかったから」
 女も真面目に応える気がないようです。女医さんはちょっと気分を害したようです。いや、そのふりをしたようです。
「私はあなたの命を助けたんだ。少しは見返りがあってもいいんじゃないか?」
「わかった」
「じゃ、もう一度訊くよ、なんで壊したんだ?」
「壊したかったからさ。私はいろんな次元に行って、その土地の町を破壊して、その土地の軍隊を潰すことに興味があった」
「すごい趣味だなあ、おい。今まで負けたことはなかったのか?」
「なかった。今まですべての町を破壊できた。もちろん、逆襲されたこともあったが、それでも最後は屈服させた。こんなに逆襲されたのは初めてだ」
「そんなに破壊して、何が楽しいんだ? 最終的には何をしたかったんだ?」
「神の国を壊したかった」
「はぁ?」
 女は視線を上の方に向け、
「私が住んでた次元では、生物の頂点は我々ドラゴンだった。人類は数が少なく、力が弱かったから、相手にすらならなかった。が、人類はあっという間に増えて行き、科学技術も向上させ、いつの間にか我々を脅かす存在になっていた。
 ついに一部地域で我々と人類が衝突し、それがきっかけで全面戦争に突入した。戦況は我々に有利だったが、神が人類に協力するとあっという間に形勢が逆転し、結局我々のリーダーが敗北を宣言し、我々は片隅に追いやられた。私はそれに納得しなかった。私は時空に穴を開けると、別の次元に逃走した。
 その次元では人類が平和に暮らしてた。私はその光景が許せなかった。怒りを爆発させた私は、人類の町を破壊して破壊して破壊しまくった。ある程度破壊し尽すと、私は納得し、別の次元に飛んで行き、その町も破壊しまくった。その町を破壊し尽すとまた別の次元に飛んで行き、その町も破壊し尽くした。
 でも、どんなに破壊しても、私の心は晴れなかった。いつかは元の世界に戻って、あいつらを屈服させたい。あいつらを屈服させたら、今度は神の国に行って、あいつらに協力した神をぶっ潰したい。それが今の私の夢だ」
「ほんとうに神の国なんてあるのか?」
「あるじゃないですか、ここに」
 女医さんは少し笑いました。
「そっか」

※8月26日このページの最後の部分を大幅に添削し、再UPしてます。