松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆町村総会の制度設計(三浦半島)

2017-05-27 | 1.研究活動
 忙中閑で、町村総会に引っかかった。

 連れ合いが、友だちと湯河原に行ったので、朝から夜中まで、本を読み、ネットで調べ物をしている。私が家にいるので、マロンも安心して、良く寝ている。

 書いている本の関係で、信託論の深みにはまり、ジョン・ロックから、ヒュームへと関心がどんどんと広がっていった。ロックのキーワードは、信託や同意であるが、これを批判的に検討するのに、ネットで調べると、みなの関心がよくわかる。ネットでは自治基本条例反対派の人たちのうち、自分なりに考える人たちは、ロックに行き当たり、批判的に見ているようだ(まるで考えない反対派は、コピペの同じ文書ばかり)

 そんな中、横浜市の連続講座のテキストをつくり直そうと、見ていたら、町民総会で止まってしまった。人口400人の高知県大川村で、村議会(定数6)を廃止して、有権者が村政を直接審議する「町村総会」の設置を検討しているという記事を思い出し、ネットで調べてみた。

 新聞記事等によると、大川村では、議会を廃止して、町村総会を導入するような勢いであったが、ネット記事によると、研究している段階で、むしろ導入は難しいとの感じのようだ。町村総会は、地方自治法の議会の規定を当てはめることになるが、微に入り、細にいる地方自治法の規定をそのまま当てはめたら、面倒くさくて、それならば、ともかく、誰かを議員にした方がいいという結論になるだろう。

 町民総会は、直接民主制の極みで、理念的には崇高であるが、直接民主制が機能するのは、ワンイッシューで、住民が素朴に考えることができるテーマでないと難しい。これは私たちの日々の暮らしを見ればすぐに分かる。ゼミのシンポジュームでもそうだが、それぞれ担当を決めて、その人に委ね、共有すべきことや、みんなで考えるべきことについてのみ、みんなで考える。議会がやっている細かいことまで、すべてやるようにしたら、定足数など、あっという間に満たさなくなる。委任状ばかりの総会になってしまう。

 町村総会については、田中孝男さんが、ずっと以前に、論文を書いている。さすがである。ほかには、日本で唯一の町民総会である東京都八丈支庁管内宇津木村のケースをフォローした論文がある。とても面白かった(私には、とても、こんな地道な調査はできない)。

 この制度のポイントは、制度そのものは熟議の民主主義であるが、実際の運用の中で、それができるかどうかである。誰も本音を言わないシャンシャン総会,一部リーダーの専横が容易に見えてくる。理想的な制度は簡単につくることができるが、現実には、ひどい制度となって動きそうである。熟議の民主主義は、私の専門であるが、400人もメンバーがいて、常設の会議で、テーマも技術的なものも含まれると考えると、正直、うまく進める自信がない(逆に言うと、運営のプロを雇って、町民総会を動かすというのが現実的な対応かもしれない)。

 大川村では議員のなり手がないというが、ここで働く若者の多くが、安定した職を辞めて、月給15万円の議員にはならないということである。ほかに仕事を持っていても、議員の仕事ができるような議会運営とするほか、議員の兼職要件の緩和、裁判員のように議員を当てる制度など、議員のなり手を広げる方法へ制度変更していくのが、町村総会よりも筋がいいだろう。

 散歩に出かけたら、マロンが車に吠えかかった。たしかに、巨人が現れたように見える。
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
田中さんの論文 (imai)
2017-05-27 12:25:17
こんにちは。
町村総会の件、私も気になったので、先日、国会図書館に行った際に田中さんの論文を読みました。難しかったですが、大意としては町村総会が現在の議会の機能をまるごと代替するのは困難であると理解しました。おっしゃるように、議会運営の改善なり、無作為抽出方式などの方がリアリティがありますね。
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複雑になっているのですね (マロン教授)
2017-05-27 16:45:58
こんにちは

自治体学会の公募論文ですね。田中さんも自治体出身なので、奇をてらった、言ったもの勝ちのような論文は、書かないですね。

住民は集まらなくてもよいネットを使えとか、情報が住民全体に行くようなシステムを用意すべきだとか、絵はいくらでも書けるけど、コストばかりかかり、使いこなせないですね。

地区の区長さんが集まった会議をつくって、それを信任投票して、代表制を確保し、それを議会代わりにした方が、実践的ですね。

要するに、地方自治制度の仕組みは画一的過ぎて、もてあますところがたくさん出ているということです。

憲法改正するなら、地方自治です。
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