松下啓一 自治・政策・まちづくり

【連絡先】seisakumatsu@gmail.com 又は seisaku_matsu@hotmail.com

☆指定地域共同活動団体に関する論評をヒントに・条例で書くべきこと等③

2024-08-15 | 指定地域共同活動団体
 ネットで見る程度であるが、指定地域共同活動団体に関する論評が出始めた。それをヒントに指定地域共同活動団体の条例を考えた。

1.赤旗 2024年8月8日
 指定地域共同活動団体への意見募集の紹介記事のなかで、 「地域の団体が公共サービスを行政から請け負う末端組織となり、住民の自主的な活動を阻害することなどが懸念」「年内にも全国の市町村議会で条例が提案されることも見込まれ、住民の声を反映した慎重な議論が必要」としている。

 行政の末端組織に堕してしまう危険は、その通りだろう。今回は、意見募集の紹介であるが、次は、問題提起だけでなく、①住民の自主的な活動を促進するにはどうしたらよいか、②住民の声を反映した慎重な議論とは、どうやったらよいのか、それを示してほしい。

2.自治労通信デジタル版 2024年5月 No.815 
 タイトルは、「かなり「危ない」自治法改正案」市町村長が指定する団体にさまざまな特権?となっている。今回の地方自治法の改正に関連して、指定地域共同活動団体についても簡単にふれている(以下のタイトルは私がつけた。「 」は引用)。

(1)行政活動の一部に組み込まれる危険
 「最近、総務省は地域運営組織づくりに力を入れています。確かに人口減少社会を迎えると、地域の支え合い組織でもあった農協なども地域から撤退し、農業などの生業支援はもとより、売店やガソリンスタンドなどの事業活動や金融機能も地域から失われていきます。国策として進められた市町村合併によって役所も地域から撤退し、地域内の人口減少を加速させています。こうした事態を補完するために、一部地域での成功事例を全国化しようと地域運営組織づくりが唱えられてきたのかもしれません。
 ただし、総務省が公表している地域運営組織は全国で7,710団体もありますが、主たる構成員は自治会・町内会や民生委員・児童委員で、「市区町村からの助成金・交付金等」を収入源とする団体が84.5%というのが実態です。今回の改正案では、こうした地縁による団体やその他の団体を「指定地域共同活動団体」として市町村長が指定し、その団体に数々の特権を与えようとしています。でもこれでは自発性や直接性に魅力がある地域活動を行政活動の一環に組み込むことになります。」

 行政の一部に組み込まれる懸念については、私も同感で、そうした危惧はあると思う。問題はその次で、
 ア.だから、この制度はダメだと考えるのか。その場合、「地域の支え合い組織」に対して、行政は、どう対応すべきなのか、それが問われると思う。
 論者は、「一般的に公共私連携が大切であることは当然ですし、現に地域社会は多くの人たちの大小さまざまな支え合いで成り立っています。ただしこれらの行為は、自分が支えたい人を支えるという自発的な志に基づいています。だからこそ社会的な活力を持ち、しかも持続性があるのです。政治や行政はこうした支え合いと並走しつつ、そこから漏れる人たちを公費で支えるのが使命です。そのために市民は政治や行政という仕組みを維持しているのです」と書いている。「政治や行政はこうした支え合いと並走しつつ、そこから漏れる人たちを公費で支えるのが使命」としていることから、地域組織等への財政的支援等については消極的・否定的なのだろう。

 一つの考え方ではあるが、これが地域のニーズにあっているのか、地域の自治体から共感を持って迎えられるのか疑問に思う。

 イ.私は、たしかに危惧があるかもしれないが、だからと言って、もはや手をこまねいているわけにはいかず、積極的なかかわりが必要であると考えている。
 その理由はいくつかあるが、何よりも、法による支配と手続的適正が求められる行政では、手が及びにくい問題領域(孤立死、空き家問題等)が広がっていて、そこに今日の自治をめぐるさまざまな課題が集積しているからである。

 たとえば、孤立死であるが、そもそも一人でいることは一方では権利である。中国ならば、この権利を乗り越えて、行政が介入するのは許されるかもしれないが、一人ひとりの価値を尊重することを基本とする日本ではハードルが高い。「一人でいるのは権利である。なぜ干渉するのか」と言われたら、公務員はたじろぐだろう。行政が踏み込むとしたら、情報が必要で、一人ひとりを「注視=監視」するシステムも必要になってこよう。中国ならいざ知らず、日本なら、一義的には私的世界における住民間の注視=見守りしか方法がないだろう。

 そうした民間の力を維持していこうと言ところに、今回の改正法の意義があり、考えられるひとつの方向性だと思っている。しかし、たしかに、行政に一部に組み込まれる懸念はそのとおりなので、ではどうするのか。その懸念をどのように振り払うか、対案を示して、住民の不安を解消するのが自治体の役割だろう。それが住民のニーズに合致していると思う。そして、案を示して、それを後押しするのが研究者の役割と私は考えている。その具体化が、指定地域共同活動団体の条例である。

(2)指定される団体とされない団体の不平等
 「さらに、指定される団体と指定されない団体、あるいは指定を希望しない団体というように地域団体に「差」がつけられ、かえって地域活動全体の活力を失わせてしまうのではないかと危惧しています。」

 指定を受けないのもひとつの権利であり、自由な選択のひとつである。指定されようと考える団体もあり、また指定されないまま活動しようという団体もあるし、指定に向かって形成途中の団体もあるだろう。すべてを同一に考える必要はないだろう。
 指定を受けていない団体も、公共の担い手だから、それぞれの事情に応じた「支援・後押し」をすべきである(これまでもやってきたので、指定地域共同活動団体制度ができたからといっても、その延長線でやればよい)。
 指定地域共同活動団体に関する条例には、指定を受けてない団体への後押しに関する規定を盛り込む必要があるだろう、ここが大事なところである。

(3)調整をめぐって
 「指定地域共同活動団体に与えられる特権のうち最大のものは、同じような活動をしている団体との「調整」を市町村長に求めることができ、なおかつ市町村長はそれに応じる義務があることです。
 この場合の「調整」という意味はわかりにくいのですが、地方制度調査会の答申や議論では「意見具申権」が例示されていました。つまり、指定された団体は市町村長に対して意見具申できる権限が与えられ、市町村長はそれに応じることが議論されていたのです。
 逆に考えると、指定されていない団体や市民は市町村長に何も言えないのか、言えたとしても市町村長は応じなくてもいいのかということになってしまいます。これは民主主義の根幹から大きく外れます。」

 指定されていない団体だからと言って、市長村長に何も言えないということはない。市民参加の原則で、これまでも行われている。指定団体に意見具申的なものが認められたということは、法の仕組みとして認められただけである。必要があれば、指定を受けていない団体の意見を言える機会を条例の仕組みとして、認めればよいというだけである。
 ここでも、指定地域共同活動団体に関する条例には、指定を受けてない団体へ調整に関する規定を盛り込む必要があるどうか考えどころだろう(そうした窓口やルートを整備するという規定は十分考えられるだろう)。

(4)特権を与えることになる
 「たとえ「調整」であっても市町村長が自ら指定する団体に対して特権を与え、その他の指定されていない団体や市民との間にランクの違いを設けることに変わりありません。そもそも指定の手続きが明示されていないので、単に市町村長の決定だけで指定されてしまう余地もあります(指定管理者の指定には条例制定や議会の議決などの手続きが定められています)。」

 ・公益性の高い指定団体に、一定の「特権」を与えることは、いくらでも例がある。自治体は、指定NPOに対して、住民税の免除という特典を与えている、これは高い公益性に着目しての話である。これは「特権」なのだろうか。むろん、公益性も乏しい団体に特典を与えたら確かに問題であるので、そうならないように仕組みを作るのが自治体の役割である。

 ・「指定の手続きが明示されていないので、単に市町村長の決定だけで指定されてしまう余地もあります」。この記述は、理解できない。国に頼らず、自治体独自で、それぞれの自治体にふさわしいルールを決めていくのが、地方自治ではないか。これではまるで、自治体は、そんな能力はない、安易に流される、だから国が手続きを示せといういい方になっていないか。
 研究組織がやるべきは、自治体がきちんとルールをつくれるように、住民の利益になり、自治が推進される指定手続案を示していくことではないか。それを示すのがこの条例づくりではないか。

(5)指定される団体の要件
 「指定される団体の要件も気になります。かなり厳格なようにも見えますが、一方では「一定の区域に住所を有する者を主たる構成員」とするという曖昧さも備えています。公共私連携ですから企業などの法人も構成員として排除されていないように見えます。その地域に属さない人たちや東京に本社のある企業なども構成員になれるようです。おそらく地域力の低下を一番実感しているに違いない自治会・町内会が主たる構成員ですから、地域外の有力な企業が参加してくれたら組織の運営にも力になるはずです。では、そういう人たちに特権として優先的に契約をしたり行政財産を無期限で貸し付けたりすればどういう結果をもたらすでしょうか。市民自治の観点からも、実利の観点からも、大きな問題を抱えているように思います。」

 懸念はその通りなので、そうならない考え方、具体策を示す必要があるように思う。

(6)まとめ
 ・そういう意図ではないかもしれないが、全体に「国依存」の雰囲気が感じられる。この改正法は、大枠だけを示し、あとは自治体に委ねている。国では決められないし、決めるべきではない。自治体が、自治の推進にとってふさわしい内容をいくらでも盛り込めるつくりになっていると思う。
 ・最近、とみに政策法務が当初のダイナミズムを失ってしまった。ここはがんばりどころではないか。
 ・よかったことは、一定の「懸念」を表明している論考から、指定地域共同活動団体条例で、規定すべき事項が明らかになったことである。
  ①指定地域共同活動団体以外の取り扱い
  ②この条例策定プロセス。市民協働型立法になる。その策定プロセスが、地域を盛り上げる機会とすべきだろう。
  ③指定される団体の要件 自治体ごとの事情を踏まえて、知恵を絞るところだろう。これについては一部すでに書いた
  ④あらためて、この条例は施行条例ではなく、基本条例型にすべきなのだろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆指定地域共同活動団体の条例... | トップ | ☆指定地域共同活動団体の条例... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

指定地域共同活動団体」カテゴリの最新記事