人形と動物の文学論

人形表象による内面表現を切り口に、新しい文学論の構築を目指す。研究と日常、わんことの生活、そしてブックレビュー。

シラバス案公開その1:「古典への招待」「中古作品購読」

2014-12-30 11:13:59 | シラバス案
ふと思い立って、むかし就活用に作ったシラバス案を公開することにしました。
慌てて就活用に作ったものなので、今思うと日本語のおかしな部分や、乱暴な部分、ちょっと対象に合わないかな、と思う部分もありますが。参考までに。
結局不採用でしたが、教育歴のない私を面接まで連れていってくれたシラバス案なので、評価は悪くなかったんだと思います。
ブログのフォーマット上表などを張り付けられないため、ちょっと見にくいですが…

*この大学では全15回の授業のうち、4回目まで書くよう指定されていました。

――――――

①授業計画 古典への招待(2年生配当)
■授業概要、方法等
一文一文品詞分解し、丁寧に逐語訳するのが高等学校における古典の授業であった。その結果、全体の流れが分からなくなってしまった人も多いと思う。しかし、文学作品を読むためには、全体の流れを把握しつつ部分に注目することが重要である。そのためには、問題意識を持ちながらテクストに臨む姿勢が大切である。本講義では、問題意識のひとつとして、妊娠・出産等生殖にかかわる意識をとりあげ、『源氏物語』を中心にいくつかの古典作品を読む。
 近年児童虐待が問題となっているが、バースコントロールが不十分であった時代には、子捨てや間引きが普通だった。身体的な苦痛や死亡率の高さを考えると、妊婦自身が出産を喜ばしいと思うことはむしろ不思議に思える。現在においても死の危険がある以上、個の生命よりも社会の存続を重んじる感覚がなければ肯定的に感じることはできない。女性史の分野においては、母性愛は近代になってつくりだされたものだと言われている。本講義では古典作品における妊娠や出産に対する否定的な感覚を中心に扱うが、現代社会における「母性愛」の問題にも敏感になることができる。
 授業は講義形式だが、適宜質疑応答を行う。                      
■到達目標 古文を楽しみながら大まかな流れをつかみ、自分なりの問題意識を見出すことができる。 

■教科書・参考文献
(教科書)授業中に資料を配布する。                        
(使用テキスト)角川ソフィア文庫『源氏物語』                     
(参考文献)小嶋菜温子『源氏物語の性と生誕―王朝文化史論』

■授業内容(第4回まで)
【第1回】ガイダンス、授業の進め方、レポートの書き方及び評価方法。
「古典」の定義。                                   
生殖に関わる歴史及び近現代文学における出産嫌悪について概観する。
【第2回】『源氏物語』以前。                            
『竹取物語』:かぐや姫が結婚せず昇天したこと、                            
『大和物語』155段:女君が妊娠中に入水したことに注目する。
【第3回】『源氏物語』① 
『源氏物語』における妊娠・出産の描写を概観し、女三宮が出産そのものをおぞましく感じ出産によって衰弱した「ついで」に死にたいと思うことに注目する。
【第4回『源氏物語』② 
女三宮と、子を産まないものの育てる紫の上、妊娠した時点では嫌悪するものの出産後子に対する「愛情」のようなものを抱く藤壺とを比較し、紫のゆかりと呼ばれる女君の問題として生殖を考える。

―――――

②中古作品購読(2年生配当)
■授業概要・方法等
『源氏物語』横笛、鈴虫巻を、注釈、現代語訳及び研究史のポイントが丁寧に説明されたテキストを使用し、購読する。これをとおし、物語の細部に着目しながら自分なりの読みを組み立てる力を身につける。
 具体的に読み進める前に、簡単なあらすじと研究史を学習し、自分なりの読みを展開するために、担当者の読みを参考にする。担当者は特に女三宮に注目してきた。研究史の中で、女三宮の登場が六条院世界(主人公である源氏や紫の上の世界。六条院は源氏が造った広大な邸宅)や物語のありようを変容させたと言われているが、女三宮は「内面」を語らない女君であると言われる。しかし、女三宮の心内語(心の中のことば)や心情に添った描写、会話文などは少なくない。それゆえ、なぜ女三宮のことばが「内面」と見られてこなかったのかを、源氏や紫の上のことばと比較しながら考える。 横笛巻、鈴虫巻に関しては、特に和歌表現(朱雀院と女三宮の贈答、源氏と女三宮の贈答)に着目する。
 授業は講義形式だが、適宜質疑応答を行う。
■到達目標 古文を解釈する能力を身につけるとともに、研究史を批判的に読む態度を身につける。一つ一つの表現に注意して文学作品を読むことができる。

■教科書・参考文献
(教科書)『源氏物語の鑑賞と基礎知識 横笛・鈴虫』至文堂
 適宜授業中に資料を配布する。

■授業内容(第4回まで)
【第1回】ガイダンス、授業の進め方、レポートの書き方、評価方法。
あらすじ、登場人物等の説明。『源氏物語』第二部の説明。
古典を「読む」ときの二つの立場。「内面」を切り口とした『源氏物語』の研究史。
【第2回】若菜巻。
柏木事件による変化に着目する。
結婚当初女三宮は思ったことを思ったまま口にしていたが、柏木事件によって「憂き身」の意識、源氏に知られることによって「われ」の意識が発生する。
【第3回】柏木巻。出家による変化に着目する。
出家場面および、女三宮が「もののあはれ知らぬ」ことに注目する。
【第4回】横笛巻①。教科書22~32頁2行
朱雀院から山菜が贈られてくる場面、女三宮と朱雀院の贈答を中心に読む。

――――――
ちなみに①の内容は拙稿「『源氏物語』の生殖嫌悪―女三宮の出産嫌悪を中心に」(『古代文学研究 第二次』第16号、2007年10月)、②の内容は「女三宮のことば―『源氏物語』の時間と内面」(『日本文学』2008年12月号)および「『源氏物語』女三宮の自己意識」(『日本文学』2009年9月号)と関わっています。


最新の画像もっと見る